第13話 列車の旅を紹介する番組ってなんかいいよね
“カランカランッ、カランカランッ”
「“王都行きの列車は間もなく出発いたします。ご搭乗のお客様は急ぎ車両にお戻りください”」
音声拡張の魔道具により、ホームに響く駅員の呼び掛け。
“ブウィ~~~~ン”
動き出す魔導モーターの唸り、駅員が走り回り列車搭乗口の扉を閉めて行く。
“ピリーーーーッ、ピッ!”
笛の音と共に手旗信号が振られ、ASI魔導機構式牽引車両、通称アシームがゆっくりと駆動を始める。
“ガチャゴンッ、ギシギシ”
軋み音と共に動き出す列車、これから始まる旅の予感に何とも言えないワクワク感に包まれる。
窓の外に見えるホームには家族との別れだろうか、何時までも手を振り続ける御婦人の姿や笑顔の子供たち。
鉄道での移動が一般的になったとはいえ、それでも人との別れはそれなりの重みを持っていると言う事なのだろう。
魔導列車は走る、独特の振動音を鳴らして。
だがその揺れや走行音は車内での会話が聞こえるくらいには静かであり、列車の話を聞かせてくれた駅員さんの言葉が嘘ではない事を教えてくれるものであった。
因みに魔道機関車じゃなくて魔導列車なの?という疑問があると思うが、これは牽引する車両の造りの違いらしい。
その昔は魔石燃料で熱を起こし蒸気を発生させることでタービンを回す蒸気機関方式が主流であったが、魔導技術の登場による技術革新により魔導モーター駆動方式に移り変わり、呼び名が変わったのだとか。
蒸気機関方式の頃は魔道具の一形態としての扱いであった為魔道機関車と呼ばれていたものが、魔石から魔力エネルギーを動力源とし様々な現象を引き起こす魔導方式に変わる事で頭に魔導と付けるようになったらしい。
要は機関車と電車の違いですね、そう考えると他の様々な文化的な道具についてもスッキリ説明が付くので理解し易いです。
俺が何でこんなに詳しく知ってるのか?チケットの確認に来た車掌さんに教わったからですが?
鉄道の関係者は大なり小なり鉄道オタクらしく、鉄道絡みの話であれば目を輝かせて教えてくれるようです。ビバ・オタク文化。
街並みを抜け田園地帯を走る魔導列車に揺られること暫し、流れる車窓の景色は、これまで過ごしてきた世界がいかに小さかったのかを教えてくれる。
“カツカツカツカツ”
移り行く眺めは人生そのもの、遠目でゆっくりと変化している様に見えても、実は物凄い速さで変わって行っている。
俺はフェアリ村の事、家族の事を思い出し、ここ数日での目まぐるしい変化に思いを馳せる。
“カツカツカツカツ、ン~、ン~!”
