彼のノーマル

 ピンポーン


 家のインターホンを鳴らし、家主を待つ。


 …


 …


 …


 反応がない。もう一度鳴らしてみよう。


 ピンポーン


「…はい。あぁ、あんたか。」


 どうやらまだ俺の事を覚えていてくれたらしい。


「何用だ。」


「えぇと…」


 ここは正直に話すべきなのだろうか。だが、そんな話をしても信じてくれるのだろうか。


 自分自身に問いかける。


 だが奴らが来る事情があるはずだ、と考え話すことにした。



「なるほど…そうかお前…


 ?


 ブチと音が切れた。

 そしてドタドタ、と荒々しい音が鳴り響いた。

 2階に上がっているのか...

 案の定、2階の窓がガラツ、と開き、黒い物体が乗り上げられる。


 映画でしか見たことのない光景。

 俺でも分かる。スナイパーだと。しかもサイレンサー付きである。


 ほんの数十秒。


 その間に2回音が鳴った。

 その後に聞こえたのは悲鳴ではなく、何かが落ちた、音だった。



「もういいぞ、上がってきて」

 声をかけられハッとした。いつの間にか長髪の男が話しかけてきた。

 どのくらい時間がたったのだろうか。腕時計を見ると僅か1分程しかたっていなかった。


 ——


「まぁ自由に腰掛けてくれよ。」


 その言葉に甘え、ソファに座る。家具は前の住民が使っていた物が残っていた。


「まずはすまなかった。俺の事に巻き込んでしまって。」


 ペッコ、と頭を下げる。


「どういう事ですか?」


 実は、と続けられた話は俺にとって衝撃だった。

 ある会社に勤めていたが、殺害が仕事だった事。

 大切な家族が出来たから辞めた事。

 追っ手から逃げていた事。


 妻とここで再会しようと約束し別れた事。

 全てが俺にとって非現実的だった。


「君からしたら、俺の日常は非日常的に見えるだろう。しかし、忘れてはいけないのはそんな人物がいるからこそ、今があるという事だ。」


「・・・」


 俺の沈黙からか、彼はさらにに優しく言葉を続けた...


「人々は何故か常識を当てはまらないものをおかしいと捉える。非常識だ、と。どうして非常識になっているか、と考えた事はないのだろうか。」


 まあ、とさらに言葉を続けるが彼はニコッとはにかんだ。


「全て妻が言っていた事なんだがな。俺はそれで救われたんだ。そして君にもな。」


 だから、とハサミを用意した。


 そして髪を切った。


「この髪は俺のトレードマークだ。殆ど切ることが無かった。これに血をつければ奴らは死んだ、と思うはずだろう。」


 そうしてここから立ち去り、3分程したら帰ってきた。血がついていた。


「え..?」


「安心してくれ。俺の血じゃない。」

 と、いうことは、あの2回の音は..

 俺は頭を横に振り、考えるのを止めた。

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