第2話

「お能の日は、国見くにみさんとお風呂がいっしょでうれしいな」

 学校の大浴場で、ふふふと笑う育也いくや。どうしたのかと問うと、この返事だ。

「私も、うれしいよ」

 それに、可愛らしく小首を傾げる。

 育也は、放課後、外へ能を習いに行く。師匠も学校も、ゆくゆくは能の世界で生きていく子だろうと期待している。なので、稽古以外にも近くである能は可能なかぎり、見に行かせるようにしている。

「ねえ、国見さん。歴史班のことだけど…」

「うん?」

 歴史班というのは、学内にある歴史愛好家のグループのことだ。育也は、師匠から能の役に立つから歴史を少しずつ勉強してみなさいと言われたのだ。

「あのね、国見さんはげんさんを知っている」

玄一郎げんいちろうだろう。同じ歴史班だから、私より橋本はしもとのほうが仲良しじゃないのかな」

 育也は、神妙な顔をする。耳元に口を寄せる。

「これは、恋のお話です」

「おお…」


 風呂から上がり私室。

「ここなら誰も居ないから」

 畳の上にちょこなんと座る育也。ぐっと息を飲む。

「玄さんがはがきをもらったのです。『絶交』の二文字が筆でデカデカと…」

 駄目だ。お腹を抱えて笑う。

「むう。橋本さんの言うとおりになった。これは、真面目な話ですよ!」

「はあ、そうか」目尻の涙を指で拭う。「どうりでな、うん…」

 はて。

「絶交とか言い出すのは、大概、女子かららしいが…」

「はい。玄さんが落としたはがき、拾う時に見ましたよ。ゆきさんって女の人でしょう」

 育也は、簡単に言った。





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