八話 聞き取りと会議
治療院で目が覚めた翌日、ギルド職員のアリシャが病室を訪ねてきた。
「おはようございます、イグノート氏、ルー氏」
「ああ」
「ん、おはよう」
朝の挨拶を済ませるとアリシャは二人の正面に立つ。
「まずはお二人がご無事で何よりです」
「命拾いしたのはそうだな」
「ん、クロードのお陰」
「それは俺もそう、ってこの話は堂々巡りに落ちるから止めるか」
「早速で申し訳ありませんが《
「もちろんだ」
ギルドから話を聞きに来る人間が来るは分かっていたし、それがアリシャだということも薄々分かってはいたので、クロードは予め用意していた説明をアリシャにした。
「《
「上空からの落下攻撃ということですか?、よく避けられましたね」
「俺は察知できなかった、助けてくれたのはフェイだ」
アリシャの目がフェイに向く。
「どのようにして《黒刃鷹》の襲撃を察知したのですか?」
「何となく」
「ふむ、分かりました」
「信じるの?」
「はい、それにルー氏が嘘をつく人間には見えません、人を見る目には自信がありますから」
「なるほど」
「それに俗に勘と呼ばれるものを軽視はできません、ルー氏のような勘は才能です、現にそれがなければイグノート氏は死んでいたようですし」
「ん」
「アリシャ、話を続けてもいいか?」
「構いません」
「結論だけ先に言うとフェイが囮となって注意を引き、俺が目に矢を撃ち込んでトドメを刺した」
「《爆裂矢》ですね?」
「そうだ」
「回収した死骸の状態とも一致しますね、ありがとうございます」
「いいよ」
「次はルー氏についてお聞きしたいことがあります」
「何?」
「冒険者になる前は何をしていたのですか?」
その質問は来るだろうと予想していた、なので既に二人でどう答えるかは決めていた。
「戦闘奴隷だった」
「元戦闘奴隷ということですか?」
「そう」
「なるほど」
アリシャはすらすらと手に持つ木の板に貼られた羊皮紙に羽根ペンで書き込む。
「素直に答えてくださりありがとうございます」
「吹聴されるのは嫌、でもクロードがアリシャは信用出来るって言った」
「付き合いの長さもあるが、一番信用できるギルド職員なのは間違いない」
「光栄です、イグノート氏」
「あんたの仕事への実直さを知ってる奴なら同じことを言うと思うぞ」
「…私もイグノート氏を冒険者として信用していますので多少のことには目を瞑ります、たとえば
「うっ、助かる」
それを指摘されると反論に困るので目を瞑ってくれるのは助かる。
「コホン、話を戻しますと奴隷のことを内密するというならばカバーストーリーが必要です、何か案は?」
「超期待のホープっていうのは?」
「
「確かにそうだな、俺の義理の妹というのはどうだ?」
「義理の妹ですか?」
「ああ、ガキの頃に会って最近再会したという体だ、
「ふむ、稚拙ですがカバーストーリーとしては上出来でしょう。ルー氏はどうでしょうか?」
「妹はなんか嫌」
「対外的にってだけだ、俺はフェイのことを妹だなんて思ってない」
「じゃあどう思ってる?」
「え、それは…」
アリシャの目があるところで本音を言うのは避けたい、単純に恥ずかしい。
「私はないものと思って構いませんよ」
「思えるか!」
玲瓏な表情に似合わずボケられたので、思わずツッコんでしまった。
「フェイ、一旦保留にさせてくれ。今は話を続けたい」
「むぅ、仕方ない」
フェイはふくれっ面でクロードの腕に抱きつく。
「アリシャ、笑いを堪えてないで報酬の話をしてくれないか?」
「失礼しました、ギルド上層部はルー氏の等級に混乱はしていますが懸賞金を支払う準備があります、それに加え《
「素直に《
「言わぬが花というやつです」
「はぁ、持っていても仕方がないから売るがフェイの装備分は貰うぞ」
「それはご自由にお持ちください、具体的な量は?」
「ケネスに相談してからだ」
「クロード、何の話?」
「フェイ、《
「作れるの?」
「《
「楽しみ」
「生き残った側の特権だな」
「クロードも矢に加工しないの?」
「矢か」
クロードは顎に手を当て考え込む。
