第18話 古い街って神秘的なサムシングを期待しちゃいません?

王都リンデロンの一角、下町風情の漂う裏通り。そこに佇む一軒の古道具屋風の店。

そこでは何故かエルフの女性がお婆さんのロープレをし、妖精様らしき生き物がフヨフヨ飛んでいた。

そんなよく分からない店の中で俺の胸から飛び出した精霊様は、何故か精霊様に平伏するエルフと妖精様を前にドヤ顔をなさっておられるのでした。


「精霊様、少々よろしいでしょうか?状況が一切掴めないんですが」

俺の素朴な質問にお答えくださったのは当の精霊様ではなく、お婆さんのコスプレをするエルフさん。


「な、そこの普人族、失礼ですよ。精霊様の御前です、膝を折り平伏するのが礼儀でしょうが!

いい加減控えなさい!」

声を上げ注意を促すエルフの店員さん。


「・・・えっと、俺もしゃがんだ方がいいですかね?」

「別に構わないぞ~、私は寛大なのだ~。

と言うかここ何処?何かの店の様だけど」

辺りをキョロキョロ見てはフラフラする精霊様、余り勝手に商品を弄るとこちらの店員さんに怒られますよ?


「はい、こちらはマリアージュ魔道具店になります。いと尊き精霊様に置かれましては、ご来店いただきありがとうございます。

どうぞお気の向くままご覧になって下さい」

エルフの店員さんはそう言うと隣の妖精さんを差し向け、店内を案内させるのでした。


“コトッ”

テーブルに差し出されたティーカップ。スッキリしたミントのような香りが周囲に立ち昇る。


「さっきはごめんなさいね、つい取り乱しちゃって。

でもまさか精霊様がご来店下さるだなんて思いもしなかったのよ」

そう言いお茶を出して下さるのはお婆さんのコスプレをやめて普通の格好に戻ったエルフの店員さん。


「でもびっくりよ、私も今まで何度か精霊の庭に訪れた事はあるけど、精霊の庭の扉を付けた人間を見たのは初めてだもの」


そう言い俺の胸元に視線を送るエルフの店員さん。

ん?そんなに気になります?それじゃサービスですよ?

俺は胸の扉の開閉を行って見せる。


「・・・自由自在なのね、あなた何者なのよ。って言うか自己紹介がまだだったわね。

私はこのマリアージュ魔道具店四代目店主、エリーゼ・マリアージュよ。見ての通りのエルフね、これでも店を任されてから五百年くらいになるわ」


店長歴五百年。どうやらエルフと言う種族は俺の想像以上に長生きの様で、ご自分のお歳は教えて下さりませんでしたが、大体千三百年から千五百年くらいは生きるのだと教えてくださいました。


「でもこれは普通のエルフの話よ?エルフの王族、ハイエルフと呼ばれる方々は五千年近く生きられるというお話だわ。それを考えれば千年ちょっとの私達は短命って話ね」

千年以上生きていて短命・・・、ファンタジー世界の住民はスケールが大きいな~。(遠い目)


「それよりもあなたよ、何であなたは私の幻影魔法が効かなかったのよ。これでもかなり自信があったのよ?

スキル<真実の目>でも私の幻惑の術は破られた事がなかったのに」


“スキル<真実の目>、この世の全ての秘密を暴く究極のスキル。この目の前にあらゆる犯罪は白日の下に晒される”だったかな?

昔レインがちょっと拗らせちゃった頃に嵌ってた台詞なんだけど、確か流行りの読み物の主人公のキメ台詞って言ってた様な。

ミリアお姉ちゃんがカッコいいとか言ってキャーキャー騒いでたんだよね。

あの時は既にいけ好かない少年にお育ちあそばしていたけど。


「ん?ノッペリーノに幻術系統の魔法は効かないぞ、それと阻害結界もだな。無自覚で侵入してくるからな。

ノッペリーノは変な奴なのだ~」


テーブルの上でクッキーを抱えながらコリコリ貪る精霊様、ハーブティーも無論通常サイズ。お隣で玩具の様なティーセットでお茶をされている妖精様の可愛らしい事、両手でどんぶりを抱えるみたいにしてハーブティーを飲まれるお姿はとっても癒されます。


