第9話

岡香里おかかおりと申します」

 慎ましく頭を下げる。

 場所は和菓子とお茶を出す店。小上がりのテーブル席に四人。

「美少女じゃないか」

「はい」

 やった。皐月さつき兄ちゃんが浮かれている。ずいと身を乗り出す。

「お嬢さん。悪いことは言わないから、こいつだけは止めておきなさい」

「俺もそう言っているんですがね」

橋本はしもと、酷い!」

 香里君は、俯いた。

「私は、国見くにみさんが良いので我慢しています」

「あれ、香里君!?」

「まあなあ…。国見のやつ、顔だけは良いからなあ」

 香里君が、口元に手を当て笑っている。あれ、目尻に涙が。

「皐月兄ちゃんが格好良いので、私の許嫁が微笑んでいる…」

 両手で、顔を覆う。うん、嬉しいが、複雑。

「はい?」

 目を瞬かせている。

「私は、国見さんが良いと申しました」

 泣いた。

「良かった。今日、皐月兄ちゃんをお姫さまだっこでここまで連れてきて良かった」

「ダウト!」こちらを指差す。「私は、研修医の車でここまで来た」

「そこから、おんぶしたのは俺だぞ」

「国見さんは、夢見がちですからね。きっと白昼夢でも見たのでしょう」

 香里君が、るんるん気分である。やはり、皐月兄ちゃんの顔が良いから。

「これからも、もっと美少年を紹介してあげるからね!」

「お前は、自分の婚約者をどうしたいのだ」

 皐月兄ちゃんは、困惑した声を上げた。





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