第6話 現実って厳しいです。でも切っ掛けなんてこんなものかと
あれから三年、フェアリ村、廃村になっちゃいました。
急に時間が進み過ぎて意味が分からない?まぁそうですね、順を追ってお話しします。
まず俺の生活です。一切代わり映え無し。
森に行って木の実や薬草を取り、表向きはのんびりとした生活を送らせて頂きました。
実際は桃ちゃんの所に行ったり、精霊様と遊んだり。
そうそう、精霊様の住むと言われている湧き水の泉、本当に精霊様の家がありました。正確にはあの泉の場所が侵入ゲートになっていて、自らの精霊領域を構築なさっているとの事でした。要するに“精霊の庭”ですね。
ただこちらの精霊様、騒がしいのは嫌いと言って眷属である妖精を作られないんだとか。その昔の人族による妖精狩りを知っている手前、ああ言った事はちょっとと言った事の様です。
常春の花園と森の泉を合わせた様な場所で、神秘的でありながら居心地の良い空間となっておりました。
そんでもってこの精霊空間、場所固定ではなく文字通りの別空間。
ゲートを取り払って別の場所に固定すればいつでもお引越しが出来るんだそうです。
「中々私の気に入るような場所が無くて、この場所に辿り着くまでに結構な旅をしたのだ」とは精霊様のお言葉。
自由奔放に見える精霊様も、結構なご苦労があった様です。
そんでフェアリ村ですが、村のお年寄りの方々、皆さんお亡くなりになられてしまいました。
別に流行り病とかではなく単純に高齢者って事で寿命の様でした。
生前の言葉通り皆さんそれぞれの葬儀の際には俺も参列し、ご冥福をお祈りさせて頂きました。
因みにこの地域のお葬式は火葬です。何でも森で埋葬した場合、魔力の関係か高確率でアンデッドモンスターが出現しちゃうんだとか。だもんで昔に戦場になった様な古戦場なんかだと、夜になるとスケルトンやスケルトンナイト、レイスなんかが出現するとかしないとか。(親父殿情報)
ご遺体は布に包み墓所になる場所に穴を掘り横たえ、リンダさんが光属性系魔法の<浄化>を掛け魂を来世へと送り出し、マルコおじさんが火属性魔法の<獄炎>で燃やし今世との縁を断ち切ってくれました。
お墓にはそれぞれの方の思い入れの強い品を埋葬、石碑を建て祈りを捧げました。
そんな事をこの三年間の間に六軒分。皆さんこの世界では相当に高齢だった様で、下は七十六歳から上は八十四歳まで、親父殿曰く大往生であったとの事でした。
我が家の期待の星、ライオスお兄ちゃんですが、なんとカザルフ侯爵様と言うお貴族様の領地の領兵試験に合格、現在領兵長と言うお役目に付いておられます。
あの夢追い人になるかと思っていたライオスお兄ちゃんが堅実に就職なさったと聞いた時は、そりゃ村を上げて驚いたものです。
何でもライオスお兄ちゃん、お嫁さんが出来たらしく、子供が生まれる前に定職に就こうと思ったんだとか。因みに歳は三つ上との事・・・。
ライオスお兄ちゃん、年上女性に上手い事捕まってしまった様です。
まぁ手紙ではとても家庭的で働き者のお嫁さんだとか。
それで俺が旅立ちの儀を迎えたら一緒に暮らさないかと両親に言って来たのが廃村の切っ掛けでした。
既に守るべき村のお年寄りもいない、子供たちは巣立ってしまった。
最後の子供である俺もこの夏の旅立ちの儀で成人。潮時だと言うのが両親とマルコさん夫婦の結論でした。
「ノッペリーノ、俺とダリアはお前の旅立ちの儀を見届けたらその足でライオスの所に向かおうと思っているが、お前はどうする?」
食事の後、親父殿が珍しく真剣な顔で話しがあると言って来たので身構えていると、今後の事についての相談でした。
「う~ん、ちょっと方々を回ってみようと思って。俺ってこの山間の村の事しか知らないから、少し見聞を広めてみたいって言うか、世の中を見てみたい。
ただライオスお兄ちゃんみたいに力があるって訳じゃないから冒険者は無理、かと言って薬師の真似事も出来ないし。
なんで商業ギルドに登録して旅の行商人でもしようと思ってる。
長年森に住み暮らして来たんだ、食うには困らないよ。あとは商品価値が有って人々に喜ばれる品、薬草や香辛料。森の中でもそう言ったものは採取出来るしね。
基本的に森の恵みで生きて行くって感じ。人相手の大商いなんて無理無理無理、採取物を売って小金を稼ぐのが精々だって」
俺の言葉に若干呆れた顔をするも、それもノッペリーノらしいかと納得顔になる親父殿。
「お前に魔力の才能が有ればな、スキル<ポケット>で商品の運搬も出来ただろうに」
「それこそ今更だって。無いものは無い。これは諦めでも開き直りでもなく事実、だったら今出来る事をすればいい。
幸い俺はバカみたいな持久力があるしね、疲れるって事を知らない。その気になればどこ迄でも歩いて行ける、それも悪くないんじゃない?
