四話 初めての依頼と成功
翌朝、早朝の時間、クロードとフェイは家を出て、街を歩いていた。
「クロードは今日冒険者ギルドに行かないの?」
「ああ、フェイに斬られたローブを修理に出したりと他にもやることがあるからな」
昨日魔石の代金を受け取ったのも、今日の出費を見越してのことだ。
「質の良いローブ」
フェイはクロードの持つローブを見ながら言う。
「冒険者にとって質の良い装備を揃えるのは基本だぞ、フェイもある程度金が貯まったら防具を買ったらどうだ?」
今のフェイは大剣を背負う他に最低限の防具すら着ていない、それにもかかわらず
「防具があれば戦いの選択肢も増えるぞ」
「考えるけど私は身軽な方がいい」
「それなら身軽な鎧を買えばいい、腕の鍛冶師を知ってる、入用の時は言ってくれたら紹介するぞ」
「ん、その時はお願い」
「おう」
そんな会話を終えて、フェイはクロードと別れる。
フェイが昨日ぶりに冒険者ギルドの建物を訪れると、昨日の比ではない人数の冒険者で溢れかえっていた。
事前にクロードから聞いてはいる、冒険者ギルドが開館し新たな依頼が
とはいえ混んでいるのは青枠や黒枠の依頼板で、フェイの等級である
フェイは器用に人混みを抜けて、白枠の依頼板に掲示された依頼書を見る。
掲示された依頼は多種多様、排水溝のドブさらいから迷子のペット探し、薬草採取、畑の警備、
(ん?、薬草採取の依頼と
聞きたいことがあったら聞いてくれ、受付嬢のアリシャはそう言っていたので、フェイは早速聞くことにした。
二つの依頼書は剥がさずに、受付嬢へ伝えよと書かれていたので、フェイは受付に向かう。
受付も当然のように混んでいたが、何故かアリシャに並ぶ人はほとんどいなかったので、すぐにフェイの順番が来た。
「おはよう、アリシャ」
「おはようございます、フェイさん。ご依頼の受注ですか?」
朝の挨拶もそこそこに凍てつくような笑みで、アリシャは話を進める。
「ん、薬草採取と
「可能です、同時に受注しますか?」
「する」
「かしこまりました」
アリシャは素早く一冊の本と籠を持ってきた。
「採取していただく薬草はタルル草と言い、このような見た目と色をしています」
アリシャは本の挿絵を見せて、教えてくれる。
「似たような見た目をした草にプルル草がありますがこちらはただの草で報酬はないのでご注意ください。両者の違いは葉の色の濃さで、色が薄い方がタルル草です」
「ん、覚えた」
「はい、そして抜く際には根ごと抜いてください、根ごと抜かれていないものは半端物として減額されます、達成報酬は採取した薬草の重さで変わります、こちらの籠に目安の目盛りがついていますのでご承知おきください」
「沢山採ってくれば報酬が増える?」
「はい」
「ん、
「こちらは
「それだと一回の依頼で多く稼げるけど、等級が上がらない」
白から青に昇級するには依頼を五十件、達成しなければならない、フェイとしてはいくら稼げても二件の依頼を達成したとして処理されるのであれば、少々効率が悪いのでは考える。
「ご安心ください、常設依頼であるこの二件はそれぞれ籠の一番下の目盛りで一件、
「ん、分かった。頑張る」
「達成報告をお待ちしています」
ぺこりと丁寧なアリシャのお辞儀を受け、フェイは冒険者としての第一歩を踏み出した。
◆◆◆◆
コルミナ森林はリベルタの南門から出て、四半刻ほど街道を歩き、そこから脇道に逸れた場所にある。
フェイ以外にもちらほらと白等級の冒険者がいたが、フェイは気にせず森に入る。
「ん、まずはタルル草を探す」
鬱蒼とした森の中を五分ほど歩くと、記憶の挿絵と同じ色の草を見つけた。
