十二話 乱入と訓練

《剣鬼》と《風槍》、クロードの記憶が正しければ特段仲が悪かったことはない、そうなると共に戦闘好きという共通点を持つ二人が訓練場で出会ったら。


起きることは現実が示している。


とりあえずクロードは戦いの趨勢を見守ることにしたが、隣にいたはずのフェイがいないことに気付く。


「あれ?、まさか…!」


凄まじい轟音と共に土煙が、クロードを含め周囲に集まっていた冒険者たちを通り抜ける。


「私も混ぜて」

「見たことない顔ね、新顔かしら?」


「フェイ殿」

「ん、久しぶり」

「壮健なようで何より」


「トウカ、知り合いなの?」

「うむ、最近話題になっているブラックの冒険者でござるよ」

「へぇー、知らないけど強そうじゃない」


グレイスは好戦的な笑みを浮かべ、槍を構える。


「私はグレイス・クーフーリン、冒険者よ!、私とトウカの戦いに割り込んだツケを払ってもらうわよ!」

「私はフェイ・バルディア・ルー、喜んで払う」

「バルディア!、獣人族の英雄と戦うのは初めてだわ!」


「某を忘れてもらっては困る」

「あら、三つ巴ってやつ?、楽しそうじゃない」

「二人が相手でも構わない」


当然乱入したフェイの存在に聴衆が固唾を飲む中、フェイが大剣を抜き、それを構えた瞬間、三人は同時に踏み込む。


フェイは新しい大剣を横薙ぎに振るう、狙いはグレイスの槍を弾くことと、トウカの片刃剣をへし折ること。


しかしグレイスの槍はまるで大剣を避けるように動き、手甲を撫で、トウカの片刃剣はフェイの大剣と正面から打ち合う。


「"連突れんづき"」


グレイスの突き技を大剣を持ち上げることで、軌道を逸らすことに成功する。


同時に膂力ではフェイには負けるトウカは弾かれる。


そのままフェイはグレイスに攻めかかろうとするが、すぐに彼女は槍を引き戻し、急所を狙う三連突きが来る。


大剣という鈍重な武器では、全ては防げないがフェイは手甲を巧みに使い、三連突きを防ぎ切る。


僅かに目を見開くグレイスへ、トウカの唐竹割りが落ちる。


横に跳んで躱しながら、石突きをトウカへ向けるが、彼女は軸足で回転しながら、避け下段から剣を振り抜く。


グレイスは槍の柄で受け、切断されぬようにわざと後ろへ跳ぶ。


振り抜いた姿勢のトウカを見逃さず、フェイは大剣を振り下ろすが、トウカは左腰から脇差しを逆手で抜刀し、大剣の刃を受け流す。


これにはフェイも一瞬驚くが、受け流されるのは何も初めてのことではない。


地面にめり込んだ大剣を手放し、後ろに退避することで首を狙った反撃の太刀を交わす。


トウカは武器を失ったフェイへ向かいたいが、戻ってくるグレイスを放置することが出来ない。


これが実戦であればその限りでは無いが、これは模擬戦だ、トウカはグレイスの方へ向く。


「私を忘れないでよね!」

「ご無理と承知か!」


脇差しを鞘に戻し、太刀を両手で握ったトウカは、グレイスと激しく斬り合う。


その間にフェイは大剣を回収し、二人の間に割り込むが、それを察知した二人は同時に後ろへ下がる。


三人は三角の形で三者三様に武器を向け合う。


「見事、誠に見事、某はフェイ殿のような豪者に出逢えたこと、ほとけに感謝せねばならぬ」


「さすがは獣人族の英雄を名乗るだけはあるわ、私の突きを捌いた手腕は褒めてあげる」


フェイは二人の戦意が収まりつつあるのに気付く。


「ここらが潮時でござろう」

「そうね、フェイはどうするの?」

「元々体を動かたかっただけ」


「そう、それなら私はここで帰らせてもらうわ、仕事もあるしね」

「某も同じく」


グレイスは槍を背中に戻し、トウカは剣を鞘へ納める、フェイも大剣を鞘に納めた。


「貴女の名前、覚えたから。また会いましょう、フェイ」

「ん」


「フェイ殿、クロード殿に宜しくと」

「ん、あの時はありがとう」

「お気にされるな、人は助け合うものでござる」


グレイスとトウカの二人が去ったことで、一気に訓練場は静かになった。


「自分勝手な奴らだ、フェイ、体は動かせたか?」

「ん、二人は強い」

シルバーだからな、って、そんなことより飛び入りするとは驚いたぞ」


