第19話 古い友人に会うと口調って変わるよね

“三日間もどこほっつき歩ってた!”


マリアージュ魔道具店四代目店主エリーゼ・マリアージュさんの御厚意により試させていただいた魔道具、“魔力補充のネックレス”。その効果により初めて自身のスキル<ポケット>の発動に成功した俺氏。

“魔力が無いんなら他所から補充すればいいんじゃない?”

まるでどこかのケーキの人のような発想だがこれがどんぴしゃり、見事スキルの発動に成功した。

普通この世界の人間は食べ物や周辺大気から魔力とい言うものを補充する。よく魔力量が多い少ないと言った話をするが、それは取り込む事の出来る魔力量の多さ、保持魔力の多さと言い換える事が出来る。

魔力は使えばなくなるし、休めば回復する。但しそれは魔力を取り込む事の出来る環境にあることが条件となる為、例えば魔力の全くない魔力枯渇空間で魔力を使い切れば永遠と魔力を回復する事は叶わない。

魔力は生み出すのではなく取り込むもの、この事をきちんと理解しているものは意外に少ないと、昔マルコおじさんの奥さんリンダおばさんに教わった事がある。

リンダおばさん、その昔は名のある冒険者で魔法使いだったらしい。フェアリ村みたいな山間の寒村に住む様な御方ではないのだが、冒険中のケガが原因で夫婦で田舎暮らしをしていたとか。

リンダおばさん曰く、俺が生活魔法を使えないのはこの魔力を貯め込む力が弱いからではないのかとの事。流石に生活魔法すら使えない者と言うのは聞いた事がないが、魔法を使う者の実力差はこの魔力を取り込み貯め込む力に比例するとの事であった。


そして生まれて初めてのスキル発動、スキル<ポケット>はあっさりと成功し、俺の目の前の中空には黒い穴が出現した。

エリーゼさんに促されるままその中に手を突っ込めば、何故かそこにある何か。取り出してみればそれは観光地で売っているお土産キーホルダーの様な物。

その様子を見ていた桃ちゃん曰く、それは俺がかつて人妖“のっぺり”と呼ばれていた頃身に付けていた収納の腕輪(白いリングタイプ)の中に仕舞っていた品々だとか。


ならばと思い再び手を伸ばし取り出した物、それは嘗て愛用していたスマートフォン。幸いなことに電源が入った為、嘗ての世界で撮った写真画像をエリーゼさんや精霊様に見せていると着信メールが届いている通知に気が付いた。

わいわい騒ぐ皆に断りを入れそれを確認して見れば、“連絡寄越せ”というメッセージが。

“連絡もなにも無理じゃん”と思いつつそう言えばと思い出す。このスマートフォンをとある神様が魔改造していた事に。

あっちにフラフラこっちにフラフラする俺がどこに行っても連絡が取れるようにと作られたこれは、黄泉の国や地獄に行っても連絡が付く代物だったと言う事に。

物の試しに“久し振り~、ハニ子は元気してる?俺っち転生したみたい”とメッセージを送れば間髪入れず返って来たのが“三日間もどこほっつき歩ってた!阿呆言ってないで早く帰って来い、ノエルと葛の葉が暴走して仕方がないんだよ!!”と言う言葉。


昔々に読んだことのある御伽話に“浦島太郎”と言うものがある。

助けた亀に案内され竜宮城という場所で楽しい歓迎のを受ける日々を過ごし、村に帰れば数百年という時間が経っていたというトンデモ話であるが、一説では“竜宮城と地上世界では時の流れが違うのでは?”などとまことしやかに議論されていたお話。

でももし竜宮城側の者が地上世界に出ていたとしたら?例えば亀、この亀が広い海や海岸を数年放浪したとしても竜宮城に帰れば「お帰りなさい、遅くまで遊んでたのね。夕ご飯の準備は出来てるわよ」と言った事にならないだろうか。


俺は再びスマホの画面を操作し電卓アプリを起動、メールでは“三日間もどこほっつき歩ってた!”って返信があったって事は向こうでは俺が消えてから三日が経過してるって事、おそらくだが俺がこの世界の壁になった原因は<月刊ムーラン>にも載っていた魔王勇者連合対創造神って言うとんでもバトルの影響だろう。

時代が神代から人代に変わったって事はそこで創造神が負けたか、もしくは相当な痛手を受けたか、改心したか。

・・・神は改心なんてしないな、連中自己中だもん。人間に正道を説かれて心を改めるなんて、蟻ん子に説教されて宿題やる小学生並みにありえないから。

まぁ激しい戦いになったんだろうことは想像に難くないし、その補修材として俺が呼ばれたって事は間違いないだろう。

俺って無駄に魂デカかったみたいだし、よく知らんけど。


って事は約三千年が経過してるとして一日千年、向こうの世界が一年三百六十五日だから時間の経過が三十六万五千倍速いって事になる。向こうで一秒経過するとこっちでは四日と五時間ちょっと過ぎちゃうって話。

ハニ子の奴、よく返信出来たな!?向こうにしたら刹那に満たない時間でメールを確認して返信した?意味解らん。


ハニ子って言うのはこのスマホを魔改造した神様の事ですね、導きの神ハニ子、ふざけた名前ですが歴とした上位神、怒らせたらヤバい存在です。


「精霊様、エリーゼさん、妖精様、そこに並んで貰えます?ちょっと写真を撮りたいんで」

俺はそう言うと御三方を一カ所に並べテーブルにスマホを立て掛けてタイマー撮影機能をセット。


“ピピピピピッカシャッ”

スマホの電子音と共にフラッシュが焚かれ無事撮影が終了。

背後では精霊様方が「目が~、目が~!!」とどこぞの大佐の様な事を仰りながら転げ回っておられますが、取り敢えず無視。


ポチポチポチっとな。

“これが証拠写真。真ん中の男性が今世の俺、遂にのっぺり顔を脱却したのだ、ワハハハハ”

送信っと。


“キンコン”

お、返信速いな~。なになに、“話はそっちで聞く”・・・どういう事?