旅立ちの儀が終わったら一度村に戻って来て、商材になりそうなものを準備してから旅に出るよ。なに、これは同じ年の成人が皆やってる事、何とかなるって」
俺はカラ元気でもなんでもないと言った風に親父殿に言葉を向ける。この言葉は御勝手で洗い物をしながら俺たちの会話に耳をそばだてているお母様に向けてのものでもあるのだが。
「分かった。この家にある物は好きに持って行っていい。と言うか貴重な物以外は皆置いて行くんだがな。
本来なら盗賊の棲み処にならない様に全ての家を解体しないといけないんだが、そんな労力もな。かと言ってマルコが燃やして山火事にでもなったら目も当てられないしな」
「そう言えばマルコさんたちはどうするの?俺たちと一緒に村を出るみたいなことを言ってたけど」
俺の疑問にニヤリとした笑みを浮かべる親父殿。
「あぁ、何でもベネッセさんがボックス子爵様の後添えになったらしくてな、マルコ達に自分の所に来てくれないかって声を掛けたらしい」
「はぁ?えっ?ベネッセさんってあの一花咲かせるって村を出たベネッセさんだよね?王都に行ってから国を回っていずれは世界に旅立つとか言ってなかったっけ?
ボックス子爵様ってこの地域の領主様だよね?近くない?
王都だってもっと離れてるよ?全然旅立ててないじゃん」
俺の言葉に遂に噴き出す親父殿、御勝手からもお母様の笑い声が響く。
「一応王都迄は行ったらしい。そこでジークの様子やら街の様子やらを見て暮らしていたんだと。そうしたらそこで先代のボックス子爵様に見初められてそのまま後添えにって感じだな。
子爵様も代替わりしたばかり、四十後半じゃなかったか?奥様も大分前に無くして独り身を持て余していたんだろうさ。
ベネッセは見た目はあれだが中身は婆様だからな、落ち着きのある穏やかな女性にでも見えたんじゃないのか?
本来お貴族様の後添えに平民のベネッセがなれる訳はないんだが、既に代を譲り隠居したご身分であれば話は別、ゆったりと余生をお過ごしあそばすんじゃないのか?
別邸に移って数名の配下を引き連れて行かれるそうなんだが、マルコにその配下に加わらないかと言う誘いが来てな。俺の所にも声を掛けてくれたんだが、俺はライオスの所に行くと決めていたからな」
人生紆余曲折、何があるのか本当に分からない。
「そうなんだ、それじゃ遠慮なく必要そうなものがあったら貰う事にするよ」
俺はそう言いテーブルのカップを掴むと、親父殿と軽く打ち付けるのでした。
フェアリ村を出て五日、領都テルミンの街は活気に溢れた地方都市と言った所でした。ってか人多くね?街も確り整備されてるし、フェアリ村との落差が甚だし過ぎるんですけど!?
石畳の街道を走り抜ける馬車は板バネ式サスペンション完備、大昔にシャーロックなんたらって探偵の外国ドラマに出てきたような立派な馬車がカタコトと。
まぁ我が家にも板ガラスが確り嵌ってましたし?物流はかなり盛んだと思ってはいましたけど、この文明レベル。
軽く近代文明行ってね?ここって剣と魔法の世界だよね?魔物蔓延るとか言ってたよね?領兵とか騎士団とかあるんだよね?
なんか思ってたのと結構違うってショックです。
「どうしたノッペリーノ、そんな呆けた顔をして」
イヤイヤお父様、「どうした?」じゃないですから、
ミスった~、マジミスった~。こんな物流が盛んな世の中で徒歩の行商?需要があるの?やろうとしている事って富山の薬売りレベルよ?そんなに多くのモノは運べないのよ?
