第20話 話について行けないとなんかムカつくって奴ですね、分かります

突然の前前世の知り合いハニ子の登場、怒涛の説明と状態の確認、そして完全に放置される精霊様と妖精様とエルフさん。


“フヨフヨフヨ、ポテッ”

「全く話が見えないぞ~!!ノッペリーノ、ちゃんと分かる様に説明しろ~!!」

フラフラと俺の頭の上にパイルダーオンされた精霊様、髪の毛を引っ張りながら荒ぶっておられます。

まぁ気持ちは分からんでもない。仲良しの友達とおしゃべりで盛り上がってたら突然脇から知らない子がやって来て、その仲良しの友達と昔話で盛り上がり始めちゃったみたいな?

目茶苦茶アウェー感って言うか“無視すんなこの野郎!!”って感じ?


「ハイハイ分かりましたから頭の上で暴れるのは止めてください。エリーゼさんと妖精様、マルベールさんでしたっけ?

何か突然すみませんでした、こいついつも空気を読まないんですよ。読めないんじゃなくて読まない、唯我独尊って奴ですね、それを押し通すだけの実力があるから質が悪いんですが。

まぁいきなり暴れたりしないんでどうか落ち着いてください、それとお茶のお代わりをお願いします」


俺はそう言うと全員に席について落ち着くように促した。

精霊様、お席に・・・頭の上が指定席なんですね、分かりましたから髪の毛を引っ張らないでください。


「それでまず大前提として俺は転生者です。所謂前世の記憶持ちって奴ですね。これって色んな世界でよくある事らしいです、その世界の中で死んで遥か未来に転生する場合もあれば全く異なる世界からやって来る魂もある。

世界が無数に存在するって事は過去に異世界召喚なんてものが行われていたこの世界では普通に理解されている事と思います。

そんで俺はこの異世界転生って奴を少なくとも三回している。

記憶にある一番古いものはその世界で普通に家庭を作り病気か何かで突然死した自分です。次の世界では多くの家族に囲まれ寿命で亡くなった後、魂が育ち過ぎたと地獄に送られ摩耗させてから輪廻の輪に入れようとしたら、逆に強靭になってしまって人妖っていうよく分からない存在になってしまった自分ですね。

三つ目の世界はこの世界、もっとも最初は世界の修復材として呼ばれたのか世界の壁のような存在になっていましたが。今でもよくその事を自覚出来たものだと思います。本気で何もなかったですから。前の世界での様々な経験が無かったらとっくに廃人になって自我を失ってそのまま世界の壁になってるか、人に転生しても前の記憶は失っていたでしょうね。

無論桃ちゃんが守ってくれていたであろうこともありますが、様々な偶然が重なって今の俺、ノッペリーノは存在してるんです」


“スーーッ”

あ~、スッキリする。ミントティーって結構おいしいな。なんか知性が上がった気がする。・・・気のせいですか、そうですか。


「次にこちらの神性存在、所謂神ですが、導きの神“ハニ子”と言います。このハニ子は前の世界の俺が偶然発見した人型、人造人間の身体を手に入れた事で生まれた神様ですね。

それこそ完全に偶然です、様々な経験を積む中で神力を手に入れて信仰されて神に至った。元々の肉体が人造人間ですから能力が高く造られていた事もありその力は強大、向こうの世界でもかなりの影響力を持つ神様になってしまったって訳です。

言わば肉親みたいな物、元々は分身みたいな存在でしたから今でもこうして気に掛けてくれているって訳です。

他にも何柱かの神と契約してましたから、以前の俺って相当目茶苦茶な存在だったんだと思います。


この世界に来た経緯としては完全に憶測になりますが、約三千年前に起きたとされる魔王勇者連合対この世界の創造神との戦いが原因でしょう。おそらくですがその創造神、この世界と人間を使って魔王と勇者を戦わせる遊びでもしていたんじゃないんですかね?

