この子。本を食べるそうです。

畏怖

本編↓

俺の脳内を覗き込めるやついるか?

いるなら一つ聞きたいことがある。

俺の漫画達はどこへいったんだ?

知らねぇってな!うん!当たり前だな!

「うめぇー」

「あ?」

え?何この女の子。漫画食ってる。

「あ、こんにちわー」

「あ、どうも」

むしゃっむしゃっむしゃっ。

「おぉーおいしぃー。」

待ってくれ、、俺がおかしいのかもしれない。

そうだ!きっと夏バテのせいだな!!うん!

俺は2階から駆け降り、洗面台で顔を洗いまた2階に戻る。

「おかりなさいっ!」

「お出迎えどうも、、、」

えぇ、、怖い怖すぎる。

夢でもみねぇじゃんこんなの。

「ねぇ、、漫画、、、」

「あぁ!おいしいですっ!ありがとうっ!」

「それはよかった!」

俺は勝てなかったんだ、、あの笑顔に。

聞けねぇじゃんっ!?ただでさえ男子校で女の子としゃべんないのに!!!

「???」

「どったんですか、、そんなにキョトンとした目をして、、」

「他人が食べてるの見るの好きなんですか?変な趣味ですねぇ、、」

「いや、あなたが食べてるそれをみるのが趣味なんです」

「それはいい趣味ですね!」

「うん!もうなくなったけどね!」

「あれま!それは大変だ、、私も少しはお役にっ、、うめっ、、立てれば、、うめぇっ、、いいんですがね!」

シュレッダーの擬人化かなんかかよこいつ。

俺の漫画ほとんどなくなってるんだけど。

「あのぉ、、君はほんとになんなの?」

「え?あぁ、、本の妖精です!!」

「本の妖精なんだね!」

「うんっ!」

妖精って、、もっとこう、、、杖とかで魔法使ったりとかっっ!

「ここうまいっ!!」

そういうのじゃっ!?

「ああああっったまんないっ!!」

ないのかな!?!?

「ひゃぁぁぁっっ!おいしいっっ!」

ぎゃぁぁぁ!!棚がぁぁぁ!!!!からっぽだぁぁぁぁ!!

「ごちそうさまっ!!」

「あぁ、、ら、、らぁー、、」

「おい人間!美味だった!!」

「なんだろう、、笑顔で語りかけるのやめてもらっていいですか?」

調子狂うなぁ、、こいつ。

「その、、妖精さん?」

「妖精さんとか言うのはやめたまえ、、、」

「じゃぁなんと呼べば、、」

「まずは自己紹介させてくれっ」

「あ、はい」

「我が名は本の妖精メリファエル・フェインリード!!本を愛し、本を食し、本と生きる女っ!!」

「めりふぁえる、、フェイントサード?」

「フェインリード!!一回で聞き取って!?」

「すまんすまん、、、で、メリさんはなんで教科書とかは食べてくれないんだ?そっちを食べてくれたら今頃、、、」

「サボろうとしてんじゃないですよ!!ったく、、しかもメリさんて、、」

怒られてしまった。

「あっちのは不味いのっ!あなたがそんなんだから!!」

「そんなんってなんだ!!そんなんって!!」

失礼なやつだっ!

「勉強、、、嫌いでしょう?」

「当たり前だ。大嫌いだっ!」

「結構言いきりますね、、、」

「おうっ!」

「なんでそんな自信に満ちているの、、」

「で、何が言いたいんだ?」

「本に限らず、物には所持していた人の気持ちや思い出が残ったりしているんです。そして私は本を食べる上で味としてそれを感じている」

「なるほど、、?つまりあんまりいい思い出がない教科書は不味くて漫画は美味しく感じたわけか」

「ビンゴっ!!」

「なるほどなぁ、美味しいから漫画を食べてたわけか、、、ってなるかいっっ!!だからって勝手に食べたらダメだろっ!!」

「たしかに、、それは本当にごめんなさい」

「反省してるならいいんだけど、、」

「はっ、、チョロ、、」

ん?こいつなんか言ったかな?チョロって聞こえたんだけど?

「それでだ!!漫画を食べさせてもらったお礼に何か一つ軽めのお願いを聞いてやろうっ」

「あんだけ食べたのに軽めなのかよ!!」

「読んだものの一回で満足して棚に永久保存してるのはどこのどいつかな?」

「くっ、、!でもよく読んでるのもあるぞ!?だから趣味だって言ったろ!?」

「あそこにある奴ですよね」

「あそこにある奴ですね」

くそっ!

