十一話 黒鉄装備と指名依頼

ケネスに新しい大剣を注文してから一ヶ月、ケネスから剣と鎧が完成したという知らせが届いたので、早速二人はケネスの店である"鉄の心"を訪れた。


「ケネス!、来た!」

「おう!、来やがったか!」


新しい絵物が手に入るのでテンションが高いフェイに、笑顔のケネスがカウンターから出てくる。


「待ってたぜ、今持ってくる」


ケネスは一度店の奥に引っ込む。


「剣、楽しみ」

「新しい玩具を前にした子供みたいになってるぞ」

「興奮しない方がおかしい」

「そういうものか」

「そういうもの」


「おい!、持ってきたぞ!」


鎧と鞘に納められた大剣を載せた台車を押すケネスが現れる。


「こいつが黒鉄ブラックスチールの大剣と黒鉄ブラックスチールの鎧だ」

「真っ黒な鎧だな」

「それはあの名付きネームドの特性だよ」


フェイは身の丈ほどもある大剣を片手で軽々と持ち上げ、鞘から刀身を抜く。


「ーー」「へぇ」


見た目は無骨そのもので柄や鍔に装飾は一切なく、漆黒に輝く刀身は大剣に似合わない切れ味があることを示し、クロードにも一目で業物であることが分かった。


「どうだ、何か違和感や気になるところはあるか?」

「ない、最高」

「はは!、そいつは良かったぜ!、鎧も含めて一ヶ月、素材と向き合った甲斐があったってもんだ」


「ケネスは良い鍛冶師。クロード、ありがとう」

「それほどでも、鎧は着なくていいのか?」

「着る」


一度大剣を鞘に納め、鎧を身に着ける。


胸当て、肩当て、手甲、足甲を着けたフェイは白髪と黒備えの鎧が良く合い、とても似合っていた。


「フェイ、よく似合ってる」

「ありがとう」


「鎧はどうだ、調整はいるか?」

「胸当てが少しキツイ」

「調整してやるから脱げ」

「ん」


ケネスはフェイの要望に応えるように、手早く調整する。


「防御力はどんなもんなんだ」

「触って確かめる?」

「ああ」


フェイの手甲に触れてみる。


「どう?」

「射抜ける、と自信を持って言えないぐらいには硬い」


シルバーのお前にそこまで言わせるのなら上出来だ」

「その通り、攻撃は避けるのが基本だ」


冒険者が相手をするのは主に魔獣であり、彼奴らの攻撃で容易く冒険者は死ぬ、故に避けるのが基本で防具を着るのは不意打ちによる負傷を避ける為だ。


「それにこの硬さなら武器にもなる、この手甲で殴られたり足甲で蹴られるのは勘弁願いたい」

「前に選択肢が増えるって言ってたのはそういうこと」

「よく覚えていたな」

「記憶力は良い」

「どうやらそのようで」


「ほら、調整したぞ」

「ん、ありがとう」


フェイは調整された胸当てを改めて身に着ける。


「どうだ?」

「完璧、キツくない」

「よし、他は?」

「ない」


「あとは実戦に出てどうなるかだな、そっちで何か問題があったすぐに俺の所へ来い、初回に限り安値で調整してやる」

「分かった、それで代金は?」

「剣と鎧を合わせてリード金貨百枚だ」


フェイからすれば大金だ、払えないわけでないが値下げ交渉をするのが基本ではある。


「はい、金貨が百枚ある」

「おっ、値下げ交渉をしてくると思ったんだがな」

「この剣と鎧には相応しい値段だと思う」


「ふっ、気に入った、武具で困ったら俺の所へ来い、言い値で打ってやる」

「その時は宜しく」


「クロード、良い客を連れてきた礼だ、次の短剣の整備代は安くしてやるよ」

「助かるよ」


笑顔のケネスに見送られて、二人は店を出た。


「次ギルド行く」

「呼ばれたんだっけか?」

「ん、指名依頼があるって」


ボリスに言い渡された治療期間は過ぎたので、装備を手に入れたら冒険者活動を再開しようとしていた矢先にギルドからの呼び出し。


アリシャはとことん仕事ができる奴だ。


「クロードに聞こうと思ってた、指名依頼って?」

「詳しくはアリシャに聞いて欲しいけど、簡単に説明するとギルドから解決能力があると名指しされた依頼のことだ」

「名指し」

「冒険者って奴は本当に多種多様で、色んな特技を持つ人間がいる。フェイは依頼を確実に達成できるとギルドに判断されたってことだ」


「無論それだけじゃないが」

「他にもあるの?」

「前にも言ったがフェイは規格外の冒険者だ、ギルド側としてもその実力を詳細に把握したいって思惑とフェイに実績を積ませたいって目的がある」


「把握と実績」

