九話 頑固親父と特性

治療院で目覚めてから二週間が経った、ボリスからは退院しては良いと言われたが、一ヶ月は冒険者として活動するなと厳命された。


その間にもフェイがブラックに昇級することが決まったり、特例でクロードとフェイが受けた依頼は達成済みであると処理された。


二人は一度家に帰り、軽く掃除をしてから再び家を出た。


二人が目指すのはクロード御用達の武器屋だ。


目的はフェイの新しい得物を打ってもらうためであるり


「それにしても冒険者になったばかりなのにもうブラックか」

「凄い?」


フェイの首元で黒いドックタグが揺れる、先日アリシャが報告ついでに届けてもらったものである。


「俺もそれなりに冒険者としてやってきたけど一度も聞いたことない、名付きネームドを倒すなんて大手柄をあげたお陰だな」

「前々から気になってた、名付きネームドって?」


「簡単に言えば滅茶苦茶強い魔獣で賞金首だ、討伐すれば莫大な懸賞金と名誉が手に入る、今の俺たちのようにな」

「名誉?」

「要するに冒険者ギルドから評価してもらえる、フェイが異例の昇級をしたのもそれが理由だ」


「クロードは上がらなかった」

シルバーからゴールドに昇級するには色々と条件があるんだよ、それもかなり面倒なやつが。冒険者としてある程度自由に活動するならシルバーで十分なんだ」


クロードがそこまで言うのなら本当のことなのだろう、それにフェイとしてはクロードと同じシルバーになりたいので、近くにいてくれるのはありがたい。


「おっ、着いた」

「ん、ここ?」

「そう、ケネスって名前の鍛冶師がやってる武器屋だ」


フェイはクロードの背を追って、店の中に入る。


店には棚だけでなく壁までも多くの武器が飾られ、販売されている、武器の種類に統一感はなくまるで武器の見本市である。


「ケネス!、いるか!、俺だ!」

「あぁ!?、その声はクロードか!」


店の奥から長い髭を蓄えた中年の親父が現れる。


「お前、生きてたのか!、噂じゃ死んだとばかり」

「勝手に殺すな、だいたいお前にギルド経由で素材を送り付けただろうが」

「あぁ!?、あのすげえ素材はお前が送ってくれたのか!」

「気付いてなかったかよ、相変わらず鍛冶馬鹿だな」

「うるせぇ!、ってそこの女は誰だ?」


ケネスはフェイの顔を見て、首を傾げる。


「フェイ・バルディア・ルー、客だ」

「ん、《黒刃鷹》の素材で剣を打って欲しい」


フェイの要求にケネスの目が鋭くなる。


「断る」

「なんで?」

「何故俺がお前のために剣を打たねばならん、武器ならいくらでもあるだろ」


ケネスは店内に並ぶ武器群を指差し、フェイもそれに追うように店内を見回すが、やがてケネスに向き直る。


「良い武器が多い」

「当たり前だ、俺はどんな鍛冶にも手は抜かん」

「でも私の武器はない」

「何?」


ケネスの目がより一層鋭くなるが、怒っていると言うよりも困惑しているように見えた。


「お前、得物は?」

「大剣」

「大剣ならあるだろう」


ケネスの言う通り、フェイの身の丈ほどの大剣が壁に飾られている。


「ダメ、これは軽い」


フェイはで軽々と大剣の柄を握り、持ち上げる。


これにはケネスだけでなく、クロードも目を丸くする。


「お前…」

「私が欲しいのは重くて頑丈で切れ味のある大剣、ここにはない、だから打って欲しい」


フェイのその言葉にケネスの目の色が変わる。


「お前が普通の冒険者じゃねぇのは分かった、話を聞いてやるからそれを元の場所に戻せ」

「ん」


「まずは自己紹介だ、俺はケネス、"鉄の心"の店主兼鍛冶師だ、お前はフェイとか言ったか?」

「ん」

「んで、重くて頑丈で切れ味のある大剣だったか?」


「ん、打てる?」

「できるかできねぇかで言えば出来る、だが他にも知りたいことがあるから教えろ」


ケネスは羊皮紙と羽根ペンを取り出すと、フェイに細かく質問する。


「重さは具体的にどのくらいだ?」

「あの大剣三本分は欲しい」

「おいおい、そりゃいくらなんでも重すぎだ、お前は大丈夫でも取り回しが悪い、床でも抜いたら弁償する羽目になるぞ」