「で、お願い何にします?」

「えぇー、じゃぁ牛丼食べたい」

「わかりましたっ!買ってきます!!」

「おう!行ってらっしゃい!!」

バタンッと勢いよくドアを閉め、出ていってしまった。

魔法、、使えないんだな、、。

約30分後、メリは牛丼を2つ買って帰ってきた。

メリの背丈はそこまで高いと言うわけではないので、年下の女の子パシっているように思えてきて箸が進まなかったが一口食べるとそんなこと忘れて完食してしまった。

「ありがとな。おいしかった」

「いえいえ!本以外もたまには食べてみるもんですね!」

そうやって楽しそうに笑うメリを苦笑しながら見ているとメリが俺の方に向き直って正座をした。

「なんだなんだ?いきなりそんなに礼儀正しくして」

「私っ!!いろんな本の味を知りたいんですっ!!いろんな人の生活に!人生に!物語に!関わってきた本達の!!」

「俺に手伝ってほしい、、と?」

「そうですっ!!お願いしますっ!!」

ここまでお願いされては仕方ないか。

「わかったよ。力になろうと思う」

「ほんと!?ありがとうっ!!」

さぁ、どうすればいいか考えるかぁ。

「どうするつもりなんです?本を食べるなんて受け止めてくれる人いなさそうですけど、、」

んー、そうだよなぁ。

食べさせてください!ありがとうございます!美味だったっ!

じゃ、おかしな人扱いされそうだしなぁ、、。

まぁ今も十分おかしな人だけども、、。

「お手伝いをして、対価として本を貰えばいいんじゃないか」

「たしかに!!それなら自然だね!」

こんな単純なことに気づかない僕らだが、うまくやっていけるのだろうか、、不安は積もるばかりである。


翌日、僕らは朝ごはんを済まし目的地へ向かう。

「なぁ、琉斗!どこへ向かうんだ?」

「親戚のお姉さんの家だよ。三咲っていう人。まずは身近なところからだね」

「そだねー」

あれ?俺名前教えてたっけな、、?

敬語もいつの間にかどっかいっちゃってるし、、。

と、そんなことを考えていたが、ルンルンと跳ねながら歩くメリを見てると、どうでもよくなったので考えることをやめた。

「てかその髪色目立つなぁ」

白銀という言葉が似合う綺麗な髪色をしているメリは、すれ違ういろんな人の注目の的だ。

「黒髪にできるぞ?しとこうか?」

「まぁ、外だけはそうしとくか」

「なんだ?独占欲か??」

そうやってニヤニヤするメリ。

「うっさいっ!!もうすぐ着くぞ」

目的地のアパート前には三咲さんが立っていた。

「おお!琉斗ぉぉ!久しぶり!」

「お久しぶりです三咲さん」

「そんな固くなんなって!お!そちらに見える黒髪の美人さんは例の本が好きな子かな?」

スムーズに髪色変わってるな、、妖精ってすごい。

「あ、はい!いろんな意味で、、」

あー、よだれよだれっ!