“パ~~~~ッ”

突如手に持つスマホが金色に光輝き始める。カメラのフラッシュに悶えていた精霊様方がその光景に唖然とする中、店内全体に神聖な気配が広がり、輝く光は一柱の女神の姿へと変貌する。


“バサッ”

流れる美しい黒髪、リーデリア王国では見る事の無い黒い瞳と清楚な面立ち。伝説に謳われる召喚されし勇者様の姿にも似たその容貌に、精霊様がわなわなと震えだす。


「のっぺり、三日ぶり。って言うか本当にあなた転生しちゃってるのね。こっちの人間の身体を乗っ取ったんじゃなくて、完全転生?魂の状態がまた妙な事になってるけど、通常の人間と同じくらいにはスリムになってるじゃない。

それにその腰の棒、仙桃樹、御劔山のモモちゃんが自分の子供が一緒に行ったって言ってたけど、無事合流してたって所かしら?

まぁなんにしても無事な様で良かったわ」


麗しの女神はそう言うや、何処からともなく椅子を取り出しテーブルに着くのでした。



“コトッ”

差し出されたティーカップ、爽やかなミントの香りが鼻腔に広がり、ざわついた心を穏やかにしてくれる。

ハーブティーを用意してくれたマリアージュ魔道具店四代目店主エリーゼ・マリアージュさんは、“私はもう限界です、大人しくしていますんでそちらで話を進めてください”と言った顔で黙って席に着き、妖精様はそんな彼女の背後に隠れる。

精霊様はと言えば、「あなたはこの世界の神ではありませんね、何故ここに?」と、普段見せる事の無い凛とした表情でハニ子に対峙しておられます。

精霊様、やれば出来るじゃないですか、なぜ普段それが出来ない。まぁ今も相当頑張っておられるのは見れば分かりますけどね、そりゃ怖いよね、このお姉ちゃん存在値馬鹿みたいに高いもんね。


「は~、美味しいわね、このハーブティー。スッキリしていて気持ちが落ち着くわ。どうもありがとう」

「イヤイヤイヤ、どうもありがとうじゃなくて、何でハニ子がここにいるのさ。って言うか来れるのさ。

ここって別世界よ?所謂異世界よ?さっき軽く計算したけど時間の進み方が向こうの世界の三十六万五千倍よ?

メールの返信もそうだけど、タイムラグなしに対応出来るってどう言う事なのよ?」


俺の疑問、それは時間の進み方の違う世界と普通にメールのやり取りを出来る事の矛盾。その問いにハニ子は呆れた様なため息を吐いて答える。


「あのね、前にのっぺりが地獄に行って暫く帰って来なかった事があったでしょう?時間の経過が違うのをいいことに何十年も遊び歩いて。地獄とあの世界より一万倍速く動いている。一日でも二十七年、そりゃ遊び甲斐もあるでしょうよ。

その時だってスマホで普通にやり取り出来たでしょう、それと一緒。

簡単に言えばのっぺりのスマホは私の分霊わけみたまの御神体、神社で言う所の分社って所ね。神は常にあらゆる場所に存在する、偏在性って言ったかしら?

神にとって時間も次元も基本関係ないのよ。ただそれでもその神の格によって出来る事は限られるんだけどね。

あの世界において私の格は相当に高いの、別次元の先に分霊わけみたまを送れるくらいにはね、そうじゃないとのっぺりと連絡なんて取れないしね」


とんでもない事をさらりと仰るハニ子様。と言うか前前世の俺、神様にここまで言われるって相当ヤバいな、今更ながら反省反省。


「それでタイムラグなくメールのやり取りが出来たのも実際に機械を通してメールの送受信をしてる訳じゃなく分体から神核に連絡が来てたからって事ね、そこに時間の経過がほとんど存在しないから出来た事よ。

今も本体側の肉体は微動だにもしてないんじゃないかしら?周りの被害が大きくなっちゃうし。


でもあれね、この世界、妙に落ち着くって言うか、のっぺりっポイって言うか、どうなってるの?」


「あぁ、それは俺が世界の壁をやってた影響じゃね?世界が安定した結果俺の役割が終了、取り込む事の出来なかった搾り滓として弾き出されたのが桃ちゃんであり俺。

まぁ神の分霊の御神体であるスマホが紛れ込んでたんじゃ、この世界でも取り込む事は出来なかったって事なんじゃん?

人生何がどう転ぶかなんて分かんないよね、ビックリビックリ」


そう言いハハハと笑う俺に「やっぱりのっぺりはのっぺりだわ」と頭を抱えるハニ子。そうした導きの神、ため息を吐くと幸せが逃げるぞ?


「まぁいいわ、のっぺりの事だから上手い事やってるんでしょうし。問題はうちで暴れてる連中よ。あなたこれまでと違って完全に存在が消失しちゃったじゃない?どこかに行ったんじゃなくって消え去っちゃった。別れのメッセージを残してね。

殆どの者はびっくりはしたけどどこか納得と言った感じで落ち着いたのよ、あなたって執着とは無縁の存在だったしね。

でもね~、ノエルと葛の葉と黒丸がね~。

あの子達、あなたが転生するなら来世にもついて行く気満々だったから、何か怪しい準備もしてたみたいだし。

それがパーになっちゃったもんだから大騒ぎなのよ、本当に抑え込むのが大変で。

そんな訳で責任とって頂戴」


「無理じゃー!!」

神様の無茶振り、叫んだ俺は悪くないと思います。

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