第7話 旅立ちの儀は、女神様からの贈り物です
領都の中心に聳えたつ大きな建物、レンガ作りでとんがり屋根のそこは俗に言う大聖堂って奴なんだろう。
今日は年に四回ある授けの儀と旅立ちの儀の儀式を行う日。大勢の若者やその家族が儀式に参加する為集まって来ており、教会前の広場はお祭りの様な賑わいを見せている。
テルミンの街に来てばったり出くわしたベネッセさんは、フェアリ村にいた頃の快活さをそのままに、確りお貴族様の奥様と言った風格を兼ね備えておられました。
周囲にお付きの兵士様方々を引き連れておられてもそれに臆する事無く、むしろ当たり前と言った態度を取れるのは流石の一言。とても山間部の寒村出身とは思えない落ち着き様。
これこそが隠居なさったとは言えお貴族様の後添えに入る程の女っぷりって奴なんでしょう。
まぁベネッセさん曰く、後添えって事にまでなったのはフェアリ村を旅立った英雄の卵たちの活躍があったからって事なんですが。
あの三人、まずこのテルミンで冒険者登録をして冒険者活動を開始したんですが、既に基礎は出来上がってましたからね。普通なら一つ二つの依頼をこつこつ熟すところを、一日に複数の依頼をガンガン熟して直ぐに銀級冒険者に昇格してしまったんだそうです。
銀級冒険者昇格試験も難なく熟した事から、冒険者ギルドでは期待の新人と注目されたとか。ライオスお兄ちゃんが今のお嫁さんと出会ったのもこの頃ですね。って言うかかなりしょっぱなからロックオンされてたのね、ライオスお兄ちゃん世間慣れしてないから・・・。
それで銀級冒険者になった事で各地を移動出来る様になった三人は、ライオスお兄ちゃんのお嫁さんも含めた四人で“自由の翼”って冒険者パーティーを組んで、国内各地に赴いては大層な依頼を次々と熟して行ったんだとか。
大盗賊団の退治やらスタンピードの制圧やらワイバーンの討伐やら?
って言うかいるのかよワイバーン。ワイバーンってあれだろ?ラ〇ンだろ、ラド〇。
もしかしてガメ〇とかゴジ〇とかもいるとか?キングギド〇もいたりするのか!?
超見てぇ、世界は謎と東宝に包まれてるって奴じゃん。キャ~、最高!!
ゴホンッ、失礼。
そんでもってそんなこんなの大活躍で一躍有名人になったんですけどね、ライオスお兄ちゃんがすることしたら子供が出来ちゃいましたってんで冒険者を引退、以前依頼の関係で知り合ったカザルフ侯爵様の所の領兵採用試験を受けて兵士になったんだとか。
まぁ真面目と言うか不器用というか、その時ライオスお兄ちゃん白金級冒険者ですからね?本来引く手数多なのよ?採用試験を受け持った試験官超ビックリよ?
何でもワイバーンを討伐すると白金級冒険者になれるらしいです。ワイバーンってそれだけ化け物って事ですね。
そんな大物が自分の所の領兵採用試験を受けたってんでカザルフ侯爵様大慌て、直々に「本当にウチに来るの?だったらもっと好待遇で迎えるけど?」って確認なさったとか。
でもそこはライオスお兄ちゃん、「そうした依怙贔屓は後の軋轢を生みますので」と言ってきっぱり断たんだとか。今の領兵長と言う地位はしっかり仕事が認められた結果なんだそうです。
「ライオス君のその高潔な姿勢は各貴族家でも評判でね、皆してカザルフ侯爵様が羨ましいって噂しているらしいわよ?」とはベネッセさんのお言葉。これには身内として鼻が高いと言うものです。
そんで残った二人、白金級冒険者パーティー“自由の翼”のレインとミリアお姉ちゃんですが、メンバーを補充して王都を拠点に活躍なさっているとか。
王家や高位貴族の覚えも目出度く、なんと王族との謁見も果たしたとかなんとか。
ベネッセさんはそんな有名人のお母様ってことで、ボックス子爵家としてはあわよくばって気持ちもあり先代様との婚姻を快く承諾なさったんだとか。
風が吹けば桶屋が儲かるとの言葉の如く、どこがどう転んで繋がって行くのかなんて分からないものです。
「それじゃ行って来るよ。親父殿も気を付けて。
お母様、どうぞお身体をご自愛ください。旅の無事を心よりお祈りしております」
「あぁ、ノッペリーノも達者でな。と言うかなんでそうも俺とダリアとで態度が違うんだ?なんか俺に対して軽くないか?」
今更ながらの疑問を口にする親父殿、そんなものお母様が恐ろしいからに決まってるじゃないですか。お母様は決して怒らせてはいけない。ノッペリーノ、ライオスお兄ちゃんを見ていて学習しました。
ライオスお兄ちゃんは一切学習なさらなかったみたいですが。
「ガルバス、そんなもの私の人徳の賜物だろ?今更くだらない事を聞くんじゃないよ。
ノッペリーノ、これから先はアンタの人生だ。私達の事は気にしなくても良いから自由に生きな。