「、、ん?まぁいいやっ!!今日はお手伝いしてくれるってことでおけ?」

「はい!なにをすれば、、?」

「まぁ、立ち話もなんだしうち入りな!」

「はい!」

そう言って俺達は二人で元気に返事をして、お邪魔することになった。

のだが、、。

「なんだこりゃ、、」

軽めのゴミ屋敷である。

「いやぁ、同棲してた彼氏と別れちゃってさー?1人だとこの有り様って訳よね、、うん」

「もしかしてお手伝いって、、」

「うん、、お掃除を、、」

やべぇもん引き受けたのかもしれないな、、俺らは。

「やらせてくださいっ!!」

「おっ!えっと、、」

「メリですっ!!」

「メリちゃん!!頼んだよ!!私はこれからバイトだから!!」

「了解ですっ!!」

そうやって敬礼のポーズをするメリ。

「よしっ!あ、琉斗だけちょっとこっち、、」

「あ、はい」

手招きされたので三咲さんの方に近づく。

「あの子のお陰?」

「何がです?」

「少し明るくなったように感じたからさー?」

「そうですかね、、」

そう言ってうつむく俺を見て三咲さんは頭をワシャワシャっと撫でてきた。

「わぁっ!」

「ゆっくりでいいんだよっ!そんなにすぐ立ち直れることではないと思うし、、、」

「、、、」

「あっ、ごめん、、」

「いえいえ!それよりバイトの時間ヤバイんじゃないですか?」

「あっ!!ごめん!また後でぇ!冷蔵庫のもんは勝手に飲んでいいから!!」

「はーい!」

嵐みたいな人だなぁ、、ほんと、、。

明るくなった、、か。

人と関わることも最近してこなかったしな。

予想外のことの連続でいろんな壁が壊れたのかもな、、。

「メリに感謝だな」

「なぁぁぁ!!琉斗!!」

部屋の中からだ。

「どうしたー?」

「見てくれっ!」

部屋に入ってみるとほとんどが綺麗にまとまっていた。

「すごいっ!こんなに早くできるとは!」

「まぁ、妖精だからねっ!」

「そうだったなぁ、そういや」

「忘れんなし!!」

そうやって二人で笑いあった。

その後、俺達は残りの片付けを終わらせてゆっくりしていた。

「ただいまぁっ!!」

三咲さんが帰ってきた。

「お帰りなさーい」

二人で応える。

「わぁぁっ!!めっちゃ綺麗!!」

「そうでしょー!」

そう言ってドヤるメリ。

「二人ともありがとうっ!!これお礼っ!」

ジュースとお菓子を買ってきてくれた。

「いいんですか?」

「勝手に飲んでいいよとは言ったものの、あなた達飲まなそうだなと思って買ってきたのさ、、三咲お姉さんに感謝しな??」

「ありがとうございますっ!」

本当にいい人だな、、この人。

とそんなことを思いつつお菓子に手を伸ばそうとしていると

「あのっ!」

と大きな声をメリが出した。

「どうしたー?メリちゃん」

「あのっ、、本を、、」

「あー!そうだったね!棚にあった好きな本持ってっていいよ!」

「あそこにある本もいいですか!?」

「ん?あー、、いいけどあれは元カレの忘れ物だぜ、、私の呪いが詰まってる、、」

そうやってお化けのポーズをする三咲さん。

「はいっ!大丈夫です!!」

「物好きだねぇ、、いいよー持ってって」

「ありがとうございます!!」

持って帰れる量の本を紙袋に積めて三咲さんのアパートを後にした。

帰り際に「二人でまた来てもいいよっ!」なんて言葉を貰ってしまった。

またパシらせる気だな、、?

にしても、、、また、、か。

出会いというものはいつかの終わりへのスタートラインだ。

僕はメリとのスタートラインに立ってしまった。

「いつまでいれるかな、、」

「ん?どうした?」

「いやー?なんもない」

未来がどうなるかなんて欠片もわかんないし、想像なんてできないけれど、こんな日が続くといいな。


朝。

紙が破れる音で目が覚めた。

「おはよう、、メリ」

「おはよう琉斗、、、」

「どうしたんだ?そんな険しそうな顔して」

「いやぁ、、なんだか大人な味だな、、と思ってね」

「あー、あの呪いの本?」

「言い方ってもんがあんでしょっ!!」

朝が賑やかになったな、、そうメリを見て感じた。

一階の食卓に行くと父がいた。

「おはよう」

「うん、、、おはよう」

父の挨拶に無愛想に返す。

「三咲ちゃんの家に手伝いに行ったんだって?」

「うん」

「元気にしてたか?」

「うん」

「そうか、、」

紡ごうとする父の言葉を俺がプツンと切る。

いつもこうだ。

これが俺の朝だ。

「メリとの朝の方が楽しいや、、」

「どうかしたか?」

「なんも」

俺は朝食を片付け自室に戻る。

「おかえりー」

「完食だな、、」

本の山は一気に消えていた。

「なぁ琉斗」

「どうした?メリ」

「両親のことについて、、聞いてもいいか?」

「、、、、」

「嫌ならいいよ!無理にとは言わん!!」

「いや、、伝えておく」

俺はうつむきながら語り始めた。

「ある日の夕方のことだ、、」

思い出すだけでも苦しい。

だが迷わず語る。

「母が交通事故に遭った。中学の頃だ。家に帰り、母の帰りを待ってたんだ。ちょうど家の近くの交差点だった。

俺は「事故があったらしいぞ!」っていう近所の友達の話を聞いてその交差点まで興味本意で行ってみたんだよ」

涙が溢れてくる。

「自分の母だったんだ。倒れてたの。」

言葉には嗚咽が混じる。それでも紡ぐ。

メリに知って貰いたいから?

