あるもの


 「あーどうも」

 薄い壁から突然現れた見知らぬ男に、皆面食らっていた。

 「近所迷惑なんだけども」

 襲い掛かる蹴り。

 アキラはかわすと近くにあったランプを投げつけた。

 顔面に入り、細かな欠片が皮膚を傷つけた。

 二発。

 たった二発で二人の男は死体になった。

 「まあ~」

 「お前は‼」

 訓練された動きだ。

 アキラは彼の距離に入ると、思い切り股間を蹴り上げた。

 涎が出る。

 一瞬の隙をつき、喉笛を切り裂く。

 風船から空気が漏れ出るような音がする。

 「やあっぱ、訓練された奴はつまらねえなあ」

 爪から出たナイフが血で濡れている。

 「んで」

 男を見る。

 真面目そうな男だ。

 「こんな奴がいるなんて、どうしたんだよ」

 「う……うう……」

 太腿、腹部を撃たれており緩やかに死へと向かっている。

 「借金とかじゃねえし……、やばい女でも手出したの? んで追われて……って感じじゃねえな」

 「あの」

 「あ」

 「助け……」

 「無理。お前もう無理だろ」

 「な……」

 「太腿やっちまったのがでかいなあ。ま、抑えていれば出来るかもだけどよ」

 「な……」

 声が掠れている。

 「あ~無理だわ、これ」

 「……あ……」

 「さっきの物って何?」

 「くう……」

 「おい」

 アキラは無遠慮に男の足に体重を乗せた。

 「あああ‼」

 「ほら、死ぬ前に言え」

 「あ、あれ」

 「そ」

 香水のような形だ。

 「なにこれ」

 「ぅぅ……」

 においを嗅ぐが、何もしない。

 「ま、持っておくさ」

 「お前……」

 「あ」

 「地獄に……」

 「楽しそうな場所だな。こんな場所より」

 アキラはそれを取った。

 「面白そうなことが起きそうだ」

 遠くからサイレンが聞こえた。

 

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