それまでは定期的に出現していた魔王がその戦い以降ピタリといなくなったのがその証拠でしょう。神様ってよくやるんですよ、人間を使った質の悪い遊び。

神様の寿命は長い、そして膨大な力も持っている。人間が生き物を飼育して観察するように、神様も世界という枠の中に人間を飼育し観察する。

それがただ眺めているだけならいいんですが、それだと詰まらない。

神の試練と称して特定の人間に様々ないたずらをしてその状態を楽しむ。だがそれに飽き足らなくなると次第に行動はエスカレートする。

対象は個人から集団へ、集団から国へ。世界全体を巻き込んだ壮大な物語へと発展する。

それが異世界召喚勇者と魔王との戦いの真相。前の世界ではそれを“神々の遊戯”と呼んでいました。

まあその事にムカついた人間が神様をぶっ飛ばすって事もあったんですけどね、神様って死なないんですよ、いずれ蘇る。倒させることまで織り込んだものがこの“神々の遊戯”の悪辣な点だったんですが。

話が逸れましたね、戻します」


“スーーッ”

俺は再びティーカップに口を付ける。エリーゼさんは酷く混乱した表情をなさり、精霊様は昔を思い出したのか悔し気な憤りを示しておられます。そして妖精様は・・・なんか遊び始めちゃいましたね、こんな話詰まらないですよね、なんかすんません。


「で、起きたのが三千年前の魔王勇者連合と創造神との戦い。

人間側もいい加減頭に来ていたって事でしょう。

これまでも何度か戦いをやめようとしたことがある、それでも上手く行かなかった、その度に神に邪魔された。色々と考えられますが、そこは当事者でない俺がとやかく言う事じゃないんで割愛します。

この世界の創造神と戦う事、それはすなわち世界そのものと戦う事。その影響は世界存続に関わる激しいものとなったはずです。

地上世界にその痕跡が見られないところを見ると天上世界、所謂天界と呼ばれる場所での戦いだったんじゃないんでしょうか?

天界はほぼ壊滅、この世界そのものが消滅の危機にあったかそれに匹敵する被害を受けたか。

その為別の世界に助けを求めた、結果呼ばれたのが俺であり俺は世界の一部となってこの世界を修復する一因となった。

さっきハニ子が“この世界、妙に落ち着くって言うか、のっぺりっポイって言うか”って言ってたでしょう?

あれって俺の魂が相当この世界の修復に関わってたって証拠だと思うんですよね、それくらい前の世界での俺の魂って肥大化してましたから。


向こうでも神様たちから存在自体がおかしいって言われてたくらいですしね、お蔭さまで漸く人として転生出来ましたけど。

ハニ子はこの状態もなんか変とか言ってるけど、前に比べたらね~。誤差ですよ、誤差。

つまり俺は俺、魔力も闘気もない、スキルがあっても使えない男、それがノッペリーノな訳です。

まぁスキルはエリーゼさんの魔道具のお陰で使える様になりましたが。

これって何回くらい使えるんですかね?使用回数制限とかあります?」


俺は首から下げたネックレスを見ながらエリーゼさんに聞いてみた。


「ハヒッ、えっ、いや、はい。あの、回数までは何とも。

ポケットのスキル自体はさほど魔力消費が無いスキルなんですが、その空間構築に魔力を使用する、その為その収納量は魔力量に依存すると言われています。

ノッペリーノ様の場合もともと持っていらした収納空間に接続するだけですので、魔力量はほとんど使われていないものかと。

使用していたとしてもファイヤーボールの十分の一程度、そちらのネックレスでしたら百回ほどの出し入れが可能かと思われます。またネックレス自体は周辺魔力を吸収して元の状態に戻るように設計されていますので、五時間ほど放置しておいてもらえれば問題ないかと」


姿勢を正し何故か部下の様に答えるエリーゼさん。

おーい、俺っちは別に偉い人でもとんでも実力者でも何でもないからね~。

まぁ碌でもない話を聞いたばっかりじゃこの反応も致し方が無いとは思いますが。


「ちょっとのっぺり、今はノッペリーノだっけ?そのスキルって何よ。さっきから魔力とか闘気とか言ってるけど、もしかしてこの世界ってゲームみたいな剣と魔法のファンタジー世界とか?

ワープに失敗して“石の中にいる”とかなっちゃう奴?」


「例えが怖いわ!まぁ当たらずとも遠からずだけどもさ。女神様からスキルってものを授かって、魔力を使ってそれを発現させるみたいな?

魔法は学習方式、呪文を唱えて発動する感じ。慣れれば無詠唱も可能。闘気っていう気配みたいなものがあって、それを使った武技っていうとんでも技を使って魔物を倒したりとか?