違う。

ただ自分の気持ちを吐露したかったんだ。

ずっと、、、誰かに。

「母かもわかんないほどひどい状態だったよ。でもわかっちゃったんだ。左腕にさ、、つけてたんだよ。俺が母の誕生日にあげたやっすい腕時計をさ」

涙は頬をつたって床に落ちる。

「その後さ、、俺は病院で母を間近で見たよ。辛かった。悲しかった。それでもそこで待ってたんだ、、父のこと」

拳を握る力が強くなる。

「4時間。4時間来なかったんだ」

メリもその話に感化されてか涙を流していた。

「それから父とは話していない。父を悪い人とは思ってはいないし、嫌いではないんだ。けどどうしても許せなかった。だからこんな感じになっちゃったんだよ」

涙を服で雑に拭き取り、無理に笑みを作る。

「笑えるだろ?こんな年にもなって意地はってんだよ、、」

「笑わない」

「え?」

「笑わないよ!私は!!」

小さなその体で俺のことを抱き締める。

「今日は泣こう?我慢した分もっと泣こう?辛かったこと、キツかったこと全部話そ?全部聞く。全部受け止める」

「ああっ、、あぁぁぁぁ」

久しぶりに泣いた。母がこの世を去ってからの琉斗という僕の人生が、過ごしてきた日々が認められていく。

涙で目が見えない。きっと変な顔してる。

でもそんなの関係ないとばかりに泣いた。

そんな朝を過ごした。

しばらく経って気持ちも収まり、メリから離れた。

「仲直りすべきだよ」

「え?」

「お父さんと」

「でも、、、もう2年くらいまともに話してない」

「唯一の家族でしょ?意地はってちゃ人生損だよ」

「そうだよな、、、」

今度だ。

気持ちの整理がついたらしっかり話してみよう。

「今日はどうする?」

「んー、気分転換に散歩かな?」

「本はいいのか?」

「うん!なんか今日は君の感情が結構入ってきててお腹一杯!」

「そか」

笑顔になれる。

あんなに閉ざしていた心が開いていく。

そんな力がメリにはあるのかもなぁ、、。

「じゃーいくか!」

「まずは着替えないとねっ!」

「あ、、」

「ふふっ」

「ははっ」

二人の笑い声が部屋に響く。

僕の生活に光をくれた。陰を照らしてくれた。

感謝してもしつくせないなぁ、、ほんと。


昼頃、俺達はファミレスなるものに来ていた。

「悩み聞いて貰ったし、好きなの食っていいぞ」

「いいのかっ!?ありがとっ!!」

「ていうか、人間の飯は食えるんか?」

「食べれるぞー!」

「そうだったのか」

「なんて言うかな~、、人間で言うとこの、、ぱふぇ?だな!」

メニュー表を指差しそう答える。

「デザート的な??」

「そそっ!」

「へー、健康にはいいのか?」

「まぁ、妖精に健康もなにもないんだけれどね」

「そりゃ、そうだなっ」

その後メリはラーメン等を頼んで楽しそうに頬張っていた。

「いやぁ、おいしかった!!」

「だろぉ?人間の食べ物も上手いんだ」

「本も上手いぞ!!」

「あいにく人間には紙とインクの味しかしないんだよ」

「そうなのかぁー、、」

残念そうに呟くメリ。

そんなに言うなら食べてみたいな。

途中リタイアだろうけどな。

「ん???」

「どうした?」

「あれはっっ!!甘い本!!」

「あぁぁっ!?なんだそれ!!ちょちょっ!走んな!!」

お姉さんの方に走っていくメリを相手に触れるギリギリで止める

「きゃっ!」

「すみません!!」

「おねぇさん!!その本!!」

「え?この本?」

と首を傾げながら読んでいた文庫本を指差す。

「今見てる奴じゃなくてバックの奴っ!!」

「えっ?、、これ?」

バックから本を取り出しそれをメリに見せる。

「それそれそれそれ!!」

「飼い主見つけた犬か!!お前は!!」

見間違いかよだれもたれている気がする

「ふふっ、、面白いね君たち」

「面白さだけでやってる乙女なのでっ!!」

「乙女は他人の本を得るためだけにそんな命かけないのよ!!」

そんなことを言い合っていると

「いいよ、この本あげる」

とお姉さんが言った。

「いいんですか!!ありがとうございますっ!!」

「無理言ってすみません、、」

「いやっ!いいのよ!!どうせずっとバックの中にあったものだし、、その本就職して初めて買った本でさ?見すぎて内容覚えちゃったのよね」

「そうだったんですか」

「本を好きな子がもってくれた方がその本も喜ぶだろうしね」

食として好きで、バックの中からあの子の胃のなかに移るだけなんですけどね?なんてことは口が裂けても言えない。

「ただで貰うのは気が引けるんですけど、、」

「そうですっ!なにかお礼をっ!!」

「んー、、そうねぇ」

お姉さんは悩んだ素振りを見せた後

「だったらお父さんの相手をしてくれない?」

と提案をしてきた。

「お父さん?」

「そう!最近寂しくしてるから相手してあげてほしいなって」

「このメリちゃんに任せなさいっ!!」

「ふふっ、楽しみにしてるね」


少し離れた町のとある昔ながらの家がお姉さんの実家だという。

僕らはバスに乗り、そこまで移動した。

「おとうさーん!帰ったよー!」

「おぉ、 菜穂!お帰りー」

「こんにちわ!」

「お?なんだい?二人の小さなお客さんじゃないか!入って入って!」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

靴を揃えて上がった後、机を囲むようにしてみんなで座った。

「で、どんなご用件で?」

「えっと、、そのぉ、、」

「私が来てもらったの」

「菜穂が?」

「そう」

「そうだったのか、、迷惑じゃなかったか?」

「いえいえ!まったく!」

「お父さんっ!!」

ダンッと机を叩いてメリが立ち上がった。

メリっっ!?どうしたんだっ!?