「これがタルル草?」
確証はないがとりあえず根ごと引き抜いて、籠の中に入れる。
周囲を探ると他にも同じような草が生えていた。
「ん、これとこれ、少し色が違う」
最初に採取した薬草の方が葉っぱの色が薄い。
つまり最初に採取したのがタルル草で、今目の前に生えているのは似て非なるプルル草だ。
それが分かればあとは簡単だ、最初に採取した草と同じ草を探せばいいのだ。
最初に採取したタルル草を足がかりにフェイは、森を歩き多くのタルル草を採取していく。
「結構楽しい」
薬草採取に楽しさを覚え始め、籠の中身が満杯まであと半分と言ったところで、フェイは足を止める。
「ギィイイ!!、ギャア!?」
突然木の上から
「ん、一匹」
すぐに左側から現れた小鬼を蹴り、大剣を構え正面から襲ってくるもう一匹の小鬼の胴体を両断する。
「三匹」
しっかりと周囲に他の気配がないことを確認して、フェイは小鬼の死体から耳をちぎり取り、腰に下げる皮袋に入れる。
「ギャギギ!!」
「
そのあともタルル草の採取を続けたのだが、何度も小鬼に襲われた。
そのせいで
「んん、知らない森、深追いしすぎるのは良くない」
タルル草を求めてもっと奥へ行きたくなるが、フェイは己を戒めて、ここで切り上げることにした。
帰途についたフェイだったが、またしても小鬼の集団に襲われた。
特に苦戦する相手でもないので、サクッと倒して耳をちぎった。
「ん?」
フェイは一瞬森の奥を見るが、すぐに視線を切りその場を後にした。
◆◆◆◆
冒険者ギルドに戻ると、早朝ほど混んでおらず空いていた。
フェイはすぐにアリシャのところへ行く。
「達成報告をしたい」
「薬草採取と小鬼の討伐ですね、籠はカウンターの上に小鬼の耳が入った皮袋はこのトレイへどうぞ」
「ん」
アリシャは籠の中にある薬草を別のトレイの上に広げて、素早くチェックをする。
チェック作業はものの数十秒で終わり、籠に薬草は戻され、秤にかけられる。
「良い目利きです、プルル草が一株もありませんでした」
「ちゃんと見て採ったから」
「なるほど、これからもお願いします」
「ん、頑張る!」
「はい、こちらが達成報酬、薬草採取の依頼は銀貨五枚です、小鬼に関しては全部で二十六匹ですので、銀貨二枚と銅貨六枚です」
「小鬼の魔石も売りたい」
「こちらへ」
小鬼の魔石は小鬼の討伐報酬と同じ値段で売れた。
「報酬が二倍、クロードの言うこと正しい」
「だから討伐依頼は稼げる」
「クロード」
受付から離れると正面にクロードが立っていた。
「待ってたの?」
「ああ、初めての依頼はどうだった?」
「薬草採取は結構楽しい、小鬼はたくさんいて面倒臭かった」
「数が多いのが小鬼の特徴だからな」
「クロードの用事は?」
「全部済んだ、ローブは修理に出したし
「明日は依頼を受ける?」
「ああ、ただローブは修復中だから受けるとしても軽い依頼だな」
「一緒に行きたい、クロードの冒険者としての実力を見たいから」
「別に構わないが
「んーん、クロードも薬草採取しよ」
「銀が白の仕事を奪う訳には行かねえよ、明日コルミナ森林の依頼を探してみるよ、なかったら一緒に行く件は後日、それでいいか?」
「ん、それでいい」
「それじゃあさっさと帰るぞ」
「お金を稼いだからクロードに夕飯を奢る」
「おっ、それなら高いやつにするか」
「あんまり高いのはダメ」
「分かってるよ、昨日の串焼き屋でどうだ?」
「ん、行く」
二人は仲良く冒険者ギルドを後にした。
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