「んー、それなら二本分」

「それならギリギリ何とかなる。頑丈っては何が目安だ?」


「《黒刃鷹》と打ち合っても折れないこと」

「それなら大丈夫だ、何せお前の剣はその《黒刃鷹》の羽根で作る、折れる道理はねぇ」

「確かに」

「ああ、それで最後は切れ味か、どの程度欲しい?」


「クロードの魔剣ぐらい」

「そりゃ無茶だ」

「そうなの?」

「ああ、納得できないって顔だな」


「違う、何故?」

「素材の特性の違いだな」

「素材の特性?」

名付きネームド、冒険者ギルドに懸賞金をかけられるような化け物の素材はな、加工すると元になった魔獣の特性をある程度引き継ぐんだ」


「野郎の短剣は元になった魔獣の何でも斬っちまう特性を引き継いでるってわけだ」

「なるほど」


「そもそも何故大剣で切れ味に拘る?、大剣は叩き潰す武器だろ」

「必要だから」

「何に?」


「魔獣を倒すのに」

「はぁ?、お前の怪力があれば大抵の魔獣はぺしゃんこだろ」


名付きネームドは?」

「それは…」


ケネスは二の句が告げなくなると同時にフェイの言わとすることを理解する。


「俺に名付きネームドを倒せる剣を打てってことか?」

「そう、できない?」

「ああ!?、ふざけたこと言うんじゃねぇ!!、俺に打てねえ武器はない!、金はあるんだろうな!?」


「《黒刃鷹》の懸賞金がある」

「十分だ」

「あと鎧も欲しい」

「それもオーダメイドか?」


「んー」


フェイは店内を見回し、唸る。


「鎧と言うがその種類は多い、お前は鎧に何を求める?」

「動きやすさと防御力」

「防御力ってのはどの程度だ?」

「《黒刃鷹》の剣羽根が刺さらないくらい」


「クロード、それって具体的にどんなもんだ?」

「俺の矢と同程度だと思えばいい」

「そいつは無理だ、鋼鉄を貫く矢を防ぐ鎧と動きやすさの両立はできん」


「ケネスでも無理?」

「こればっかりは現実的な問題だ、俺の力不足でもあるが」

「それなら鎧に刺さっても貫通しないようにすればいいだろ」


「あ?、そうか!」


クロードの言葉に一瞬首を傾げたケネスだが、すぐに手を叩く。


「ん?、どういうこと?」

「鎧を貫通しないように裏地へ魔布ルードを入れればいんだ、そうすれば鎧を貫く攻撃にも耐えられる」

魔布ルードって?」

「魔獣が作った糸で作った布とか魔術で加工された布の総称だよ、とにかく頑丈なものが多い、俺のローブもそれで出来てる」


クロードが今着ているのはフェイに斬られて修繕したローブである、予備のローブは《黒刃鷹》のせいで修繕不可になってしまったので廃棄した。


「なるほど、ケネス、いける?」

「ああ!、早速打ってやるぞ!、道具を貸してやるから適当に採寸してこの羊皮紙に書いとけよ!」


「待て!、ケネス、素材は全部使うなよ?、余ったら矢にするんだから」

「おう!、善処するぜ」


ケネスは意気揚々と店の奥に消えた。


「本当に分かってるのか、彼奴は」

「祈るしかないかも」

「中年のおっさんに祈りたくなんかない」


とりあえずケネスを信じることにして、クロードは採寸の道具を手に取る。


「フェイ、採寸を手伝うからそのまま立っててくれ」

「ん、ありがとう」


「それにしてもケネスを自力で説得するなんてやるな、腕はいいんだが如何せん頑固なおっさんだから」


フェイのやるべきことなので口を出さずにいたクロードだったが、いざという時は介入するつもりでいた、その必要はなかったが。


「そう?、私は自分の作った武器の使い手を選ぶ人に見えた、多分彼は死んで欲しくないんだと思う」


「死んで欲しくないね、それならそう言えばいいのに、不器用なおっさんだ」


「そう言えばフェイ、明日時間はあるか?」

「ある、何故?」

「フェイにリベルタを案内してないと思ってな、改めて案内しようと思ったんだがどうだ?」

「行く」

「よし、決まりだな」


素早く二人で出かけることが決まった。

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