おそらく創造神の時代に魔王や魔物との戦いを盛り上げる為に開発されたんじゃないかな?その方が信仰心も集まるし。

それが全て創造神の自作自演とはだれも思わなかっただろうしね。


で、スキルありきの生活は今も尚この世界に根付く有り様、人はそれを求め女神様を崇める。魔物が全ていなくなろうが今度は人間同士で戦争を始める、人間はどの世界に行っても変わらないって事なんでしょう。

因みに俺のスキルは<ポケット>と<召喚術>、俺もついさっき使えるようになったばかりだから詳しくは知らないんだよね。

ポケットは掌サイズの取り出し口に入れる事の出来る物なら仕舞えるって収納スキル。召喚術は自分の魔力を糧に呼び掛けを行って魔物を召喚する技かな?」


俺の言葉に「まんまゲームじゃない」と呟くハニ子。

うん、俺もそう思う。創造神がどこぞの世界のゲームをパクったんだね、多分。


「へ~、面白そう、ちょっとやってみてくれる?」

俺はハニ子に促されるまま「<ポケット>」とスキルを発動する。すると中空に現れる黒い穴、ハニ子はそこに手を突っ込むと何やらがさがさと漁り出し、お菓子の袋を取り出すのだった。


「本当に収納になってるのね、でもノッペリーノはよく中身が分かるわね」

「あぁ、それはスキルの効果かな。手を突っ込むと中身が分かるって奴。それで欲しいものが手に取れる。

前の腕輪収納と同じ大きさならコンテナ三つ分くらいは色々入ってるんじゃないかな?サイズ的に取り出せない物が多いけど」


そうなんだよね、椅子とかテーブルとか。キャンプセットは常備してたからな~。


「ふーん、色々面倒なのね。その分魔力消費を減らしてるって事なのかしら?

う~ん、これって単に術式が古いだけじゃない?ここをいじって名前を変えてと。

もう一度やってみてもらえる?サイズも拡張しておいたから」


何か中空の穴に手を突っ込んでいた高位存在がとんでもない事を宣わっている様な。俺は取り敢えずスキルを消し、もう一度<ポケット>を発動する。


“ボワン”

先程と同じ様に中空に現れる黒い穴、手を突っ込みキャンプ用の折り畳みテーブル(アルミ製)を手に取ってみる。


“ニュ~”

「「・・・」」

普通に取り出せちゃいました。仕舞う時は穴に近付ければいいんですか。


“ニュ~”

あ、仕舞えた。わーい、便利だな~。

スキルの改変、やってる事が精霊様の上位互換、やっぱり神性はスケールが違うわ。


「それで、召喚術ってのはどういった感じなの?」

「あっ、はい、では早速。<召喚>」

俺は再び自身のスキルに呼び掛けます。今度は召喚術、一般的に召喚獣は召喚主の魔力に誘われて現れる存在の為、召喚主と相性の良い存在と契約出来るって話なんですが、俺の魔力は外部入力方式。

何が現れるのか見当も付きません。


“シュイン”

テーブルの上に現れる魔法陣、その魔法陣が淡く光り、中央からゆっくりとその存在が姿を現した。


「「「・・・ダンゴムシ?」」」

それは体長三十センチ程の大きなダンゴムシ。俺は腰のポーチに手を入れると、キンキンに冷えた癒し草の束を取り出し、ダンゴムシの前に差し出す。


「給料は癒し草でどうかな?希望があれば聞くけど」

“ガサッ、ムシャムシャムシャ”


モゾモゾ移動し癒し草を食べ始めるダンゴムシ。どうやら契約成立といったみたいです。


「それじゃまた用があったら呼ぶから。<送還>」

ダンゴムシを中心に再び現れる魔法陣、ダンゴムシは癒し草の束を抱えながら魔法陣に吸い込まれるように消えて行くのでした。


「ふむ、ねぇノッペリーノ、その召喚の魔法陣って出したままに出来たりする?例えば召喚の前準備みたいな感じで」

「えっと、こんな感じ?」

俺は言われたように魔法陣だけを出してみる。魔力は使うみたいだけど、召喚の呼び掛けを行っていない分魔力消費は少ないって感じ。


「ふむふむ、相手側の受け取りは任意なのね。こちらから指向性を与えるにはアンカーが必要?だったら何とかなるかしら。

もういいわよ。

それとちょっと準備するから私は帰るわ。流石に十秒は欲しいからこっち時間だと四十二日?その頃に戻って来るわ」


ハニ子はそう言うと身体を光らせ、粒子になって消えて行く。

その光が消えた時、テーブルの上には黒いスマートフォンが一台残されているだけなのであった。


・・・自由過ぎるだろう、ハニ子~~~~!!

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