第三話 膝蓋骨張大毒薬
「まったく……」
桂は、本日二度目の水浴びを終えた紫音の
まだ朝飯も食っていないのにこの騒ぎとは、呆れたものである。
「ね、桂兄ちゃん、ご飯なに?
顔を拭いてもらった紫音が、服の前をぴらぴらさせたまま土間をうろちょろするので、桂は捕まえて付紐を結んでやりつつ、「ご飯と味噌汁と芋の煮物」と答える。
紫音は当然「飽きたぁー」と嘆きながらも、朝からたっぷり騒いで腹が減っているので、
ごめんな、うち、貧乏で。
その言葉は、一度言ったきり、胸の奥に
しかし、その悲しさは、桂が想像し
ともかく桂は、紫音はその話をしてほしくないのだと理解した。
それでも、桂は考えてしまう。
自分がもっと稼ぐことができたら、紫音に
だが、何の才も無い
しかし、もっと稼げたら――。
――いや、考えていても仕方ない。
桂は、いつもの中途半端な長さの髪を結び直そうとし、
やはり、紫音の実験台になるのはごめんだ。
桂は視界の端で紫音の動きを監視しつつ、盛り付けの途中だった料理を仕上げて、畳の間に二人分の
「ほら紫音、座れー」
畳の間の
「熱いぞ。
紫音がそのまま、食事を
「はい座る」
桂は紫音の脇の下に両手を入れて吊り上げ、紙のように薄い座布団に座らせる。紫音の正座はべちゃんと
桂は紫音を所定の位置につかせると、自分も紫音の前の座布団に移動し、
「いただきます」
紫音のせいで、今朝も時間が無い。
「いただきまぁす……」
紫音は兄と一緒に手を合わせ、だらだらと食前の挨拶を言うが、挨拶を終えるとぱっと箸を取り、
「
「うん」
毎日同じような食事に飽き飽きしているうえ、毒薬のことで頭が一杯の紫音の返事は、いつも通り退屈そうだ。
「そうか」
返ってくるのは毎度同じ返事だと分かっているが、桂は紫音のわんぱくな食い方が何だか好きなので、ついつい
しかし、いつまでも弟を眺めているわけにはいかない。
目の前で米を
米は古いが、炊き方は悪くない。いや、もう少し水が多くても良かったか。紫音は米が固いと残す。
芋も悪くない。紫音のせいで煮汁に
味噌汁の具は、紫音に教わった食べられる雑草のみだが、これもなかなかいける。ただ、草が少し成長しすぎていたのか、いつもより
「ん?」
桂は不意に襲った下半身の重みに、声を漏らす。
……まさか。
桂は口の中の味噌汁を飲み込むのも忘れ、恐る恐る下を見る。
「ぶっ」
桂は目に入った光景に、味噌汁を紫音の顔面に向かって思い切り吹き出す。
その味噌汁を華麗に
「なっ、何しやがった紫音!」
桂は慌てて箸と
桂は毎日、もちろん今日だって、料理中は特に紫音の動きから目を離さないようにしているのに――。
「ぐへへへへ……。『アソコ』が大きくなる毒薬だよぉ……。うひゃひゃひゃ……」
紫音は桂の下半身を
「んなもん! どうやって!」
心当たりがあるとすれば、紫音の顔に付いていた粉か、味噌汁に入れた草――?
だが、それならば、桂だけがこうなっているのはおかしい。紫音はぴんぴんしているどころか元気が増しているのに、桂は下半身の重みのせいで、もはや立ち上がることはおろか、正座をした
「ぐっへへへへ……」
紫音は膨れ上がる桂の服の裾を、三日月形に
「いやあ、
椀……!
桂は記憶を
「年頃の男の人はみーんな、おっきいアソコが欲しいんでしょお?」
紫音はにたにた笑いながら、桂に見せつけるように、自分の椀から安全な味噌汁を
「クッソ、やりやがったな!」
桂は悪態を
……それにしても。
巨大な膝の皿が欲しい奴が、どこにいる!
「しおおおおおおおおおおおおおおん!」
紫音は、二枚の
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