第10話

「おーい、守一もりかず君! ありゃ、本当だ」

 守一は、背を向けたまま。

 コウは、こちらを振り向いた。午後の遊戯室。コウは戻ってきて、隣の椅子に腰掛けた。

「うん、そうか。だったら、きっと僕と同じだね」

「同じ?」

 コウは、ゆっくりと瞬きする。

「僕もね、母親からあまり好かれてないから」

 何でもないことのように言う。

「まあね。血が繋がっていても、結局は他人だからさ。好き嫌いはあるんだよ。仕方ない」

 また瞬きして、涙が一筋流れる。

「嫌にならなかった」

「うん、思ったよ。消えちゃいたいって。だから、守一君はああなったんだ」

「おいで」

 コウは、膝の上に頭を乗せた。髪をなでてやる。後ろで束ねた髪が、その度揺れる。

「お裁縫している時だけは幸せ。守一君が絵を描くのもきっと同じ理由」

「そうだろうね」

 どうしたら良いのだろう。守一みたいに、コウも原因から離れられれば良いのに。まあ、無理か。深い溜息を吐く。

「大丈夫だよ」

 コウが見上げてくる。

育也いくやって子が守一君を見てくれるのでしょう」

「そうだね」

 一拍してから、笑った。

「ねえ、コウはお裁縫が得意なのでしょう。だったらね」

 耳打ちする。

「解った。とびっきりのを作ってくるね!」


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