「あっ、はいはい、お代わりですね、了解です」
俺は腰のポーチからリッテン中央駅ホームの駅弁屋台で購入した弁当を取り出し、テーブルの上の空のものと交換する。
すると再び“カツカツカツカツ”と食事が再開される。
「ぷは~、食べた食べた。私は満足なのだ!!」
精霊様が顔をお上げになられたのはお弁当を十五個ほど完食されてから。
その小さな身体のどこに消えて行くのだ、食料品たちよ。
前世では大食い番組に出るフードファイターと呼ばれる方々に“この人たちおかしい”と戦慄した事があったが、精霊様の食事は正に異次元、物理法則を完全に無視した食事量に、高位存在を人の身で推し量ってはいけないと言う事を分からせられる。
「精霊様だから仕方がない」である。
でも一回に十五食分・・・。よし、次の駅でも大量購入しておこう、幸い軍資金は結構な金額がございますんで。
ライオスお兄ちゃんの餞別(と言う事にしておこう)によりふところの温かい俺は、精霊様の爆食にも怯むことなく、“グルメ旅も悪くないな~”などと妄想を膨らませるのでした。
「精霊様、それで例の御婦人ですが何か分かりましたか?」
窓際に立て掛けた桃ちゃんの葉がひらひら揺れ、桃ちゃんが移り行く車窓の景色を楽しんでいることが分かる。
“速い速い~♪”と言う桃ちゃんの感想は棍棒に姿を変えたからこそのもの、山の中に植わった一本の桃の木であったのなら生涯感じる事のなかった想いであろう。
「ん、色々聞いて来たぞ~。なんか精霊の庭にはやたら驚いていたけどな~。
あの場所は私の世界、チケットに染みついた思いを基に人物を再現する事など造作もないのだ~。まぁ庭から出たら元の残留思念に戻るんだけどね、要はお化けだな」
いるのかお化け、やっぱりあるんだろうか、心霊スポット。
魔力とか魔物とかの世界だもんな、ヤラセじゃないリアル心霊スポット、洒落にならないんだろうな~。
「何か王都の子爵家の三女だったらしいぞ。まぁ子爵家と言っても台所事情は厳しかったみたいで、ベルーサ子爵領リッテンで役場に勤めていたらしい。
聞けば今どきの貴族家は何処も似た様な物で、働きに出る婦女子はかなりいるって事らしいぞ、時代は変わったんだな~」
女性の社会進出、聞こえはいいかもしれないけど、要するに食い扶持を稼ぐ為に仕方がなくと言った所なんだろうか?
王都のお貴族様って事は領地持ちではない官僚貴族とかだったのかな?
大昔のお侍さんは御恩と奉公で基本土地持ちだったみたいだけど、時代劇に出て来たお侍さんは給料制だったし、お貴族様も色々あるんでしょう。
「そんで実家が貴族街の外れにあるらしいぞ。名前はテリーヌ子爵家、そんなに大きな家じゃないって言ってたけど、分かったのはそれくらいかな?
そうだ、名前がマリアンヌって言ってた~」
おぉ~、流石精霊様、優秀でいらっしゃる。家名と名前が分かったのは大きい。
その昔両親が世話になったとかなんとか言えば、お墓くらいは教えてくれるかな?
当時の面影が残ってるかどうかは分からないけど、訪ねるだけ訪ねてみますか。
食べるだけ食べて満足されたのか、俺の頭にパイルダーオンしてお昼寝を始める精霊様。別に重くないからいいんだけど、寝るんなら家に帰って寝ればと思わなくもない。
まぁ居眠りも旅の醍醐味かな?
俺はポーチから駅で買ったお茶の瓶を取り出すと、外の景色を眺めながら口を付けるのでした。
“カランカラン”
「次の停車駅はフェルナール、停車時間は一時間となります。お降りの方は定刻までに車内に戻られます様お気を付けください。次の停車駅はフェルナール、フェルナールです」
手持ちのベルを鳴らし、車掌が次の到着駅を知らせに車内を歩く。頭の上で寝こけていた精霊様がビクッと起き出して落ちそうになったところを手で押さえ、「精霊様、駅弁を買いに行きますよ」と声を掛ける。
大体四時間くらいの移動で隣領の主要都市に到着、これって馬車なら数日掛かりの行程よ?流石魔導列車、速い速い。
でもそれだけ早いんなら二日と掛からずに王都に辿り着けるんじゃと思ったそこのあなた、甘い、甘過ぎる。
ここは剣と魔法の魔物蔓延るファンタジー世界ですよ?夜の魔物は危険なのよ?
夜間走行中の列車は魔物にとってのいい目印、結構な確率で襲われるんだそうで、さしもの魔導列車も日没から一時間ぐらいまでしか走行出来ないんだとか。だもんで駅に停車して日の出と共に出発するんだそうです。
それでもこれまで一月以上は掛かっていた王都までの移動が僅か四日で済むと言うのは画期的な事で、これからの技術革新如何によっては更に時間短縮が望めると期待されているんだそうです。(車掌さん情報)
でもそれじゃ結局どこかに宿泊しなきゃいけないんじゃんって思うでしょ?列車泊ですよ、列車泊。
エコノミークラス症候群なんかなんのその、貧乏人は車内でご宿泊、寝台車のお金持ちはゆったりベッドでお休み、多少金銭に余裕のある方は街の宿に泊まって日の出前に帰って来るって感じですかね。
俺ですか?車内泊ですが何か?
