「僕のことが大好きな君と」、「ワタシから大切なモノを奪ったアナタで」、『2人のハッピーエンドまで紡ぐシナリオ』

双葉音子(煌星双葉)

第0話 これはとある少女が、ある少年と出会うまでを記したテイル。

 むかーしむかし。あるところに、それはとてもとてもかわいいおんなのこがいました。

 おんなのこは、をしりませんでした。

 あいをしらないおんなのこは、まわりのみんなからあいされるために、いろんなことをしました。お手伝いをしたり、人の言う事を聞いたりしました。辛いと思うこともありました。それでも、女の子は愛されればそれでいいと思いました。

 しかし、それも長くは続かず、いつからか「本当に愛されてはいない」と、気づいてしまいました。

 そして、本当の愛を求めた少女は、いつしか道を踏み外すようになった。自分の体を犠牲にする代わりに、金を始めとする多くの物と、自分にしか向けられない愛を得ることが出来た。けれども、それは少女が求めていたモノではなかった。本当に求めているモノを求め続けて、少女は何度も身を削っていった。

 そんな日々を何日も過ごした少女は、次第に体に限界が近づいてきた事に気づいてしまった。それでも止める事は出来ない。そう思って体を休めなかった少女はある日の夜、横断歩道の真ん中で倒れてしまう。


「もう、無理なのかな……」


 点滅する青信号。涙混じりにそう溢す少女。このまま誰にも気付かれずに死ぬんだ。そう感じ、目を瞑った。


  ◇  ◇  ◇


「……あれ?」


 目を開くけば、視界に白い壁が広がる。いや。体感的に、今のワタシは仰向けの状態だ。だから、アレは天井なんだ。背中に柔らかい何かが接している。てことは、ワタシは今ベッドの上にいるのかな。


「病院……なのかな。それにしても、体が重いな〜。……って、え!?」


 確認の為に起き上がろうとして、やっと腹部辺りに何かが乗っている事に気がついた。首を持ち上げると、そこには1人の見知らぬ少年の上半身が乗っていた。


「誰……?」


 寝ているのだろうか。声をかけても全く反応がない。何とか引っ張り出した右手で揺さぶってみるが、結果は同じだった。


「……はぁ。それにしても、綺麗な寝顔だな〜」


 すやすやという擬音が似合うような寝顔は、何処か可愛らしかった。

 ……ワタシもこんなふうに、安らかに眠れていたらいいのに。誰か、一緒に寝てくれる人が居たらいいのに。そうすれば、太陽を見るのが、きっと嫌じゃなくなるはず。


「でも、もう無理なんだよ。ワタシは、誰にも愛されない。幸せになる権利なんか最初っから無かったんだ」


 今までに色んな事をしてきた。どんな人の言う事も聞いてきた。自分の身を汚すようなことだってしてきた。それでも、心の底から幸せとは思えなかった。愛されているなんて、思えなかった。

 目元から雫が漏れ出る感覚がした。その時だった。


「……んっ、ふぇ〜」

「えっ。な、何……?」


 間抜けな声が近くから聞こえた。今まで見た情報からして、声の主はきっと……。


「うーん。……あ」


 腕を上へと伸ばしながら体を起こした声の主は、こちらに気がつくと同時に、顔を真っ青にした。


「ご。ごっごご……。ごめんなさい!!」


 少年は、体を起こしたワタシから距離を取り、頭を深々下げた。


「……ねぇ」

「はっ、はいぃ!!」


 ワタシが怒っていると勘違いしているのか。少年は震えた声で返事をした。


「ワタシの上で寝ていたことは、別に気にしていないの。アナタに訊きたいことがあるだけ。そんなに敬語で話したりしなくていいから」

「……訊きたいこと?」

「そう。……アナタが、ワタシをここまで連れてきてくれたの?」


 その問いを聞いて、少年はおもむろに口を開いた。


「……うん。道路の真ん中で倒れていたから、救急車を呼んだの。それでも心配で、病院の人達に許可はもらって、ここに居させてもらったの。君が目を覚ますまで起きていようとしたんだけど、その前に寝ちゃって……」

「……それって、昨日の夜からここにいたってこと!? 見ず知らずのワタシの為に? 信じられない……」


 これが、自分を助けた人に対して投げる言葉じゃないのは解っていた。けれども、少年を突き放したくて、この言葉を拾い上げた。


「あの……。別に、見ず知らずの人を、助けたり、心配しちゃいけないことなんかないでしょ……?」

「それはそうだけど……」


 何も言い返せない。

 申し訳なかったんだ。ワタシの為に何時間も無駄にさせてしまって。ワタシに、構ってもらって。


「取りあえず、元気そうで良かったよ……。看護師さん呼んでくるね」

「……待って」

「ど、どうかしたの?」

「お願い……。待って!」

「ま、待ってるけど……?」


 病室の外に飛び出そうとする少年を呼び止める。どうしてそんなことをしたのかは、解らなかった。もう構って欲しくないのに、どうしても離れて欲しくなかった。


「……こっちに来て」

「……うん」


 困惑している少年を呼び寄せる。そして、近づいてきた少年の左手を手に取る。


「……暖かい」

「そ、そうかな……?」


 少年は困惑しつつも、ワタシに微笑みを見せてくれた。それは、とても燦めいて見えた。ワタシも、精一杯の笑顔で返す。

 声が勝手に喉を上がってきて、口から望んでいたモノが飛び出た。


「……幸せ」


 また、目元から雫が漏れ出る。でも、さっきの物と違う。嬉しいが心から溢れている。そんなワタシの姿を見た少年は、ポケットからハンカチを取りだした。


「これで涙拭いて。使ってないやつだから、安心して」

「……ありがとう」


 ハンカチを受け取り、涙を吹き取る。そして、深呼吸をして心を落ち着かせ、少年に声を掛けた。


「あ、あのさ……。名前、教えてくれない?」

「名前って、僕の?」

「うん。アナタは、ワタシの命の恩人なんだから。名前くらい知っておきたくて……」

「そっか……。ならいいよ。僕は椎名しいな燦葉あきは。14歳だよ」

「え!? ワタシと同い年じゃん!!」

「……こんな偶然もあるんだ」


 衝撃の事実に、ワタシは驚きながらも喜んだ。椎名くんは落ち着いた様子だったが、驚いているようだった。


「……あ。折角だし、君の名前も教えてくれない?」


 口元に人差し指を添えて、顔を右に傾ける椎名くん。

 確かに、ワタシも名前を教えないと不公平かもしれない。そう思って口を開く。


「ワタシの名前は、宮川みやがわ翌楽あすただよ!」

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