「何かあったんですか!?悩みとか!」

「どうしてそう思った?」

「顔にかいてありますっ!!」

「顔にかいてあったか!!」

そう言って笑い出した。

ふと、思い出したのかメリに話す

「そうだなー、あるにはあるな」

「それを解決させていただきませんか!?」

「ほう?なにがほしいんだ?」

「あの小説ですっ!!」

棚の上段に置かれていた古そうな本を指差す

「ずいぶん古いのを選ぶんだね」

「はいっ!!魅力を感じました!」

面接かなんかかこいつ。

「じゃぁお願いしようかな」

「はいっ!」

「簡単なものだよ、、ある本を見つけてほしい」

そう語る顔には少し寂しさがあった。

「病気で亡くなった妻が好きだった本でね?私は一度も見たことがないんだ」

「なるほど、、、ヒントとかは?」

「ほとんど覚えていないからねぇ、、本としか、、」

「おでこ借りるね」

そう言ってメリはお父さんの額に急に手を当てた

「うぉっ!どうしたんだ!?」

「なにしてんだっ!!メリッ!!」

「少し記憶を覗くね」

「そんなことができるのか??」

「私こう見えて妖精なのっ」

「あははっ、おもしろいっやってみてくれ!」

「ふんふんふん、、、んん?」

「どうした?メリ」

「嬢ちゃん、、なんかわかったか?」

メリは、先ほど欲しい本があると言った棚の方に歩き出した。

「ねぇ、この下から二番目の棚に入ってる本はお父さんのではないよね?」

「亡くなった妻のだな」

「出してもいい?」

「いいが丁寧に扱ってくれよー?傷つきでもしたら悲しい」

「うん、わかってる」

そう言って慎重に本を取り出して行くと、奥から箱がでてきた。

「これ開けてみて?私にはこの鍵の番号わかんないし、、」

「わかった」

「お父さん、、番号なんてわかるの?」

「菜穂、、あの母さんだぞ??結婚記念日か菜穂の誕生日さ」

「それもそうね」

何回目かのトライでその鍵は空いた。

「なにこれ、、アルバム?」

「ああっ、、あぁぁ、、」

「どうしたのお父さん!!急に泣き出して!」

「そうだったそうだった!!なんで忘れてたんだっ!!母さんはっ、、、由香はっ、、」

泣き崩れるお父さん。訳がわからなくなっている菜穂さん。

「どういうこと?メリ」

小声でメリに聞いてみる

「好きな本。それは文がいっぱい書いてあるものでも、絵が書いてあるものでもなかったんだ。」

「というと、、?」

「このアルバムだよ、、」

お父さんは涙を拭きながらページをめくっていく。

「病にかかり余命宣告をされたときに妻が作っていたんだ」

「奥さんが、、、」

「私がいなくなったら暗くなるだろうから、私がいたときのこと思い出してまた笑ってほしいってな」

ページをめくりまた涙を浮かべる。

「ちくしよぉぉっっ!!さらに恋しくなるだろうが!!アホッッ!!」

「さぁ、琉斗。帰ろっか」

「だね。このままいても悪いしね。」

「まってくれぇっ!今度礼をさせてくれ!!頼むッ!!」

「そうですねぇ、、じゃぁ、、菜穂さんを琉斗のお嫁さんに、、」

「やめとけバカっ!ほんとすみませんっっ!!」

軽く頭を叩いておく。

「はっはっはっ!!考えておこうっ!!」

「ちょっとお父さんっ!私未成年との恋なんて捕まっちゃうんだけどっ!?」

みんなの笑い声が響く。

なんだかこの家も訪れたときより少し空気が柔らかくなったような気がする。

「ありがとう」

バス停まで送ってくれた菜穂さんにあらためて礼をいわれた。

「私達はなにもしてません。結局あのお父さんを救ったのは奥さんのアルバムなんですよ」

とキメ顔でいうメリ。

「そう言ってくれると、、天国の母も喜びます、、」

そう言って菜穂さんは笑う。

帰りのバスが来たので俺らはそれに乗る。

「よくわかったね。アルバムなんて」

「うーん、まぁ記憶を見たときに小説の大きさではなさそうだったからねー。あと下の段だけ少し広く作られてたでしょ?隠すならそこかな?と」

「すごいね、、名探偵だ」

「あと、あの年のお父さんから生まれてきたんだろ??菜穂さん、、、若そうに見えるけど実は三、」

「やかましっっ!」

「いてっ!」

チョップ一発である。

なんだかなぁ、最後は締まんない奴だよなぁメリは。

まぁそこがいいとこな訳だが。

ちなみにこのあと爆睡したので三つほどバス停を過ぎていったのはここだけの話である。


今日も今日とて紙を破く音で目が覚めた。

「おはよ」

「おー、琉斗っ!おはよー」

「菜穂さんの本か?それ」

「そうそうっ!なんだかんだ大事にされてんだろうねぇ、、パフェみたいな味がする」

「そりゃおいしそうだ」

そう話しているうちに本は消えていた。

「ごちそうさま~っ!」

おいしそうで何よりだ。

「琉斗もごはん食べてきなよ」

「そうだな、、、」

「頑張ってね」

「うん、、」

そうだな、、、頑張らないといけない。

ずっとこの関係性ってのも嫌だしな。

「おはよう」

「おっ、、、うん」

どんな感じに喋ってたっけ俺。

いつも通りってなんなんだ、、、。

「父さんもう会社いくからな」

「あ、、うん」

結局話せないままなのかな。

踏み込めずに終わるのかな。

メリならどうする?メリならどんなことをする、、?