「それにエリーゼはエルフだから気が付いたのかもしれないけど、ノッペリーノの側にいれば、普通の者には私の姿が見えないのだ。

更に言えば、姿を消した状態であったらエリーゼでも気が付けないと思うぞ~」

そう言いすっと姿を消す精霊様。その様子に驚きが隠せないと言った顔になるエリーゼさんと妖精様。


えっと普通に精霊様が姿を消しただけですよね?何を驚いているんでしょうか。


「どう言う事ですか?私達エルフや妖精は姿が見えずとも精霊様がおられればその存在を感じ取る事が出来るはずなのに気配すら分からない、これは一体」


「よく分からん。でもノッペリーノが変だという事は確かなのだ。そこの妖精もやってみるのだ?」


精霊様に言われ同じく姿を消した妖精様、その様子に口をポカンとさせるエリーゼさん。


「えっとお客様、ノッペリーノさんと言うのでしょうか、本当に何者なんですか?私こんな現象初めて見ましたよ。

自身が契約している妖精すら感じ取れなくする隠蔽結界とでも言うんですか?とんでもないスキルですね」


何故かえらく驚かれる俺氏。でも残念俺そんなスキル持ってません。


「えっと、お褒めいただいたところ申し訳ないんですけど、俺の持ってるスキルって<ポケット>と<召喚術>なんですよ。

更に言えば魔力と闘気がゼロなんで、魔法もスキルも武技も使えないんですよ」

そう言い腰のマジックポーチから教会の鑑定書を取り出しテーブルに乗せる。

このヒンヤリした感覚どうにかならないかな~。マジックポーチに手を入れる度にゾクッてするんだけど。


「あら本当だわ、魔力がゼロ、闘気もゼロってなってる。だから幻影魔法が効かなかった?でもそれなら魔力抵抗も無いはずだから効くはず、説明が付かないわ。

精霊様が変な奴って言うはずよ、意味解らない」

なにかぶつぶつ仰られておりますが、俺も意味が分かっておりませんのであしからず。


「でもこれじゃ本当にスキルもただあるってだけなのね。

・・・ちょっと待って、もしかしたら役に立つ魔道具があるかもしれないから」

そう言い店の奥に引っ込んだエリーゼさん。待つこと暫し、何か長細い箱を持って帰って来られました。


「お待たせしたわ。これは昔貴族の間で流行った魔法練習用の魔道具ね。ノッペリーノさんは魔力が無いから魔法の事についてはあまり知らないと思うけど、一昔前までは今みたいに魔導文明と言ったものが無くてね、貴族たちは己の力を誇示する為に積極的に魔法の訓練を行っていたのよ。

特に貴族子弟は魔法の有無で家督が決まると言われた程だったから、皆必死だったわけ。

でも人の魔力には限りがある、いくら頑張っても魔力枯渇を起こせば気絶してしまってそれ以上訓練は出来ない。

そこで作られたのがこの魔道具ね、魔力補充のネックレス。

でも補充できる魔力量って精々ファイヤーボール十発分くらいしかないのよ。だからあくまで初心者の練習用って事なんだけどね。

今じゃ魔力量云々で差別される事もなくなったからこの手の魔道具もすっかり廃れちゃったんだけどね、時代が平和になったって事なのかしら?」


そう言い開かれた箱には、綺麗なエメラルドグリーンをした宝石をはめ込んだネックレスが仕舞われていました。


「ちょっとそれを首から下げて<ポケット>のスキルを使ってみてもらえる?もしかしたら使える様になるかもしれないから」

そう言いネックレスを差し出すエリーゼさん。俺はおっかなびっくりネックレスを首から下げると、<ポケット>とスキル名を唱えてみるのでした。


“ボワン”

「おぉ~~~」

目の前の中空に現れるてのひらサイズの黒い穴、これが<ポケット>。


「あぁ、場所を指定しなかったから空中に現れちゃったのね。

普通はポケットに手を入れた状態で使うから、そのポケットが収納の入り口って事になるのよ。収納量は本人の魔力量依存って言われてるけど、ノッペリーノさんの場合魔力が無いからどうなのかしら?

