第6話

 コロンブス公爵令嬢の様子がおかしい。

 元々苦手な人ではあったが、ニーナと出会うたびに笑顔を向けてくるのだ。意味がわからな過ぎて怖い。上流階級流の威嚇だろうか。前々から目を付けられている気はしていたが何かやってしまっただろうか。身に覚えがない。最近は事あるごとに二人きりになりたがる頭お花畑クソ殿下ー不敬なのは承知だがこれでも足りないくらいであるーから逃げて食堂に行く日々だった。

 上流階級の令嬢達から因縁をつけられるのはよくあることなので、コロンブス公爵令嬢もそうなのかもしれない。ニーナは上流階級を品の良いギャングかお淑やかな闇ギルドだと思っている。

「ふふふっ」

 ぞわぁっと鳥肌が立つ。怖い。ひたすらに怖い。


  * * *


「私もうすぐでクレメーンス男爵令嬢とお友達になれそうな気がしますの!」

「…へぇ」

 気の所為だと思うけど、とは言えない。折角前向きになっているのだから水をさすのは野暮だろう。

「ねぇ、料理人様!今日はなんの料理を教えてくださいますの!?」

「あー、そうさなぁ。弁当でも作ってみるか?」

「お弁当…?」

「お嬢様には馴染みないか。お昼御飯なんかを持ち歩いてさ、外で食べるんだよ」

「まぁ!お外で!?」

 弁当を作る人間は居ない。マギリキ・テクニ・ムネーメのお陰で食べ物を持ち運ぶ必要が無いからだ。

「外で食べる御飯も良いもんだよ。今回はサンドイッチにしようかね」

 材料はセーフリームニルという決して食べ尽くすことの出来ない豚型の魔のモノのハムにハルピュイアの卵、マンドラゴラの葉。それらをパンに挟んで出来上がりだ。

「結構簡単ですのね」

「シンプルだからこそ工夫が大事になってくる。少しの手間で大分味が変わるから試しに一個作ってみると良い」

「ふふん!直ぐにサンドイッチマスターになってみせますわ!」

 そう意気込み、取り敢えず適当に具材を挟んでみる。

「食べ難そうですわ」

「いや卵は潰すんだよ」

 ゆで卵を丸々パンに挟んで首を傾げるカサンドラにリベルテが助言する。潰す。こうですの?とパンに挟んだまま卵を握り潰した。

「パンも潰れてしまいましたわ〜!」

「あんだけ握ればね」

「サンドイッチ…奥が深いんですわね…」

 そういうつもりでは無かったのだが、楽しそうだからいいかとリベルテはぺしゃんこになったサンドイッチを奪い取って食べた。

「ああ!私のサンドイッチ!」

「次は教わりながら作ろうな」

 工夫はまだ早かったかと反省する。料理を始めたばかりなのだから基本から始めなければ駄目なのだと痛感した。

「そうですわ!」

「どうしたの、お嬢様」

「クレメーンス男爵令嬢をお昼御飯に誘いましょう!!」

「…うまくいくといいネ」

 勿論ニーナには断られた。


「どうしてですのぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


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