第11話 初甘味処でテンプレの崩壊を知る
商業ギルドでの審査及びギルドカード発行は無事に終了した。
面接官のアンダーソンさんに手渡されたギルドカードは丁度胸ポケットに入るくらいの大きさ。
色合いによりランク分けされているらしく、行商や露天商を開く事が許可されているブロンズランク、小商店や食事処と言った小規模店舗を開く事が許可されているシルバーランク、数店舗の店や街を跨いだ店舗を構える商会などを営むゴールドランク、国を跨いだ大規模商会を営むプラチナランクに分かれているとの事であった。
「う~ん、いいね、ブロンズランク。この銅色板って所が渋い!
しかも写真みたいに顔が点描されてるってのがまた何とも。どこかの観光地のお土産みたいで最高。
本来なら本人確認の他に簡単な文字通信機能があったり友達登録が出来るらしいんだけど、その辺は魔道具だもんね、俺じゃどうしようもないし仕方がない」
場所は変わって商業ギルド近くの喫茶店、持ち込んだ毛皮の査定に思いのほか時間が掛かるとの事で、アンダーソンさんに断りを入れ一旦食事に行かせてもらう事にしたのだ。
毛皮以外の薬草類の査定は終わっていたため買取承諾書にサインをし、書類を受付カウンターに持ち込んで換金、資金は潤沢である。
‟カツカツカツカツ”
テーブルに並べられたケーキやシュークリームジュース類の数々、バケツサイズの巨大な山盛りパフェがみるみる間に小さくなっていく光景は、ある種の恐怖を感じる。
そんな中、俺は大人しくハニートーストにナイフを入れる。
この世界のスイーツ、めっちゃ前世で見覚えのある物で溢れておりました。
なんでも三千年以上前、神代と呼ばれた時代には神託による勇者召喚の儀式がよく執り行われていたとか。
テンプレ的魔王と召喚勇者の戦い、大概は共倒れかギリギリで勇者が生き残るといった展開だった様で、百年くらいで魔王が復活するといった事の繰り返しだったんだそうです。
その度に呼び出される召喚勇者様の中には様々な知識や技能を持たれた方々もおられたとの事で、この世界の文化文明に多大な影響を残したとか。
ですがそれも三千年前の勇者魔王連合対創造神と言うとんでもイベントの後ぱったり無くなったとか。
この三千年前の戦いを境にそれ以前を神代、以降を人代と言った感じで区分しているんだそうです。
何で俺がそんな事を知ってるのか?それは甘味処に来る前にちょろっと覗いた書店で買った<「月刊ムーラン~現代に蘇る魔王、再び時代は神代へと戻ってしまうのか!?~」特集異世界勇者召喚速報>に載ってたからですが何か?
いや~、いいよね、この手の胡散臭い雑誌、超好き!
でもあったのかよ勇者召喚、怖いぞ世界を越えた集団拉致。
なんでも召喚された勇者様方は帰還する事なく皆この世界に留まったとか、禁書とされる召喚勇者の手記にはこの世界に対する恨み辛みや元の世界に帰れない事への悲痛な思いが書き綴られているだのなんだの。
闇が深いわ~。当時は語られる事の無い事実も三千年も経てば娯楽雑誌に掲載されちゃうって言うね、時間の流れって面白いよね。
「あっ、精霊様、精霊様。前に精霊様が話してくれた召喚勇者様って、もしかして‟コバヤシ・ユウコ”って名前じゃないですか?」
俺の言葉にバケツパフェから顔を上げた精霊様。その表情はなんでそれを知ってるの?といったもの。
「いや、なんでもサンタール子爵領って所で‟勇者祭”ってお祭りが開かれるらしいんですけど、そこでお祀りされてる勇者様のお名前が‟コバヤシ・ユウコ”だったんですよ。
その勇者様の逸話が以前精霊様に聞いたものとそっくりだったもんですからもしかしたらと思って。
何十万と言う魔物の群れをたった一人で倒し切った英雄、一夜明けて駆け付けた騎士団は死して尚倒れず大地を見据える勇者の姿に畏怖と憧憬を覚えたんだそうです。
以降毎年行われているのがこの慰霊祭、時代が移り変わり廃れた事もあったらしいですけど、形を変えて今日まで受け継がれている。
人の思いと言うものも案外捨てたもんじゃないですね」
そう言いコーヒーを口にする俺に、どこか照れくさそうな顔を向けてから再びスイーツとの戦いに身を投じる精霊様。
想いは決して無駄にはならなかった。
嘗ての英雄に思いを馳せながら、‟復刻版勇者パンケーキ”にフォークを伸ばすノッペリーノなのでありました。
「お待たせして申し訳ありませんでした。それにしても素晴らしい品の数々、本当にオークションに出されなくてもよろしかったのですか?」
喫茶店で山の様にスイーツをむさぼり(犯人は精霊様です、ですので俺の事を信じられないって顔で見ないでください)、ドン引きされつつも商業ギルドへと戻った俺氏。
戻り向かった先は予め指定されていた六番受付窓口、以前ギルド登録の際に訪れた新規登録者専用窓口のあった場所であった。
受付の担当者は前に訪れた俺の事を覚えていたらしく、「無事にギルドカードは発行されたのですね、おめでとうございます」と声を掛けてくれた。
‟この受付職員さんがギルド登録の裏技を知っていなかったらどうなっていた事か”
ラノベテンプレ展開の‟ドジっ子新人受付嬢”に当たらなかった事を心から女神に感謝するノッペリーノなのであった。
「こちらが毛皮類の査定明細となります。それと魔獣の牙や爪、角に貴重な天然魔石も含まれておりましたが本当に当ギルドの買取でよろしいのでしょうか?