「まぁ、フェイは難しいことは考えずに依頼を達成すればいい、冒険者に求められるのはそれだけだ」

「ん」


冒険者ギルドを訪れた二人は歓迎する様々な視線を無視して、受付に向かう。


「アリシャ、来た」

「お久しぶりです、ルー氏」

「ん、久しぶり」


「はい、早速ですがギルドからの指名依頼が入っています」


アリシャは一枚の羊皮紙を差し出す。


「依頼内容は廃村に住み着いた魔獅子レオーネの討伐です」

「それだけ?」

「それだけです」

「ん、達成報酬とクロードの義務参加しか書いてない」


魔獅子レオーネの詳細な情報はご自分で調べて下さい、どのような手段を使っても構いませんがギルドはルー氏がどのように討伐するのか非常に注目しています」


「俺の義務参加ってなんだよ」

「イグノート氏には監督役兼戦力としてルー氏に同行していただきます、無論報酬は出ます」

「監督役は分かるとして戦力っていうのはどういうことだ?」


「ギルドはルー氏がシルバーをどう使うかを見ています」

「俺は盤上遊戯チェスの駒かよ」


「ん、つまり私とクロードで魔獅子レオーネを討伐すればいい?」

「はい」


「クロード、魔獅子レオーネって何?」


フェイはとりあえずクロードに聞いてみる。


魔獅子レオーネは翼を生やした四足の猛獣で、力が強く体毛が固く並の刃物は通らない、おまけに空を飛ぶから速い、要約すると強い」


「《黒刃鷹ゼーレ》より?」

「それはない」


クロードは即座に断言する。


「ん、それならこの依頼、受ける」

「承知しました、魔獅子レオーネの討伐証明部位は牙です」


「他の素材は?」

「魔石や毛皮はギルドで買い取ります」

「何日でやればいい?」

「移動時間を含めて七日です」

「分かった、もう聞きたいことはない」

「ご武運を」

「ん」


フェイは頷き、冒険者ギルドの受付を後にする。


「クロード、ちょっと体を動かしたい、良い場所はある?」

「それなら冒険者ギルドには自由に訓練できる訓練場があるから、そこを使えばいい。案内するよ」

「ありがとう」


フェイは案内してくれるクロードについて行く。


「どれくらい動けるか、確認しないとな」

「ん、クロード、相手になって」

「俺は役不足だと思うが」

「一度私を殺した人が言っても説得力がない」


確かにその通りだが、模擬戦とはいえ大剣を振り回すフェイと正面から戦うのはできることならば避けたい。


「お前!」


「いや、それとこれとは別だろ」

「別じゃない、クロードは私と戦える戦士」

「俺は弓が本職なんだが」


「おい!?、無視するな!」


いきなり目の前に鎧姿の青年が割り込んできた。


「お前だろ!、シルバーのおこぼれに預かって昇級した女冒険者って言うのは!」

「?」

「どうした!、図星を突かれて何も言えないのか!?」

「?」

「その化けの皮、僕が剥いでやる!」


「喧嘩を売ってるの?」

「その通りだ!、僕と戦え!」

「いいよ」


瞬間、フェイの拳が青年の顔面にめり込み、彼はすっ飛び、床を三回転したところで止まった。


「ん、相手にならない。クロード、行こう」

「早速出てきたか、しばらくは似たような奴が来ると思うぞ」

「誰でも関係ない、売られた喧嘩は倍にして返す」


「手加減はしてやれよ?」

「当然、ギルドを血まみれにはしたくない」


完全に伸びている青年を放置して、訓練場に向かうと何やら歓声が聞こえてきた。


気配を探ると見知った二人が激しく戦っているのが、分かってしまった。


「何してんだ、あの二人は」


「アハハハハ!、《剣鬼サムライ》ってのはその程度なの!?、もっと私を楽しませなさいよ!」

「《風槍ウィルマ》殿こそ、槍先が寝ぼけているのでござらんか!、その一槍、某の着物すら裂けぬぞ!」

「言ってくれるじゃない!」


訓練場の真ん中で戦っているのは共に見知った顔の冒険者。


深緑の長槍を巧みに操り風を纏いながら戦う青髪の女戦士、《風槍ウィルマ》の異名を持つシルバーの冒険者、グレイス・クーフーリン。


リベルタでも随一の槍使いと戦うのは、《黒刃鷹》の戦闘後に世話になった盲目の剣士、《剣鬼サムライ》の異名を持つシルバーのトウカ・フジモリ。


リベルタでも上位の力を持つ二人が何故模擬戦をしているのか、クロードには理解できなかった。

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