第4話

「なんでいっつもダメなんですのぉ〜〜〜〜〜!!!!」


 突っ伏して机を叩くカサンドラの手には空のグラス。床には空瓶が転がっていた。

「もうそのへんでやめときなよ、お嬢様。後で後悔するよぉ?」

「良いんですの!マスター、もう一杯!」

「はいはい。ミルクね」

「お酒をくださいまし〜〜!!」

「ミルクで我慢しときな」

 そう空瓶は牛乳瓶であった。グラス・ガヴナンの乳である。尤もカサンドラは知らぬ事だが。

「で?友達になりたい相手が居るけど、中々友達になれないと」

「それどころか拒絶されてしまいましたわ」

「嫌われてるんじゃないの」

「う゛ぅ〜〜〜〜〜〜!!!」

「わー!!ごめんごめん!言い過ぎた!!」

 打首は勘弁願いたい。触れるのも憚れたのでリベルテは軽くつまめそうな甘いものを出すことにした。女性はいつだって甘いものが好きなものだ。

 つるんっとした黄色の上に茶色の液体がかかった食べ物をカサンドラの前に置く。食べ物はスライムの様にぷるぷる揺れたが、スライムと違って透明感はない。

「ハルピュイアの卵とグラス・ガヴナンの乳で作ったプリンだ」

「よくわからないけれど、いただきますわ!」

 全く警戒心のないカサンドラが少し心配になったが、カサンドラは気にすること無くプリンをスプーンで掬い口にした。

 濃厚で滑らかな卵とミルキーで優しい甘みにほろ苦い茶色のソース。つるりと食べやすく美味しい甘味にカサンドラは公爵令嬢という立場を忘れて目を輝かせた。

「おっ、美味しいですわぁ〜〜〜!!」

 マナーがなってないと言われるだろうペースで「美味しい美味しい」と食べ進め、空になった皿を舐めそうになるギリギリのところで思い留まる。もう一皿、と言いたくなるが沢山食べるのは品が良い行為ではない。名残惜しい顔で空になった皿を見つめる事しか出来なかった。

「美味しかったか?」

「ええ、とても」

 片付けられていく皿をつい目で追ってしまう。カサンドラの様子に苦笑いしたリベルテは、プリンが乗ったもう一皿をカサンドラの前に置いた。

「内緒な」

「り、料理人様ぁ〜〜〜〜!!!!」

 最高の気分で、カサンドラは遠慮なく二個目のプリンを頬張り始めた。

「それで?どうやったら仲良くなれるか考えてくれって?」

 そうカサンドラのお願いとは『友達の作り方を教えてほしい』というものであった。といってもリベルテも友達が多い訳では無い。まあ、多ければいいというものでもないが。

「なんでも良いんですの。他の人の意見が知りたいといいますか」

「参考になりそうな事が言えるかねぇ」

 友達の作り方というのは人それぞれだ。リベルテはそう考える。だからリベルテのやり方がカサンドラに合うとは限らない。

「同じものを食べるか、一緒に料理を作るかかなぁ」

「おっ、同じものを食べるですって!?」

 言った後に「しまった」と気付いた。料理が親から子に受け継がれるこの世界では、同じものを食べるのは家族だけ。つまり違う家の者同士が同じものを食べるというのは結婚の申し出を意味するのである。

「えっと今のは違くて」

「そんな私確かにクレメーンス男爵令嬢の事を好意的に見ておりますけど結婚だなんてまだ早…まずはお友達からはじめてその後々に…」

 カサンドラが顔を赤らめながらくねくねと照れている様子を見て「あ、満更でもなさそう」と弁明を止めた。最近の子供は進んでるなぁと、未だくねくねしているカサンドラを見ながらリベルテは黙ってミルクを呷った。

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