だって絶対寝坊するもん。徹夜なら別に三日四日平気だけど、ちゃんと寝たら起きれないでしょう。そんなリスクは冒せませんっての。
まぁ車内泊をする人間は大なり小なりそうした者なんですけどね、寝坊は怖いっす。
「お~、駅弁だ~大量買いするのだ~。
でもノッペリーノのマジックバッグは食べ物の保存には向かないのだ?
う~ん、よし、冷やそう」
そう言い腰のポーチを開け中に飛び込む精霊様、冷やすってどう言う事?時間停止とは違うの?
そんな事を考えて待つこと暫し、「終わった~」と言って飛び出して来た精霊様に「何をしたんですか?」と問えば、「冷やして来た~」と胸を張って答えられます。
何の事じゃいと思いつつポーチに手を入れてみれば。
「冷た!?えっ、これって何?」
「だから冷やしたのだよ、ノッペリーノ君。食材を凍らせる事なく保存性能を上げる丁度いい温度。冬の寒さと同じくらいにしてみました!」(どや顔)
やっぱ精霊様ってとんでもねえ、マジックバッグを保冷庫にしちゃいました。
時間停止機能にしなかったの?と聞けば「やり方が分からない!!」という堂々としたお言葉。そりゃそうだわな、ファンタジーの定番とは言え、あれって目茶苦茶とんでも技術なんだもん。
時間魔法って奴だか何だか分からないけど、温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいままで、その物の状態をそのまま保存って意味解らん。
個人的な仮説で言えば時の流れの違う別空間に保存し取り出してるって感じ?こちらで数百年が経っても向こうは数秒とか。
それなら温度が変わらない事も説明が付く。
時間停止とか言ってるけど、そんな事が本当にあったら原子運動も止まっちゃって瞬間氷結どころの話じゃない筈だしね。
収納時にだけ時間の流れが一致するって感じなんだろうな~、冷蔵庫と一緒で開け閉めが多い程温度が変わるとか?
何にしても謎技術である事には変わりないし便利だからいいジャンで済む話なんだけどね、俺には使えないし。
ん?何で使えないかって?そんな高級品は魔力による個人認証キーが標準装備だからだよ!悔しくなんかないんだからね!
「でも精霊様、保存はいいとして駅弁が冷えちゃいますけどいいんですか?冷えた方が美味しい物ってのもありますが」
俺の問い掛けに顔を左右に振り分かってないな~とばかりに“チッチッチッ”と指を振る精霊様。
「フフフフッ、ノッペリーノは私を誰だと思ってるのだ?お弁当の温めなど、私にとっては造作もない事。パンはふっくら焼き立てに、スープは丁度食べ頃に。
勇者と旅をした時に散々やって習得してるのだ。レンジマスターとは私の事なのだ~!」
そう言い胸を逸らしワハハハと笑う精霊様。
・・・電子レンジじゃん。精霊様、召喚勇者にいい様に使われてるじゃん。
「いつも褒め称えられておったのだぞ?」って、そりゃ褒め称えるっての、めっちゃ便利じゃん。
召喚勇者様のコバヤシ・ユウコさん、結構な性格の方だったようでございます。つえ~な~、流石召喚勇者、俺なんかとは大違いだわ。
「それなら安心ですね、気になったお弁当はどんどん買い込んで行きましょうか」
「うむ、良い心掛けなのだ。ハイヨ~ノッペリーノ、買い出しじゃ~、駅弁の屋台に向かうのだ~!」
俺は楽し気にはしゃぐ精霊様を頭に乗せて、フェルナール駅のホームへと降りて行くのでした。
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