第3話

 歴史班では、長期休暇を利用して、泊まりがけの研修旅行に出る。

 県南のほう、そう、三県の境が交わるあたりだ。山深いので、年少者は留守番だ。そう、体力がついてきて、初めて同行を許された年のことだった。

 神社で、幼子と出会った。

 短髪に、開襟の半袖シャツ、半ズボン。泣きベソをかいていた。足元を見ると、草履の鼻緒が切れていた。

 ちょうど首に手ぬぐいをかけていたので、直してやる。

 小僧は、ゆきと名乗った。

 観光客相手に、団子と茶を出す店の子だと言う。

 ここは、歴史上の有名人も花見に来たそうだね。君の家も古くから商売をしているのかい。

 そう問うたら、ゆきは下を向いて恥じたようだった。

 うちは、父ちゃんと母ちゃんが結婚してから始めたの。そうね。本葛を扱っているお店は古いのよって大人が言うてはった。

 幼子なりに、感じることがあるのだろう。

 私も、団子が食べたいな。店まで連れて行ってくれるかい。

 うん。ゆきは、私の手を取り、神社の境内を駆けて行った。


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