『苛立ち』
『雪』
『苛立ち』
明確にソレを感じるようになったのは何時の頃からだったのか、もう思い出すことすら私には出来やしない。誰かの他愛ない言葉や、ちょっとした行動や態度など。以前の私ならば気にも止めなかったような些細な言動に怒りを覚え、不満を募らせる。
私の身体の内に着実に募るこの感情、身を焦がす程に燻る感情を欲望のまま解き放つ訳にも行かず、悩んだ末、理性と言う名の鎖で無理矢理縛り付けて抑え込む事で事なきを得る。その様をまるで檻の中に閉じ込めた猛獣の飼育を任された小心者の気分だな、と他人事のようにただ苦笑するしかない。
そうして、心と身体は少しずつ、でも確かにズレてゆく。貼り付けた笑みの下には常に憤怒の表情が眠っており、私自身もどちらの表情をしているのか分からなくなる時がある。 左右で違う表情なら面白いかもしれない、と鏡を覗き込むが、そこには見馴れた無表情な私の顔が写っていた。
此処で「面倒くさい」、と一言で全てを放り投げられる性格ならどれだけ良かった事か。そうすればこんな事で悩む事も無く、ただ淡々と感情などに左右されずに生きてゆく事が出来るのに、と漏れそうになった溜め息を私は黙って飲み込んだ。
この身体は確かに私のモノではあるけれど、自信を持ってそう言えるかと問われると、きっと私は答えられないだろう。髪は暗いブルーのグラデーション、右肩には薔薇と蝶のタトゥー、煙草も吸うし、お酒も頻繁に飲む。身体を労る事を丸っきり放棄した行いの数々、傷物を通り越して粗悪品と呼んでも差し支えないようなボロボロな身体。
どうしてこんな事を、と理由を問われれば、私は迷う事無く「気に入らなかったから」と答えるだろう。ただただ真っ黒な髪の色も、真っ白な肌の色も、全てが全て気に入らない。
これはたぶん八つ当たりだ、私はそう考えている。移ろう世界に適応する事が出来ない自分自身への罰や或いは罪に対する細やかな反逆のようなものだ。自分の愚かさに苛立ちを覚え、自分の存在を緩やかに否定する世界にもまた、苛立ちを感じている。苛立ちが新たな苛立ちを生み、その苛立ちもやがて別の苛立ちを生む事になる。苛立ちの連鎖は終わらない。
どうしようにも「面倒くさい」では済みそうに無くて、それでいて感情を解き放つ事も出来なくて、また自らに枷をし、がんじがらめの自分の姿を見て、また苛立つのだ。
『苛立ち』 『雪』 @snow_03
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