「あっ、あのっっ!」

玄関で革靴を履こうとしている父さんの背中に語りかける。

「ん?」

「いってらっしゃいっ!」

「あっ、、」

父さんは目を丸くして言葉がでてこないようだった。

「いってらっしゃい、、か、、ふふっ」

「どうしたんだよ」

「いやっ、、なんでもない、、、いってきます」

そう言ってドアを開けようとする父そんの目には少し涙が見えた。

「なぁ?意外と簡単だろう?」

「わぁっ!メリ!!ここまで出てきてもいいのか!?」

「もうお父さんには私の存在はバレているよ?」

「そうなのかっ!?」

「あんがい妖精ってのも信じてくれた!」

「そ、、そうか、、」

あの人もなぁ、、順応性が高いと言うか、騙されやすいと言うか。

「琉斗!!」

「ん?」

「今日はなにする!?なにして遊ぶっ!?」

そうやって僕の顔を覗き込むメリ。

「今日は少し歩いてみようか」

「デートってやつかい?」

「ま、、まぁそうだね」

デートという言葉で胸が高鳴る。

小学生男子かよ、、俺は、、、。

準備を終えて、俺らは外に出た。

「今日は妙に暑いですねぇ琉斗くんっ、、」

「まぁ、、夏だからなぁ」

今年の夏はかなりの猛暑だ。

「今日はもっと暑くなるのかねぇ」

「メリは暑いの苦手か?」

そう問うと笑顔で

「うん!」

と返してきた。

「苦手なんかよ、、」

なら外に連れ出すな。

なんて言葉が喉元まで出たが、なんだかんだ楽しかったので口に出さないでおいた。

「あ、本屋あるぞメリ」

「おー!!本屋だ!!涼みにいきますかぁ」

「食うなよ?」

「食わないよッッ!!大体新しい本は嫌いなんだよ私は」

「不味いのか?」

「なんだろう、、人間で言うと生肉食べてる感覚に近いのかも、、」

「そりゃぁ、嫌だな」

そう真剣な表情でそう答えるメリがおかしくって俺は笑みを押さえきれずにいた。

本屋でいろんな本を見たりしていると、いつの間にか12時を過ぎ昼食の時間となっていた。

「もうこんな時間か!!琉斗といると時間が過ぎるのが早いね」

「おっ、、おう」

俺の腕時計を覗き込みながらそんなことを言うメリに少し照れてしまい、顔を背けながら変な声を出してしまう。

昼食は初めて二人で行ったファミレスに行くことにした。

「本以外を食べるのもよいねぇ」

「是非ともまだ慣れないから本以外も食べてほしいもんだ」

「心配なのー?」

そうやってニヤつくメリ。

ほんっとこいつは。

「ほら、食べ終わったなら出るぞー」

「えっっ!?答えてくれねぇのかいっ!!あんちゃんっ!」

どこのおっさんだよ、、。

そこからは適当に店を回った。

洋服を見に行ったり、UFOキャッチャーをしたり、町を歩きながらいろんなものを食べたりと世のカップルがしそうなことをたくさんした。

四時頃、僕らは帰路ついた。

「楽しかったねぇ」

「そうだな」

「琉斗も楽しかった?」

「まぁ、、そうだなっ」

いつもの仕返しと言わんばかりに俺は笑顔を作った。

「それはずるいですって、、琉斗さん」

「あれぇ、照れてんの?」

「照れてないっっ!!」

幸せだな。

そう思った。

この日々が、この子との生活続けばいいな。

そう思った。

「琉斗ぉー!!携帯鳴ってるぞー?」

「あっ、ほんとだ、、。三咲さん??」

メリにそう言われて電話に出る。

「どうしたんですか?」

「真也さんが、、、琉斗のお父さんがっ!」

「え?」

「病院に、、運ばれちゃった」

「は?」

そこで俺の思考は止まった。

三咲さんの声は涙混じりでよく聞き取れなかったが、この前俺達がお世話になったお礼をお父さんがしに行こうと三咲さんのアパートに向かっている道中、道に飛び出し轢かれそうになった少女を庇い轢かれてしまったそうだ。