「本当はどっちかに相手してもらおうと思ったけど我慢できなかった、あれだけの戦いを前にして何もしないのは失礼だと思う」

「弁解しなくても別に怒ってないぞ」

「そうなの?」

「俺はフェイの相棒パートナーで保護者じゃないからな、好きにすればいい」

「ん、クロードの訓練に付き合う」

「それは助かる、弓の方はいつどんな時でも万全なんだが」


素早く矢筒から矢を抜き、弓に番えると、真後ろの的に向けて、放つ。


矢は物の見事に的の中心を射抜き、近くで弓の練習をしていた冒険者たちを驚愕させる。


「剣の方はそうもいかなくてな」

「クロードが満足するまで付き合う」

「助かるよ」


クロードは的へ向かい、矢を回収する。


「あの!、《弓剣アルソード》のクロードさんですよね!?」

「そうだが何か用か?」

「どうすればクロードさんのように矢を的に当てられるようになるんですか!」


質問を投げかけてきた冒険者の等級はブルー、周囲にいる冒険者もブルーレッドがほとんどで、駆け出しから中堅の連中が揃っている。


訓練場で訓練しているということは向上心があるということだ。


「弓使いに必要なのは二つ、目と自信だ」

「目と自信」

「目は分かるけど自信って?」


「矢を敵に当てる自信だ、これがないと弓使いは使い物にならない、お前らは何の為に訓練しているんだ?」


「それは上手く弓を扱えるように」

「どうして訓練をすれば弓を扱うのが上手くなる?」


冒険者たちは沈黙する、否、皆頭を回転させて考えているのだ。


「矢を的に当てて命中率を上げる為ですか?」

「違う」


「自信!、矢を的に当てる自信をつけるためですか!」

「及第点だがそういうことだ、何千、何億回と訓練した先に俺がいる、強くなることに近道はないが訓練は裏切らない、お前の質問には答えられたか?」

「あっ、はい!、ありがとうございます!」


「冒険者は助け合うものだから、気にするな」


「悪い、フェイ」

「大丈夫。クロード、ガルトみたいだった」

「ガルト?」

「剣術とか心構えとか色んなことを教えてくれる人」

「師匠みたいなもんか、そんなに年は取ってないけどな」

「熟練者に年は関係ない」


二人は訓練場の一角に移動し、向かい合う。


「どこからでもいい」

「ああ、遠慮はしない」


短剣を構えるクロードは大剣を構えるフェイに対して、地面を蹴り突っ込む。


短剣を軽く振るうが大剣で防がれる、手数を増やしても特に変わらない。


一歩下がって、袈裟に振り下ろす。


「ん!」


一瞬押されるがすぐに押し返す、それに抗わずに下がるクロードは突きを放つ。


素早い二連突きだが、先程のグレイスの三連突きほどでない。


右手の大剣で捌き、空いた左手でクロードの右腕を掴む。


フェイが握り潰すという意志を込めて掴む前にクロードは片膝を蹴り上げる。


フェイの顎を狙った膝蹴りは大剣を持つ手の手甲で防ぐ、それは囮でクロードは掴まれた右腕を内側に曲げながら水平にして、踏み込みながら引き抜く。


「っ!」


フェイはすり抜けるような感覚に驚く。


「今のは…」

「フェイにも効くみたいで安心したよ」

「クロードの武術」

「そんなに大したものじゃない、ただの小細工だ。人間相手にしか使えないしな」

「やっぱりクロードは強い、でも負けてあげない」


不敵に笑ったフェイは踏み込むと同時に、大剣で突きを放ってくる。


大剣に似合わない素早い突きにクロードは紙一重で、短剣でガードして後ろに跳んで衝撃を逃がす。


フェイの攻撃はそれでは終わらない、さらに前進しながら逆袈裟、上段、薙ぎを連続で振るう。


この連撃にはクロードは耐え切れず、首、胴、脇を大剣の刃が撫でる。


「ふふ、私が本気だったら今頃クロードはバラバラ」

「俺じゃなくてもバラバラだよ」

「ん、動きは確認できた?」

「ああ、戦闘に支障がないのは確認できた、ありがとう、フェイ」

「それほどでも」

「依頼の件は期待してるぞ」

「任せて、一日で終わらせる」

「頼もしいな」


クロードは自信満々のフェイに思わず苦笑いを零した。

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