困った事が有ったらいつでも頼ってくれていいからね?私達はライオスの所に世話になるとは言っても、一から十まで頼り切るつもりは毛頭ないんだ。
ノッペリーノ一人くらい何とでもしてあげれるからさ」
そう言い俺の髪をクシャクシャと撫でるお母様。
ガルバスお父さん、ダリアお母さん、ライオスお兄ちゃん。
俺は本当に良い家族に恵まれたと心から思う。
「ありがとう、ダリアお母さん。
ガルバスお父さん、ダリアお母さん。これまで本当にお世話になりました。
どうかこれからもお元気で。
ライオスお兄さんにはよろしくお伝えください、落ち着いたら一度顔を出すと。
では名残惜しいですがこれにて」
俺はそう別れの言葉を述べると踵を返し大聖堂へと向かう。これは永の別れではない、再び会うその時まで。
「ノッペリーノの奴、最後の最後にお父さんって言いやがって。くそ、泣かせるじゃねえか」
「フフフッ、あの子も決める所は決めるんだね。頑張んな、ノッペリーノ。
アンタの土産話を楽しみにしてるよ」
ガルバスとダリアは石段を上り大聖堂へと入って行く息子の後ろ姿を、いつまでも見詰め続けるのでした。
大聖堂の中は天上が高く、格子の付いたガラス窓から日の光が差し込むとても神聖な雰囲気の場所でした。
「旅立ちの儀を受けられる方はこちらの受付にお並び下さい。儀式は順番に執り行っております」
声を上げ誘導を行うシスター様、若者たちは皆その言葉に素直に従い、粛々と儀式に臨みます。
ここで下手に騒ぎを起こしでもすれば大切なスキルが貰えない、感謝申し上げるだけの授けの儀と違い、きちんとした儀式を執り行って貰えなければ女神様の祝福を得られない旅立ちの儀は皆真剣そのもの。その頂けるスキルによっては人生が変わるとまでも言われているのが、この旅立ちの儀式なのです。
「では次の方たちは女神様像の前に座り司祭様のお声をお聞きください。司祭様の合図で目を瞑り祈りを捧げる様に」
シスター様のお言葉に従い女神像の前へと移動します。
その神秘的な面立ちをした女神像に、“やっぱりこう言った偶像ってどれも美形に作るのね。信仰度合いと信仰対象の容姿が密接に関わってるって事なんだろうな~”などど大変失礼な事を考える俺氏。人妖時代に世話になった神々を思い出しながら“そう言えば人由来の神々って何故か美形が多かったよな、あれも人の思いの形だったからなんだろうな”と懐かしの過去に思いを馳せます。
「大いなる女神アスラーダ様は常に我々を見守り、寄り添ってくださいます。
スキルとは女神アスラーダ様の慈悲、それがどの様なものであろうとも、女神様がお傍で見守って下さっている証であると思い、日々精進してください。
では膝を突き胸の前で手を組んで目を御閉じ下さい。
“大いなる女神よ、新たなる旅立ちを迎える者たちに祝福を、皆の旅路に幸多からん事を”」
“フワッ”
司祭様が祝詞を上げた直後身体の中を通る何か、その身と魂に新たに何かが刻まれた、そう言った感覚。
「では儀式の終わった皆様は、こちらにご移動をお願いします」
シスター様の掛け声に移動を開始する俺たち。向かった先は幾つかのブースが作られた小ホール。
「手元に受付の用紙はお持ちですか?そちらを係りの者に出して鑑定と魔力測定、闘気測定を行ってください。
鑑定書はすぐに発行されます。これは各ギルドで登録を行う際の身分証として使われますので大切に保管しておいてください。
各ギルドでは登録の際に教会の鑑定書の提示が義務付けられています。無くされた場合教会にて再鑑定を行う事も出来ますが、大銀貨五枚の費用が掛かりますのでご注意ください」
シスターの言葉に騒めく俺たち。大銀貨五枚と言えばそこそこの大金、これから渡される鑑定書にはそれだけの価値があると言う事。
「次の方どうぞ」
俺はシスター様に促されるまま鑑定ブースへと向かいます。
「受付書類をお願いします。フェアリ村のノッペリーノ様ですね。
ではこれより鑑定を行います。<人物鑑定>」
鑑定士様がスキル名を唱えると、何かゾクッとした感覚が走り、それが鑑定スキルなんだと言う事が分かります。
すると鑑定士様のお隣に座っていた方が何やら石板の様な物を見て、カリカリと書類に記入されました。
「あぁ、これは鑑定結果を表示する魔道具ね。私の手元の水晶球から鑑定の情報が石板に映し出される仕組みなの。私も詳しい事は分からないんだけどね。
それじゃ今度はテーブルの青い石板に手を置いて貰えるかしら?」
俺は言われるがまま青色の石板に右手を載せました。
「あれ?おかしいわね。ちゃんと手は・・・載ってるわね。
ちょっとごめんなさい。ねぇデイリー、私が石板に手を置くから数値を見てくれる?