「何か不味いことを言った?」
「いや、そうじゃなくてその考えはなかった。確かに上手く加工できれば良い矢になる、ありがとう、フェイ」
「ん、気にしない」
「アリシャ、そういうわけで羽根は売らない」
「はい、それでは嘴や爪、血肉のその他諸々は売却してくれるという事でよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい。それと懸賞金の金額は?」
「王国金貨にして五百枚です」
銀のクロードでも滅多にお目にかかれない大金だ、フェイは桁が大きすぎて無数のはてなマークを浮かべている。
「こちらからの話は以上になりますが、お二人が聞きたいことはありますか?」
「フェイの等級はどうなる?」
「これからの会議次第としか」
「アリシャの目算では?」
「何分初めてのことのですので目算のしようもありませんが、等級が上がることは間違いないでしょう」
「それもそうか」
「
「それはさすがにないかと、冒険者ギルドの等級は冒険者を守る為に存在します、それを歪めるような前例を作るのは上層部も望まないと思います」
「冒険者ギルドのルールは極小数の規格外ではなく、大多数の規格内の方々を守るためにありますから」
「んー、決まったら教えて」
「真っ先に伝えます」
それだけは確約してアリシャは二人の前から去った。
◆◆◆◆
冒険者ギルドに戻ったアリシャはすぐに三階の会議室に移動する。
会議室には既に冒険者ギルドの上層部の人間が勢揃いしていた。
「アリシャ君、君を待っていた、《
部屋の一番奥の椅子に座る眼鏡を掛けた痩躯の男の言葉に、アリシャは頷く。
「それでは報告してくれたまえ」
彼に促され、アリシャは二人から聞き取ったことを会議室の面々に報告する。
約十分ほどの報告を受け、会議室の面々は各々の反応を見せる。
「はぁ、やはり例の
「《
「バカを言うんじゃないわい、いくらあいつが優秀でも一人では《黒刃鷹》には勝てん、客観的に考えても
「元戦闘奴隷が
「有り得るも何も現実に存在するんだ、そこを疑っても仕方がないだろう」
「カバーストーリーは在り来りだが有効だろう、そちらは別途対応するとして、目下の議題は
会議室にいる面々は痩躯の男の言葉に頭を悩ませる。
「それが一番の難題ですね、我々はルールを逸脱しすぎず手柄に見合った等級を与える必要がある」
「そこの塩梅が難しいんだよな、本人は冒険者になって一週間も経っていないそうじゃないか、それじゃあ冒険者の実力が分からない」
「冒険者成り立ての人間に与えられるほど
冒険者というのはただ強ければいいというわけではない、地位の高い人間に対する接し方や応対の仕方、魔獣への幅広い知識とそれに裏打ちされた膨大な経験が大切なのだ。
そうではない人間に易々と
「それに下の等級の奴らが不満を溜め込んでいる、実力を示す機会もどこかで作る必要があるだろう」
「そうだね、妥協案として私はフェイ・バルディア・ルーを
「
七つある等級の中で真ん中に位置し、
「そうだ、幸い彼女の隣にはクロード君がいる、彼なら上手く補佐できるだろう」
「他の銀の方が良いのでは?、《弓剣》は距離が近過ぎる、彼を侮辱するわけでないが要らぬ邪推を受けないためには有効だと思うが」
「《弓剣》が怒らねぇか?、例の白はあいつが連れてきたんだろ?」
「彼ならば理性的に説明すれば理解は得られると思う」
「それは難しいと思います」
アリシャが口を挟む。
「ほう?、それは何故だね?」
「ルー氏が拒否すると思います、彼女は随分とイグノート氏を信頼している様子でした、それにイグノート氏と違い彼女は己の欲求を優先するタイプだと私は思います」
「アリシャ女史がそういうのなら私の考えは下策か」
冒険者ギルドとしては新たに
「他に何か意見はあるかな?」
痩躯の男が面々を見回すが、誰も何も言わない。
「うん、それではフェイ・バルディア・ルーは
これにてフェイの飛び級での昇級が決定した。
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