「あぁ、ノッペリーノはあの村から出た事なかったもんな、その反応も仕方がないと言えば仕方がないか。ライオスやミリア、レインなんかは何度か街に出ていたからそうでもないが、あの村しか知らなかったらそうなってもおかしくない。
これは俺が悪かった」
そう言い頭を下げ謝罪する親父殿。そんな俺たちの姿を温かく見守るお母様とマルコさん夫婦。
「マルコ、ガルバス、リンダ、ダリア!」
そんなほのぼのとした田舎者あるあるを繰り広げている俺たちに向かい掛けられた声。それは幾人かの兵士に守られた品のいいドレスに身を包んだ御婦人からのもの。
「えっ、ベネッセさん?全く分かりませんでした。すっかり高貴な身分の御婦人になられてしまって。
えっと、お声をお掛けして申し訳ございません?」
不意のベネッセさんの登場に、どう対応したらいいのか分からず混乱する親父殿。
取り敢えず身分は平民だし、失礼の無い様に接すればいいと思いますよ?
「アハハハ、いいのよ、そんなに畏まらなくても。お貴族様の後添えとは言っても旦那様は既に隠居された身、私も身分としては平民のまま、立場的には愛妾と呼ばれる者と変わらないわ。
まぁ私はそんな事はどうでもいいんですけど、旦那様の顔に泥を塗る訳にもいかないし、ある程度気を使ってくれると助かるかしら。
お付きの兵の方々も既に隠居された方や平民出身の方よ、その辺はあまりうるさくは言わないわ。
それでマルコとリンダはうちに来てくれるって事でいいのかしら?」
「はい、奥様。このマルコ、妻リンダ共々よろしくお願いいたします」
そう言い深々と礼をするマルコおじさんとリンダさん。
「そう、助かるわ。これから移り住む別邸はフェアリ村ほどじゃないけど山麓なの。
それなりに魔物も出るし、そうした時に旦那様の所の兵が役に立たないとなっては面子に関わるもの。
かと言って現役の主力を引き抜く訳にはいかないし、その辺の調整って結構難しいのよ。
ガルバスたちはライオス君の所に身を寄せるんですって?」
「はい、長男ライオスは所帯を持ち領兵長の役職を得て安定した生活を送っている様ですし、何より山奥で暮らす私達の心配をして共に暮らさないかと言ってくれています。私はライオスのその優しさが嬉しかった。
次男ノッペリーノも旅立ちの儀を迎え旅に出たいと申していますし、これを機にライオスの所に身を寄せようかと。
大した事は出来ませんが、少しでも息子の手助けが出来ればと思っております」
ガルバスの言葉に我が事の様に嬉し気な笑みを浮かべるベネッセ。
「そう、あのライオス君が。昔から空回りしてばっかりだったけど、心根の優しい子だったから。別に私は自分の道を後悔していないしミリアの生き方も応援しているけど、ガルバスの話を聞くとちょっと羨ましくも感じるわね。
まぁいいわ、気が向いたらいつでも訪ねて来て。ガルバスとダリアだったら大歓迎だから。
で、ノッペリーノが旅立ちと。
なんか時の経つのって早いわよね~。あのちんちくりんだったノッペリーノが、それなりの青年って感じに見えるんですもの。
でもあなた大丈夫なの?ノッペリーノって魔力も闘気もてんでダメだったんじゃないの?」
ベネッセの言葉に「いや~、お恥ずかしい」と頭を掻くノッペリーノ。
そんな彼の態度に“この子は変わらないわね~”と懐かしさを感じるベネッセ。
「ベネッセさん、お久し振りです。それとご結婚おめでとうございます。
俺は知っての通りの無才ですので、戦闘はちょっと。それに才能も乏しいので調薬系の仕事も。
ですんで商業ギルドに登録して行商人としてやっていこうかと。
まぁその実態は森で素材を採取して納品する事が主にはなると思うんですけどね。
冒険者になって素材採取専門でやって行くって道もあるんですけど、冒険者って基本脳筋じゃないですか?
そう言った働き方をしてると突っ掛かって来る連中がいると思うんですよね。
その点商業ギルドは商品しか見てませんから、本人が最弱でも関係ないんですよ。
後は必要な品物を必要な所へお届けって形で食い繋ごうと思ってたんですけどね。
この街に来てビックリしました、物流が盛んです事。
街道整備も確りなされてるし、もしかしなくても街を繋いだ馬車移動網も整備されちゃってたりしますよね?
って事は行商人を心待ちにするような村々なんてないじゃないですか~。良くて露天商?地方で安く仕入れて街場で売る?
生きてくのって大変ですね~」
そう言いがっくりと肩を落とすノッペリーノに、肩を震わせて笑うベネッセ。
己の境遇を嘆く事なくある物で何とかする子供だったノッペリーノ、その心根が歪む事なく無事に旅立ちの儀を迎える事が出来た事は、ガルバスをはじめとしたフェアリ村の人達の気持ちをどこか温かいものにするのでした。
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