どう?問題ないの?
えっと、ノッペリーノさん、申し訳ないんですけど、もう一度石板に手を載せてもらえるかしら?何かうまく測定出来なかったみたいなの」
そう言い申し訳なさそうに再測定を行おうとする鑑定士さん。
「あぁ、それですか。俺ってどうやら魔力と闘気がほとんど無いらしいんですよ。
これは村の元冒険者の大人に言われた事なんですが、俺って詠唱さえ知ってれば誰にでも使えるって言われている生活魔法すら使えないんですよね。
だから数値が測定されなくても多分魔道具の不具合じゃないですよ?
まぁそれで困るって事もないんでいいんですけどね」
そう言い頭を掻く俺に、口をポカーンとさせる鑑定士様。
「そ、そうなんだ。それは何と言っていいのか。
まぁ、一応測定だけしてみましょうか。
先ず青い石板に手をお願い。はい、ありがとう。
続いて赤い石板にも。はい、どうも。
うん、ノッペリーノさんの言う通りね、魔力値と闘気の値はゼロです。
これは測定範囲に無いってだけで全く無いって訳じゃないと思うんだけど、私も学者じゃないから何とも言えないわ。
それとこれが鑑定結果ね」
そう言い鑑定士さんは隣の職員さんが発行したばかりの鑑定書を、封筒に入れて手渡してくれるのでした。
鑑定書
名前:ノッペリーノ
種族:普人族
年齢:十五歳
スキル ポケット・召喚術
測定結果
魔力:ゼロ
闘気:ゼロ
「あの、この召喚術って言うのは?」
俺の質問に何か困った様な顔をする鑑定士さん。
鑑定士さんはそれでも職務とばかりに口を開かれました。
「召喚術って言うスキルは使用者が魔力を対価に呼び掛けを行い、魔獣や魔物を呼び出して使役するスキルね。一度召喚に応えてくれた魔獣や魔物はその関係が断たれない限り何度でも現れてくれるって話よ。
でもその対価がね、魔力なのよ。ノッペリーノさんの場合最初の呼び掛けがね?」
・・・うん、知ってた。ポケットと一緒か~、超納得。
スキルは魔力で武技は闘気だったっけかな?親父殿が教えてくれた通りって事ね、了解了解。
旅立ちの儀を受ける前、親父殿とお母様が俺の鑑定結果を待たずに旅立たれた理由。
どんな鑑定結果が出ようと変わらないってのを知ってたからなんですよね。
その事は事前に聞かされていたから俺もショックは無いんですけどね。
「召喚術ですか、そう言うものもあるんですね、一体どんなものが召喚されたりするんですか?」
これは単なる好奇心、だって召喚術ですよ?凄い気になるじゃん。
「そうね、割りとよく聞くのはウルフ系の魔物やバード系の魔物。中にはオーガやバトルホースを召喚する者もいるって聞いた事があるわ。
伝説級の召喚士はグリフォンやワイバーンを召喚したって話が残ってるわね」
グリフォンですと、いるのかグリフォン、ちょっと背中に乗せて欲しいんだけど!?
「ハハハッ、夢があるんですね。楽しいお話をありがとうございました」
俺は礼を言うと、鑑定ブースの席を立つ。
あの、そんなに不憫な者を見る様な目で見なくても大丈夫ですから、頑張って生きて行きますから!
俺は俺たちの会話が聞こえていたであろう会場にいた若者やシスター様方から同情の視線を受けながら、教会を後にするのでした。
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