「なぁ、、、俺はどうすりゃいい?三咲さん」

涙より驚きが先導する。

嫌な記憶が頭をよぎる。

「見舞いに行きなさい」

「で、、でも」

「でもじゃないっ!!あんたの唯一の家族なんだよ!!」

「っ!!」

僕は走り出した。病院の場所を電話越しに聞き、必死に走った。

病院の前には三咲さんが目元を赤くして立っていた。

「入れないってさ、、」

「え?」

「結構重体らしくて、、私達も入れないようなとこで手術してるみたい」

「そ、、そんな、、」

血の気が引く。嫌なことばかり考えてしまう。

「琉斗っ!!」

メリの声が背から聞こえた。

「あんときの本好きの、、、」

「三咲さんこんにちわっ!!琉斗くん借りていいですか!!」

「えっ?、、」

「お父さんを助けれるかもしれません!!」

そうやってメリは僕の手を引く。

「ちょっとっ!!って、、行っちゃった、、」

俺の手を引きながら走るメリ。

俺は意味がわからなくてその手を無理やりはね除けた。

「なんなんだよっ!!メリ!!」

「助けたいんでしょ!?お父さんを!!」

「そりゃっ!、、そうだけど、、」

「仲直りしたいんでしょ!!?」

「そうだけどっ!」

「なら黙ってついてきてっ!!」

そうやってまた俺の手を強く引く。

俺らは走って。走って。走って。

やがて俺の家についた。

「家、、?ってうわぁっ!」

メリは靴を脱ぎ、俺を引き階段を駆け上がる。

「君の一番の思い出の本を!!」

「えっ!?」

「早く!!」

「う、、うん!」

僕は探した。

すると元々漫画で埋め尽くされていた棚にある絵本を見つけた。

「こっ!!この本!!」

「わかった!!って、、えっ、この本は、、?」

「俺の幼い頃にさ?母さんが読み聞かせてくれた本なんだ、、」

「お母さんとの、、思い出、、」

「そうだね、、もう母さんとの思い出なんて写真くらいだと思ってたのに、、まだ残ってたんだ、、、」

「そっ、、そう、、なんだね」

「これで大丈夫?父さんは助かる?」

「えっ!?あっ、、うん、、だっ!だからお父さんのところにいってあげて!!きっと上手くいくっ!!」

「わかった!!」

俺は信じることにした。

急いで階段を駆け降り、靴を履いて走り出した。

途中つまづいたりもしたけれど痛くなんてなかった。

病院につくと三咲さんがタバコを吸っていた。

「三咲さん、、、やめたんじゃ?」

「あっ、、いや、、心配でどうしてもね、、、」

そう言ってうつむく三咲さんの目には涙が浮かんでいた。

約一時間後、医者に呼ばれ俺達は話を聞きに行った。

助かりました。

そう医者は言った。

医者曰く父さんが助かったのは奇跡だそうだ。

きっとメリが助けてくれたんだろう。

メリには最近感謝しかしてないや。

「三咲さん!メリのお陰だよきっと!!」

「えっ?誰?」

「ほら!本が好きなあの子!!」

「えーと、、、アニメとかの、、話?ごめんね?私アニメとか疎くて、、」

え?

何かおかしい。

消えてる。

メリが、、三咲さんの中からっ!!

「三咲さん!!ちょっと、、、行ってくる!」

「えっ!?あっ!!ちょっと!!」

そうやって俺は走り出した。

「もうっ、、さっきもあの子に引っ張られてどっかいったのにっ!!」

そうやってまたタバコに火をつける。

「ありゃ?あの子って、、誰のことだ?」

家の前まで走ってきた。

息を切らしていた。

吐きそうになりながらも俺は階段を駆け上がる。

「メリッ!!」

「あっ、、琉斗、、」

メリの周りには蛍のような光が舞っていた。

「なぁっ!おいっ!お前っ!!何したんだよ!!」

そうやって肩を掴もうとすると、俺の手は空を切った。

「へっ?」

「えっと、、もしかして私、、失敗しちゃったかな?」

「いやっ!!父さんは助かった!!大丈夫だっ!!けどお前がっ!!」

「助かったの?それはよかった!」

そうやってまた笑う。

「いやっ!だからその光っ!!その光はなんなんだよ!!」

「あー、これねー」

「なんでこんなことになってんだよ!!」

俺は泣いていた。

苛立ち?悲しみ?苦しみ?

