第17話 伝統のある古い町並みってワクワクしません?

リーデリア王国王都リンデロン。その歴史は王国建国時まで遡るほど古く、時代で幾度もの改変や拡張を繰り返し現在に至る。

その為王都の中には建国当初、三千年以上も前から残る名所や旧跡も存在し、それは王都の観光名所として今も多くの王国国民に親しまれている。


「へ~、ここが初代国王ユーヤ・マサキが建国を宣言した“演説台”か~。岩の上部が真っ平って、どんな剣技?

これって一刀の下に切断したんでしょう?所謂スキルって奴?

個人が剣一本で作り出していい光景じゃないよね?怖いぞスキル」


右手に書店で買った王都観光ガイドを持ちフラフラする俺氏、気分は完全に観光客でございます。王都には俺の様なお上りさんを相手にした観光ツアーもあるとか、たまに見掛ける黄色く塗装された箱馬車がそうらしいです。(書店の店員さん情報)


それにしてもミリアお姉ちゃん、なんか色々溜まってたな~。

久し振りに取り繕わなくてもいい対象を見つけたからか、愚痴る愚痴る。

レインが勝手に正義感を振りかざして突進するのを制御するのが大変だとか、次から次に女の子を引っ掛けて来るとか、あの無自覚女誑しが~とか。

で、最後には必ず「でもイケメンなのよ~、大好きなのよ~。優しい言葉を掛けられるとついキュンってしちゃうのよ~」って感じになるんですけどね。


うん、あれだね、駄目男に尽くす女性と根っこは同じって奴だね。まぁ生き方はそれぞれですし?否定はしません。

それにここは魔物蔓延る剣と魔法の世界、いくら魔導文明が発展して世の中が便利になったからといって魔物の被害がなくなった訳じゃないし、人の命は軽い。

冒険者なんて職業が持て囃されているのがいい証拠、危険はゴロゴロ転がっているんです。だったら思い通りに生きたらいい。

一花咲かせると言ってフェアリ村を旅立ったベネッセさんの如く、ミリアお姉ちゃんの思うがまま幸せを追求しちゃってください。

俺はミリアお姉ちゃんの話に付き合い相槌マシーンと化す事で、無事勇者選定会の大会チケットを手に入れる事に成功したのでした。


でもこの大会、開催日が十日後なんですよね~。

それまでめっちゃ暇になったので、こうして観光地巡りをしてるって訳です。

ミリアお姉ちゃんは「どこかに連れてってあげようか?」って言ってくれたんですけどね?大事な大会を前に主役級の人物と王都を出歩いちゃ駄目でしょう。

“自由の翼”のパーティー拠点である建物周辺も、報道陣や彼らの姿を一目見ようって言う観光客がわんさと押し寄せて偉い騒ぎになってるんですよ?街中なんて歩いた日には一瞬で発見されて身動き出来なくなりますっての。

ですんで残念ながらミリアお姉ちゃんとはお部屋でお別れ、「大会頑張ってください、応援してます」と言う言葉を残しパーティー拠点を後にしたノッペリーノ君なのでありました。

帰り際に「アンタどうやって帰る気よ」って聞かれたんで「普通に玄関から帰りますが?」って答えたら、「やっぱりノッペリーノは普通じゃないわ」って言われたのは何故なんでしょう?


「ねえ桃ちゃん、この後何処に行く?なんか面白そうな気配のする方向とか気になる感じの場所とかがあったら教えて欲しいんだけど」

こうやって観光ガイドを片手に普通に観光地巡りをしても王都は見所が一杯なんだろうけど、やっぱり知らない土地で何も考えずにウロウロするってのも楽しいよね、特に怪しい所とか?