取り敢えず使えるかどうか試してみたら?」


エリーゼさんに促され、目の前の黒い穴に手を突っ込んでみる。

・・・あれ?何か入ってる。

俺は中の物を掴んで取り出してみる。


「えっと、なにそれ?」

「いや、なんか手を入れたら入っていたって言うか、キーホルダー?」

それはよく観光地なんかで売っている様なモコモコ尻尾のキーホルダー。黒い尻尾と金色の尻尾、それとこれは猫又のぬいぐるみキーホルダー?なんか可愛らしい。

でもこれってどこかで見た事がある様な、何だったっけかな~。


“ブンブンブンブン”

すると腰の装具で横枝をブンブン振り始める桃ちゃん。

“それって前の世界で腕輪収納に仕舞われてた荷物だよ~。こっちの世界に一緒に取り込まれちゃってた奴だよ~”


「えっマジ?この<ポケット>の中身って前前世で腕輪収納に仕舞ってた諸々なの?」

桃ちゃんの言葉に改めてキーホルダーに目を遣る。


「あ~、思い出した、これ黒丸の尻尾キーホルダーじゃん。

こっちは葛の葉のウネウネ動く奴じゃん。それじゃこれはノエルに貰ったぬいぐるみキーホルダー?懐かしいって言うかすっかり忘れてた奴だわ。

うわ~、マジか~。あの世界の品物にまた出会えるとは思わなかったわ、なんか感動」


俺が一人懐かしさに浸っていると、なぜか後退りするエリーゼさんと妖精様。そして精霊様が険しいお顔をなさっておられる?

精霊様ってシリアスな顔も出来たんだ、初めて見た。


「ノッペリーノ、それは何だ。強い力、闇の精霊?いや、神気?よく分からない力が漂っているんだが」


「あぁ、これですか。精霊様には俺が前世で世界の壁をやってたって話はしましたよね?

なんかずっとボーっとしてたって奴」

「あぁ、あの眉唾物の話か、憶えてるぞ」


「これはその壁になる前、前前世とでも言ったらいいのかな?そこで人妖と呼ばれていた頃の仲間がくれた物ですね。この黒い尻尾が御劔山って言う山の神様で、黒丸って言う犬の姿をした神様の抜け毛で作ったキーホルダーですね。

それでこっちの金色の尻尾は葛の葉って言う九本の尻尾を持った狐の神様の抜け毛です。

それとこの二本の尻尾を持つ猫のぬいぐるみは猫又と呼ばれる妖、こっちで言う魔物みたいなものですかね、ちょっと違うんですけどノエルって言う子がくれた物ですね。

凄く仲が良くていつも一緒だったんですよ。

そうだ、ちょっと待ってください」


俺は再び<ポケット>に手を入れると目的の物を手に取る。


「ん?それは一体なんだ?黒い板の様な物だけど」

「これはスマホって言って通信の魔道具みたいなものですね、これに、おぉ、ちゃんと電源生きてる。収納って凄いな。

ありましたありました、これですよ」


俺はそう言うとみんなが見える様にテーブルにスマホを置く。そこには俺とノエル、黒丸と葛の葉の写った写真が。

御劔山神社で撮ったんだよな~、皆どうしてるかな~。

でも三千年くらい経ってるはずだから、ノエル辺りは成仏しちゃった?黒丸と葛の葉は神様だからワンチャン残ってるかも。

神様って実質不死だからな、やろうと思えば殺せない事もないけど、自然死って事はないだろうし。


あ、メールが入ってる。

“連絡寄越せ”

イヤイヤ、連絡寄越せって言われても無理じゃん、ここがどこだかも分からないっての。世界が違うってそう言う事よ?

でもこのスマホって確か俺がどこに行っても連絡が付く様にってハニ子が魔改造した奴だっけ?黄泉の国でも使えた様な。


「ちょっとすみません」

俺はスマホ画面の写真を眺めて“この真ん中ののっぺり顔の奴誰?”とか言ってる皆さんからスマホを取り上げると、メール画面を開いてポチポチッと。

“久し振り~、ハニ子は元気してる?俺っち転生したみたい”

ハイ送信。


“キンコン”

あ、もう返事が返って来た。

“三日間もどこほっつき歩ってた!阿呆言ってないで早く帰って来い、ノエルと葛の葉が暴走して仕方がないんだよ!!”


・・・へっ?三日?どう言う事?

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