いろんな感情が入り交じっておかしくなりそうだった。

「いやね?奇跡を生み出すには思い出の大きな物語が必要なんだよ」

「だから本を渡したんだろ!?だからそれを食べるって話だったろうが!!」

「お母さんとの大事な思い出でしょ?それをぽっと出の私が食べちゃうのはなんか違う気がしたんだ。だから変わりに私を使ったの」

そう言ってまた笑顔を作る。

「そうだけどさっ!!俺はお前がっっ!!」

「大切なんでしょ?」

「っ!」

「そりゃ知ってますよー?そうでなきゃあんな重体のお父さん助けられる奇跡なんて起こせやしないって」

「そうですか、、」

恥ずかしさで血が上っていた頭が少し冷めた。

「で?メリは消えちゃうのか?みんなの記憶から」

「そうなるねー」

「悔いは?」

「あるっちゃある」

「そうか、、」

「いや、、めっちゃある、、」

「めっちゃあるのか!!」

そう言って天井を見つめるメリ。

「それはどうにかならんのか?」

「んー?どうにかしてもいいのかい?」

「メリ。君にたくさん貰ったんだよ?俺は」

そうだ。たくさん貰った。

だからこそだ。

少しは返したいと思う。

「んっ!」

「へっ!?」

そう考えていると、触れられないはずのメリが俺の体を抱き締めていた。

「じゃぁ、お言葉に甘えて、、」

そう言ってメリは少し抱き締める力を強める。

「今から三つのことを伝えるよ?よく聞いててね」

「うん」

「一つ。数日しか一緒にいなかったけれど楽しかった。たくさんの思い出をありがとう」

「それは俺もだよ、、楽しかったっ、、」

「ふふっ、、そっか、、それは嬉しいっ!」

そう言って抱き締める力を更に強くする。

「二つ目っ!記憶は消えてしまうけれど、ここぞって時に絶対思い出します」

「えっ?」

「これは三つ目にも通ずることになるんだけどね、、」

「その、、三つ目って?」

そう俺が聞くとメリは抱き締めるのをやめて、俺の顔を見つめた。

「三つ目はねぇ、、んー、、内緒にしようかなぁ、、」

「えぇ、、ここまできてそれはないぜぇ??メリ」

「言わなきゃダメかなぁ」

そうやって困り顔で笑うメリ。

「おいっ!」

目線を下にやると、メリの足が消えかかっていた、。

「もうかぁ、、楽しい時間は過ぎるのが早いねぇ」

「そうだな、、」

何かに決心したかのようにメリはこちらを向き直した。

「もう言っちゃうわっ!!妖精らしくここは決めていくぜっ!!」

「おぉっ!」

するとメリは恥ずかしそうにしつつ、決心したかのように叫ぶ。

「大好きだよっ!!私もっ!!」

「っ!!」

そう言うとメリは泣き出した。

「なんでなんだよ!もうっ!!くそっ!!なんで消えなきゃなんないんだ!!」

それは初めて見るメリの姿だった。

「せっかく好きな人が出来てっ!毎日楽しくて!!今せっかく思いも通じあったってのにっっ!!なんでこうなるんだよっっ!!あぁぁぁっ!!」

抱き締めたい。何か言葉をかけてあげたい。

でも、触れることすら出来ない俺にはそんなこと出来ないし、そんな言葉をかけられるほどの語彙力なんて持ち合わせちゃいなかった。

「ねぇ、メリ」

「ん?、、何?」

泣いているメリに掛けられる言葉。

飾る必要なんてない。みっともなくたっていい。

ただ伝えろ。伝えるんだ。

「俺はお前が好きだ」

「えっ?」

「バレてただけだろ?俺は伝えてなかったしな」

涙が止まらなかった。

でも、それはメリもおんなじみたいだ。

「もうっ!!遅いよっ!?」

またいつものように笑った。

泣きながら笑ったことなんて初めてかもしれない。

俺らは残りの時間、出会ってからのことを振り返っていた。

あんなことがあったねとかこの時はこう思ってただとかそんな話だ。

「なんか薄くなってるなぁ、、メリ」

「ほんとだぁ、、、いやだなぁー消えたくないなー」

さみしそうにそう呟く。

「私がいなくなってもちゃんと幸せにね?」

「でもいずれ思い出させてくれるんだろ?」

「まぁ、そうだけどさぁ?」

「なら怖くないっ!」

「あ、浮気はしてもいいからね?許します」

「メリが思い出させるタイミングによるんじゃないか?それは」

「じゃぁ、いっちばん人生のいいとこで思い出させてあげるっ!こう見えても嫉妬深いのだよ、、私はっ!」

「そりゃぁ大変だなぁ、多分俺その時どんなに幸せでも泣いちゃうかもなぁ」

「えぇ、、泣かないでよー?君が泣いてるとこみたくないから一人で消えようとしてたとこもあるんだからさっ」

「そっかぁ、、じゃぁメリが嫌なら泣かないように善処するよ」

「善処ー?」

「泣きません。誓いますっ」

「そっか!ならヨシッ!!」

二人の笑い声が響くこの部屋は、俺達の思い出そのものだ。

なぁ、メリ?

声には出さないけどさ?

俺正直不安だよ、、。

メリがいなくてもうまくやってけるのか。

「大丈夫だよ!琉斗なら」

「えっ」

僕の前には誰もいない。

誰かいた気もするし、いなかった気もする。

けどこの場所が心地よくて、しばらくこの場所で天井を見上げていた。


ある春。

春から県外の大学に行くため、この家から引っ越す準備をしていた。

「琉斗ぉ!この荷物は!?」

「持ってく!ありがと!」

父さんは事故に遭ってから少し足を動かしづらいらしいが、全く日常生活には問題はないようだ。

「琉斗!はいこれ」

「これは、、」

「お母さんの写真と絵本?だな!この本好きだろ?」

「そうだね、、なんか好きなんだよね、、この本」

俺は父さんが事故に遭って以来この本が好きだ。

謎に好きなのだ。

「まぁ、本を好きなのはいいことだっ!!この本を読み聞かせをしてた母さんも喜んでるさ」

「だといいね」

そうやって笑う。

事故以来。

失った時間を取り戻すかのように父さんとは仲良くなった。

いろんな話をしたし、いろんなことをやった。

今となっては全部いい思い出だ。

「しっかし、その本以外あんまり詰め込んでいないが本当にいいのか?」

「うん!多分戻ってくるしね」

「父親思いの息子で俺は嬉しいぞっ!!」

「はいはいっ」

「急に冷たいぞぉぉ!!」

なんだか賑やかだなぁ。

「ちょっと俺三咲さんに挨拶してくるよ。引っ越し手伝って貰ったお礼に部屋を片付けないと、、」

「そっか、、、パシられてんのな、、、」

「あはは、、」

玄関に向かい、靴を履く。

「行ってらっしゃい」

「うん、行ってくるよ。メリ」

「メリ?」

「えっ、、ん?」

「誰だそれ」

「わからん、、」

「わからないのか、、まぁいいやっ!行ってらっしゃい!!」

「おう、行ってくる」

俺の好きな本。

「妖精と一人の少年」

妖精の女の子と両親を亡くした男の子のお話だ。

生きる気力を失くした少年を妖精が愉快な魔法を使って元気付けていく。

そんなファンタジーだ。

辛いとき。苦しいとき。

その物語の主人公に自分を重ねて元気を貰ってきた。

少年の名前がリューラって俺の名前に似てるから重ねやすかったってのもあるけどね。

どこか懐かしいんだよなぁ。

特に妖精だ。前に会ったことがあるっていうか、、なんかそんな感じがする。

まぁそんなこと絶対ありえないのだけどね。

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この子。本を食べるそうです。 畏怖 @maturi96606

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