俺は桃ちゃんセンサーにそんな所が引っ掛からなかったかとお伺いしたところ、“なんかあった~”とのお返事が。

流石三千年以上の歴史を持つ王都、期待を裏切りません。


「それじゃ道案内をお願いね」

“ブンブンブンブン♪”

左手に握る桃ちゃんの横枝の葉がブンブン振り回される。

俺は楽し気に振られる桃ちゃんの若葉に導かれる様に、王都の喧騒を進んで行くのでした。


やはり勇者と言う言葉は人々のロマンを掻き立てるのだろう。リーデリア王国の誇り、自分たちの勇者様が誕生する。

その勇姿を一目見たい、お姿を拝見したい。

大会会場チケットは既に入手困難、路上では“大会チケットあるよ~”とか“余ったチケット高価買取。相場の二倍、いや、三倍出すよ~”とか言った声が聞こえて来る。


「ダフ屋って何処にでもいるんだな~」

俺は人の逞しさを感じつつ、どこか浮かれた雰囲気の街並みを進んで行く。すると桃ちゃんが突然ブンブンと激しく反応を示す。


「えっと、ここの小道に入れって事?」

“そうそう、ここを真っ直ぐ~”

桃ちゃんが言うには、通りの脇に伸びる建物と建物に挟まれた人一人が漸く通れる様な小道を進むとの事。

なんかワクワクしてまいりました。俺は妙な冒険心に突き動かされる少年の様な心持で、その路地を進んで行きました。


路地を抜けたその先に広がっていたのは、何と言う事の無い下町の商店街と言った様な場所でした。先程まで居た通り程ではないもののそれなりに人も歩いており、果物屋のおじさんが常連らしきご婦人と談笑していたり、いかにも魔法使いと言ったローブを羽織った人物がフードを目深にかぶり通り過ぎて行ったり。

所謂裏通り?古き良き商店街と言った様な場所なんでしょう。

でも何だろう、なんか変に落ち着くと言うか、懐かしいと言うか。

遠い昔、この世界に生れ落ちる前。壁になる前だから前前世とでも言えばいいのかな?人妖とか呼ばれていた時代に行った事のある神々の国の商店街がこんな感じだったんだよな~。

何か隔絶されていると言うか時代とのズレがあると言うか、それでいて確りその場での歴史も進んでいると言うか。

あの頃は世界各地を回ってたけど、結構そう言った隔絶した場所って色んな所にあって面白かったんだよね。

ここもそう言った場所の一つなのかな?


“カランカラン”

俺が扉を開けたのはそんな商店街の中にある一軒のお店。ぱっと見どこにでもありそうな古道具屋の様な所。

店内には怪しいお面やネックレス、古着だろうローブやいい感じの水晶玉などいかにもな商品が陳列されている。


「いらっしゃい、何かお探し物かね?」

しゃがれた声がした方を向けば、黒ローブを羽織りフードを被った背の曲がったお婆さんと言った演出をしている女性。

ローブの縁には綺麗な装飾が施されており、首からはいかにもな水晶や勾玉やトンボ玉を使ったネックレスをじゃらじゃら下げているザ・魔法使いと言った演出をしているんだけど、いかんせん見た目が。


「坊やは初見のお客さんだね、誰かの紹介も無しにこの店に辿り着いた子を見るのは久しぶりだよ。まぁこれも何かの縁、ゆっくりと見て行くといいさ」

まるで体験型アトラクションのキャストの様にそんな楽しいセリフを残しカウンターに下がって行く女性。

俺はそんな彼女に疑問に思っている事を聞いてみた。


「あの、すみません。先程から楽しい歓迎をしてくれるのは大変ありがたいのですが、どうしても気になる事があったのでお伺いしてもよろしいでしょうか?」


俺の言葉に足を止めこちらを振り返る女性、その動作は緩慢でまるで本物のお婆さんのように見事なもの。


「なんだい、何か気になる品物でも見つけたのかい?まぁ魔道具との出会いは互いに惹かれ合うものとも言うし、坊やはその魔道具に呼ばれたのかもしれないね~」

そう言いこちらにやってくる女性。


「いえ、そう言う事じゃないんですが、一つ気になる事が。先程から怪しい古道具屋の年老いた魔女と言った演出で俺を楽しませてくれているのは分かるんですが、何で顔が若い女性のままなのかなって思いまして。

横にピンと伸びた大きな耳、所謂エルフと呼ばれる種族の方には初めてお会いしました。確か魔道具の作製が得意な種族だとか。

この店の商品はそうした魔道具なんでしょうか?