王都でのオークションでしたら日数は掛かりますが高値の付く品が多数含まれていたんですが、何でしたらこちらで選別する事も出来ますが?」
そう言いこちらの心配をしてくれる受付職員さん。
そこはガッツリ利益を確保する所じゃないんかい!と思わなくもないが、この国の民度は剣と魔法の世界にも関わらず相当に高い様である。
まぁ魔道具文明の発展のお陰で情報伝達はかなり発達している様ですしね。他国の情報も普通に情報雑誌で確認出来るくらいには発達しています。駅馬車の待合所近くの売店に新聞が置いてあったしな~。
「はい、これは既にアンダーソンさんにも伝えてありますが、成り立ての新人が持ち込んでよい様な内容じゃありませんから。
出所を疑われるくらいならましな方で、窃盗やら盗品販売の売り子の疑いを掛けられる、金銭目的の輩に狙われるなんて事も考えられますんで。
御承知の様に俺に対抗手段はありませんから」
そう言い方を竦めると何とも言えない表情になる受付職員。
いや、大丈夫だから、強く生きて行くから。
「そうですね、これ以上の詮索は返って失礼、申し訳ありませんでした。
では支払いに移らさせていただきます」
‟ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ”
「支払総額ですが金貨五百八十七枚銀貨六十四枚となります。詳細は明細をご覧になっていただければ分かりますが、ゴールデンフォックスやバトルシープといった人気の高い高級素材が含まれていたことが大きいかと。
‟真紅の眼”と呼ばれる天然魔石などはオークションに掛ければ相当な高値が付くのですが、乱高下が激しい品でもある為加工前の素材として取り扱わせて頂きました。
全体の値段は王都でオークションに出品したり加工商会などで手間を掛ければこれの十倍は堅いのですが、ノッペリーノさんがよろしいとの事ですので決済させて頂きます。
こちらの五袋が金貨百枚ずつ、それと金貨八十七枚と銀貨六十四枚のそれぞれが入った袋となります。
これから旅に出られるとの事でしたので敢えて大銀貨は入れていませんがよろしかったでしょうか?」
受付職員さんの気遣いに、礼をし感謝の言葉を伝える。こうした細やかな心遣いが出来るか出来ないかが今後の商売に関わって来るのだろう。
・・・無理だな。受付さん、マジパないです。
ちょっと面倒と思いつつ各袋を開けカウンターに十枚づつの金貨の山を作って数を確認する俺氏。王都や領都などの大きな都市ではギルドカードを使った魔力決済も行われているらしく、商業ギルドでこうして現金での取引を行う人は少ないんだとか。
・・・出たよ魔力決済、情報化社会だよ、魔力情報ネットワークだよ、俺には触れる事の出来ない世界だよ。
このギルドカードだってメール機能が付いてるし、凄いぞ魔道具文明、その恩恵が一切受けれないとなりゃそりゃ同情されちゃうわ。
「はい、確かに受け取らせて頂きました。良い取引をありがとうございました。
それと一つお聞きしたいのですが、王都までの交通手段と言うのはどうなっているんでしょうか?」
私ノッペリーノ、山育ちの田舎者、聞くは一瞬の恥とばかりに情報収集でございます。
で、分かった事、二つ隣のベルーサ子爵領リッテンの街から魔道機関車による鉄道が伸びておりました。そこまでの駅馬車も出ているとの事で、一週間もあれば領都に到着出来るんだとか。
ビバ・インフラ、物流革命万歳。
そりゃ受付職員さんが「王都で売らないの?」って言う訳だよ、王都まで直ぐじゃん。ベネッセさんが女の身で一人旅出来ちゃう訳だよ、交通網が出来上がってるんだもん。
「どうもありがとうございます。王都には一度行ってみたかったんです、今から楽しみです」
「ノッペリーノさん、お気を付けて行ってらしてください。
副ギルド長のアンダーソンからの伝言です。‟商業ギルドテルミン支部はノッペリーノさんをいつでも歓迎いたします。いずれまた良い取引を致しましょう”との事です。
本日はありがとうございました」
席を立ち一礼をしてから受付カウンターを後にする。
って言うかアンダーソンさん副ギルド長だったのかよ、全然気が付かんかったわ。と言うかアンダーソンさんが説明してたじゃん、‟本人の魔力登録を行わない形でのギルド登録は基本的には行っていないが、各支部のギルド長並びに副ギルド長による審査確認の上発行が許可されている”って。
だったら冷静に考えて審査役はギルド長か副ギルド長じゃん、気が付けよ俺!
とてつも無いやっちまった感に苛まれつつ商業ギルドを後にするノッペリーノなのでありました。
「なぁなぁノッペリーノ、この後どうするんだ?駅馬車にでも乗るのか?」
商業ギルドを出てしばらく経ったところで話し掛けて来た精霊様、ちゃんと商業ギルドでは大人しくしていてくれた事にほっと安堵の俺氏です。
「まぁそれでもいいんですけど、別に急ぐ訳でもないんで歩こうかと。その前に武器屋か装具屋に行って桃ちゃん専用の帯剣具でもみつくろえればと。
背中に背負う筒でもいいですよね、景色も見れますし」
「ふ~ん、分かった~。私は家に帰るぞ~、さっき買った雑誌を貸してくれ~」
「<月刊ムーラン>ですか?いいですよ?」
「それじゃまたなのだ~」との言葉を残し俺の胸の中に消えて行く精霊様。三千年ぶりに知ったかつての友人の話、色々思う所があるのだろう。
って言うか精霊様収納魔法使えるのね、雑誌がパッと消えたんですけど。
俺は開いたままの胸の扉を閉めると、専用装具と聞いてうきうきしている桃ちゃんと一緒に武器屋へと向かうのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます