第8話 ギルドでのステータス開示は、お約束です

教会での旅立ちの儀も無事に終了。女神様からありがたいスキルを授かり、教会の無料鑑定を受け鑑定書をいただいた俺は、その足で領都テルミンの商業ギルドへと来ていた。


「すみません。商業ギルドへの会員登録に伺ったんですが、どうしたらよろしいのでしょうか?」

商業ギルド建物は流石と言うべきか三階建てのレンガ作り、入り口も大きく多くの商人や商業関係者が出入りし、中々の賑わいを見せている。

ボックス子爵領と言えば林業と狩猟が中心のあまり裕福ではない地域と聞いていただけに、これは意外な光景であった。


「いらっしゃいませ。新規登録という事でよろしいでしょうか?

でしたらあちらの三番受付窓口で用紙と受付番号カードを貰った後、六番受付の前でお待ちください」

建物の受付ホールの正面、総合受付窓口で案内を受けた俺は言われた通りに三番受付窓口に向かう。


「お待たせいたしました。ご新規の会員登録という事でよろしいでしょうか?

ではこちらの用紙に氏名・住所・年齢をご記入の上、教会で発行されております鑑定書をお持ちになって六番受付前でお待ちください。こちらが受付番号となります」


そう言い窓口のお姉さんから渡されたのは、二十三番と書かれた木札。

「あちらのテーブルでご記入ください」と指示された場所には、幾つかの記載台が用意されており、インクペンも用意されている。

「ありがとうございます」と礼を言いそちらに移動すると、用紙に名前・住所・年齢を記入し、六番窓口の前に移動するのであった。


「お待たせしました。二十三番のカードをお持ちの方はこちらにお願いします」

六番受付窓口は幾つかのブースに分かれており、数名の受付スタッフが新規登録受付業務を行っていた。


「よろしくお願いします。って言うか流石は領都、専用窓口を用意するくらいに新規登録会員がいるんですね」

俺は挨拶もそこそこに、思ってる疑問を口にした。


「あぁ、これですか?今の時期はどうしても新規登録者が増えますから。

年に四回の旅立ちの儀の日から六日間は、専用窓口を作って対応してるんですよ。

初日の今日はそこまででもないですが、明日明後日はこんなもんじゃないんです。

一種のお祭り騒ぎですからね。

でもここは商業ギルドですのでそうでもありませんが、冒険者ギルドなんかはそれこそ受付ホール一杯に人が押し寄せるそうですよ?

比較的小領のボックス子爵領ですらそれですから、より大きな都市では堪ったものじゃないでしょうね?

余計な事を申しました、それでは新規登録の手続きに移らせていただきます。

受付書類と教会の鑑定書をお出しください」


そっか~、冒険者ギルドはもっと混雑してるのか~。

この世に生を受けて十五年、山奥の寒村で育ったわい、絶対に人酔いしそう。

戦闘の才能が無かった事に感謝しつつ、“そんな状況に置かれても、それを乗り越え大成なさったライオスお兄ちゃんってスゲー”と尊敬の念を強くするノッペリーノ十五歳なのでありました。


鑑定書

名前:ノッペリーノ

種族:普人族

年齢:十五歳

スキル ポケット・召喚術


測定結果

魔力:ゼロ

闘気:ゼロ


「えっと、こちらは・・・。鑑定のミスという事は?」

俺の鑑定書を見て言葉の詰まる受付スタッフさん。

まぁそうでしょう、何と言っても“魔力ゼロ・闘気ゼロ”ですから。

おそらくこれまでそうした鑑定結果は見た事がないのでしょう。教会の鑑定士さんも相当に驚かれておられましたし。


「はい、これで間違いありません。二度ほど測定してもらいましたんで。

まぁこれまで特に生活上の不自由は感じた事は無いので、別にいいんですけどね?」

俺がそう言葉を返すと、何故か難しそうな顔をなさる受付スタッフさん。

何か不都合な事でもあるのだろうか?


「う~ん、そうですね、これはノッペリーノさんの生活様式によるとしか言えないんですが、ノッペリーノさんは魔道具と言うものを扱ったことはございますでしょうか?」

受付スタッフさんの言葉に首を横に振る俺氏。

すると何故か納得と言った顔になる受付スタッフさん。


「そうですか。ノッペリーノさんの住所はフェアリ村ですか、あの山間の寒村だったらそうなのかな?

これは非常に言い難いのですが、現代の生活は魔道具全盛と言いますか、魔道具がかなりの割合で普及しているんです。これからお渡しする商業ギルドのギルドカードも魔道具の一つとなります。

そして肝心なのはここからなんですが、この魔道具、起動するのに使用者の魔力を必要とするんです。これはスイッチの入れ切れもそうですし、本人確認もそうなんです。

魔力の波形と言うものは一人一人微妙に異なり、これはたとえ双子のであっても差異が出ると言われているんです。

ですので魔道具の所有者登録や各種本人確認にもこの魔力波形確認方式が採用されているんです。

つまり何が言いたいかと言えば魔道具の使用はもちろん、各ギルドや行政での本人確認登録申請もノッペリーノさんは出来ないという事なんです。

それは商業ギルド会員としての特典でもあるギルド会員口座の使用が出来ないと言う事になります。

そして多くのギルド会員の方がお持ちになっているマジックバッグの使用も難しいかと」


マジックバッグ、それは少年の憧れ。異世界転生者あるあると言ってもいい夢の魔道具。

そんな素晴らしいものがあると知った喜びと、それを使う事が出来ないと宣言された悲しみ、そして何よりそれは個人でも大量の物を持ち運ぶことが出来ると言う物流革命が起きていますと言う知らせ。


「えっと、それでは個人の行商人の方でも結構な量の商品を持ち込んだりしておられると言う事なんでしょうか?」

俺は恐る恐る現実に目を向ける。


「はい、とは言え大容量マジックバッグはそれなりに高価な品ですので大きな商会でしかお持ちになられてはいないでしょうが、個人の行商の方でも二立方メートルの小型マジックバッグ以上の物をお持ちになっていると思います。

ただそうしたマジックバッグは防犯上の観点から個人認証並びにグルーブ認証の措置が取られていますから、魔力の測定が出来ないとなりますと使用は難しいかと。

それ以下のマジックポーチと呼ばれるものでしたら、魔力認証の無いものもありますのでノッペリーノ様もご使用になれると思いますが、行商の荷物を運ぶとなりますと容量的に問題が」


グヌヌヌ、これは何とも。だが希望はある、マジックポーチなら俺でも使える。

って事は細々とではあるものの森の恵みを持ち込む事は可能。

少なくとも生きていく分に必要な物の持ち運び出来そうだ。これは旅生活を予定する身としてはかなりの朗報と言えるだろう。


「なるほど、為になる情報をありがとうございます。それでギルド会員登録自体は可能でしょうか?そちらのギルドカードも魔道具と言う話ですが?」

これは重要、ギルド会員カードはそのまま身分証ともなるもの、この登録が出来ないとなると、それこそフェアリ村での引き籠り生活しか道は無くなるのだから。


「はい、大丈夫です。扱いとしては商業ギルドからの代理発行となりますので一週間ほどお時間を頂く事となりますが、ご用意する事は出来ます。

それと本人確認の都合上ギルド職員による面接を行いますので、その際に何かお売り出来る様な商品をお持ちになっていただければと思います。

これはノッペリーノ様の身分をこちら商業ギルドテルミン支部が保証すると言う扱いになる為、必要な措置だとお考え下さい。

それではこちらの鑑定書は複製を取らせて頂きます」


受付スタッフさんはそう言うと何やら石板の様な物の上に鑑定書を置き、上から板を押し付ける。

・・・それコピー機じゃん、もしくはスキャナーじゃん。そりゃ魔道具全盛にもなるっての。家電量販店みたいなところに行ったら売ってたるするの?お値段はお幾ら?

山間寒村育ちの田舎者との文明落差よ。(涙)


「こちらの鑑定書は各ギルドでの会員登録の際に必要となりますので、大事に保管してください。

それでは再びのお越しをお待ちしております」

受付スタッフさんはそう言うと、鑑定書と一週間後の受付時間を記した面会予約用紙を渡してくれるのだった。


因みにこの世界の一週間は十日、一月は四週間、一年は十カ月となります。

一日の長さは感覚的に大体前世と一緒。時間くらい分からないのかって?山暮らしに時計なんてお洒落なものは無かったんだよ、って言うか魔道具文明難民なんだよ俺は!

商業ギルド受付で電光掲示板的な魔道具の時計を見た時は正直ビビったわ、あれは一体なんですかって聞いちゃったわ、受付スタッフさんの優しい笑みが忘れられないわ!

ライオスお兄ちゃん、よくこの文明ギャップに耐えられたよな~。

・・・ってあの三人、偶に街に出てたじゃん。流石に領都テルミンは遠いからそうそう来てないだろうけど、良く泊まりで買い物とか行ってたじゃん。

何で俺だけはぶられて・・・魔力がないからか~。

変な所で気を使われちゃってたのね。村の大人からしたら小さいうちから絶望感を味合わせない様にって言う気遣いだったのかな?

そして出来上がったのがこの超が付くほどの田舎者と。

俺は村の爺様婆様たちの優しさに涙すればいいのか、気の回し過ぎに涙すればいいのか分からなくなるのでした。



「ただいま~、桃ちゃん。なんか都会って大変だったわ~」

商業ギルドのギルドカードが発行されるまで一週間。そんなに長い事領都に滞在する金銭的余裕も無く、領都の蚤の市で目ぼしい品を発見出来るだけの目利きの才能もない俺は、その足でさっさとフェアリ村へと帰って来ていたのでした。

えっ?フェアリ村って遠いんじゃなかったのかって?

遠いよ?普通に歩いたら五日、かなり急いで途中で野営したとしても四日は欲しい所。

でも俺疲れないし、やろうと思えば一週間くらいなら徹夜も平気だし?

まぁ壁だし?

この辺は前世の経験が生きていると言いますか何と言いますか、つくづく人外だったんだな~と思う今日この頃でございます。


今の身体も相当だとは思うけどね?だって疲れないのよ?こんなんばれたら社畜人生まっしぐらよ?

世の中英雄様だけで成り立ってるんじゃないんです、コツコツ働く普通の人間こそが世の中を回しているんです。そんな所にまるで魔道具の様にずっと働き続ける事の出来る便利な奴が現れたらどうします?

負担を全部押し付けるに決まってます。

俺って組織に入ったら死ぬまで飼い殺しにされる運命なのね。ワンオペ地獄が待ってるって奴?

そう言えばそんなラノベってあったよな~、冒険者ギルドの職員が首になって元のギルドがボロボロになる奴。首になった元職員は別のホワイトギルドに移ってちやほやされるんだけど、客観的に見ればやってる事は変わらないって落ちじゃなかったっけ?

その辺は調子に乗ってぼろを出さない様にしよう。変わり者程度で済ませれば問題ないっしょ。


で、歩いて二日、ノンストップで帰って来たって訳でございます。


「ノッペリーノどこに行ってた~!村に行っても誰もいないし、探したんだぞ~!!」

俺が森に来たのが分かったのか精霊様のご登場、って言うかむっちゃ怒ってるじゃん。


「いや、だから前から言ってたじゃん、フェアリ村は廃村になっちゃったって。

今は誰も住んでないんだってば。

そんで俺は旅立ちの儀を機に村を出て行商の旅に出るって。

まぁそれでも暫くは商材集めの為にの森に来るけど、ある程度集めたら村を出るつもりだから。

その為に商業ギルドで俺にも使う事の出来るマジックポーチって言う魔道具を買って来たんだからさ」


俺はそう言うと、精霊様に腰に下げたポーチを自慢げに見せつけるのでした。

このポーチを買ったお陰で俺の手持ちはすっからかん。領都に滞在出来なくなってしまったって言う落ちなんですけどね。


「なになに、ちょっと見せてみろ!」

そう言いマジックポーチの中に飛び込む精霊様。

えっ!?マジックポーチって生き物は入れる事が出来ないんじゃないの?確か商業ギルドの店員さんがそんな事を言ってた様な・・・、精霊様生き物じゃなかったわ。

実体がある様なない様なと言った高位存在とかなんとか?エネルギー生命体みたいなものらしいって事を仰っていた様な気がします。


「狭ーい、だから広げといた!」

ブフォ、精霊様、行き成り何を!?

俺は恐る恐るどれくらいの大きさにしたのか聞いてみると、

「う~ん、ノッペリーノの家くらい!ゆったり空間が無いと落ち着けない!」との事。


元々一・五立方メートルの一般的なマジックポーチは中型マジックバッグと呼んでも差し支えの無いサイズにクラスアップなされた様でございます。

俺は精霊様の御厚意に感謝するも、引き攣る笑顔を止める事が出来ないのでありました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る