後背中や膝を曲げて歩くのは結構きつくないのかなって思いまして」


素直な疑問。やっぱりそこはちゃんと顔もですね~、せめてお面を付けるとか何か工夫があってしかるべきなのではないかと。

サラサラと揺れる銀色の前髪って、白髪と銀髪じゃ光沢が違いますからね?

輝くキューティクルは誤魔化し様が無いと思いますよ?


俺の言葉にその場で動きを止めるキャストの女性、もとい店員さん。普段はちゃんと特殊メイクをしているけど今日に限ってうっかりしちゃったとか?

これって実は不味かったり?後でオーナーからお叱りを受けちゃうパターン?

そうだよな~、お化け屋敷に入ったら素の女性が出て来て脅しに来るようなもんだもんな~。ある意味そっちの方が怖いかもだけど。


「オ、オホンッ、坊やは若いのにお世辞が上手だね~。こんな年寄りを捕まえて若い女性だなんて初めて言われたよ。

長生きはしてみるもんだね~」


「そうですね、エルフの方は長生きと言いますし。でもそのサラサラな銀色の前髪で白髪と言うのは少々無理があるかと。やはりここはかつらを被られた方が。

後はお面ですかね、年齢不詳感が出ますんで、お年寄りと思っていただくにはそう言った演出をですね~」


「だ~!!何で分かっちゃったのよ!!さっきから幻惑の術をかけまくってるのに全く誤魔化されないし、あなたは一体何なのよ、<真実の目>でも私の幻惑は見抜けない筈なのよ!?」

そう言いスクッと立ち上がる女性。

思ったより大きい?俺より五~六センチほど高身長?

それであの動きってやっぱきつくね?


俺は嘗ての山の特訓で洞窟の中を探索させられた時の事を思い出す。あの時はずっと中腰姿勢だわ、暗いしジメジメしてるしで大変だったんだよな~。

スキルに目覚めたんなら何かが変わったのかもって言われても、魔力と闘気が無いのは変わらないっての。

なんでも普通はスキルに目覚めると魔力と闘気の値が上がって戦闘力が上がるんだとか。探索が終わった後、親父殿が不憫な者を見る様な目で俺を見ていたのが印象的でございました。


「何でって言われましても、幻惑の術ってものを知らないので何とも。何かご迷惑をお掛けしてしまっていたみたいで申し訳ありませんでした。

それでこちらはどう言ったお店“スーーーッ”・・・妖精?

えっと、店員さんは伝説の妖精使い様か何かで?」


「うわ~!!何であなたマルベールが見えてるの?えっ、どう言う事?」

なにかパニックを起こされる店員さん。その動きに合せバサリと落ちたフードから現れた銀髪は、店内の魔道具の明かりを受け自らの煌めきを主張なさっておられます。

やはりその輝けるキューティクルで白髪は無理があるかと。


「どうもお騒がせしたようですね?何か申し訳ありませんでした。

それでは俺はこの辺で」

うん、これは厄介事の予感だね、三十六計逃げるに如かず。

俺が戦略的撤退を決め込んだ、そんな時でした。


“スーーーッ”

音も無く開かれた胸の扉、その中から飛び出し宙を舞う麗しき高位存在。


「あ~、良く寝たのだ。ノッペリーノ、女狐から上手い事大会チケットはせしめれたか~。アイツ王都で出世したんだろ、一枚くらい何とでもなるとは思うけど、人は変わるからな~。

都会に出てがめつくなったりケチ臭くなったり、里の者を煙たく思う者もいるからな~。

ノッペリーノは邪険にされなかったか?」


相変わらず空気を読まない、己を変えず、顧みず。精霊様は今日も我が道を進まれます。


「えっ、あっ、え~~~~!?精霊様であらせられますか!?」


「「はは~~~」」

突然平伏するエルフの店員さんと妖精さん。そんな突然の事態にも関わらず、「ん?よいよい、楽にせよ。私は寛大なのだ~」と宣われる精霊様、あなた様は大物でございます。

俺はそんなカオスの状況に唯々呆然とするしかないのでした。


桃ちゃん?腰の装具の中で“楽しい~~~♪”と言いながら若葉をブンブン振られておりますが何か?

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