三話 冒険者ギルドと受付嬢
冒険者ギルドに向かう前に、約束通り屋台で焼き串を購入し、フェイに奢った。
「ん、美味しい。ありがとう、クロード」
「さっきはああは言ったけど別に焼き串を奢るくらい大したことない、現に俺も腹が減ってた」
異様に腹が減っているのはフェイの戦闘で大怪我を負ったからではとクロードは推察している。
失った血液を補充しようと身体が外部からのエネルギー摂取を要求しているのだ。
「フェイが冒険者として稼げるようになったら俺にも奢ってくれよ?」
「ん、約束する」
「期待してるぞ」
「百本奢る」
「そんなに食えねぇよ」
「余ったら私が食べる」
「それってフェイが食べたいだけだろ」
「ん、バレた」
「分かりやすいだけだ」
「とりあえず奢るのは約束な」
「ん」
焼き串を食べ終え、奢る約束を交わしたところで冒険者ギルドの建物に到着した。
「ここが?」
「そう、冒険者ギルド、冒険者を管理し依頼を斡旋してくれるところだ」
扉を開けて中に入ると、その中はかかり広い。
内装はかなり綺麗に整えられており、床にはゴミひとつ落ちおらず奥のカウンターで待つ受付嬢は輝くような笑みを浮かべている。
「すごい綺麗、想像と違う」
「ギルマスが大の綺麗好きだからな、他の街のギルドはこんなに綺麗じゃないぞ」
クロードはフェイを連れて、一番左の受付嬢の方へ行く。
その受付嬢は眼鏡をかけておりフェイから見てもかなりの美人なのだが、何故か凍りつくような笑みを浮かべていた。
「依頼の達成報告をしたい」
「はい、依頼書を」
クロードは丸めた羊皮紙を背嚢から取り出して、受付嬢に渡す。
「はい、達成印を確認しました。報酬は手渡し、それとも口座へ?」
「口座へ頼む、それと道中で倒した魔獣の魔石の換金をしたい」
「こちらへ」
クロードは鎧熊の魔石を受付嬢が差し出した木製トレイの上に載せる。
受付嬢はそれを近くに置いてある秤にかけ、重さを量る。
あまりにも早く流れるような作業にフェイは思わず見入ってしまった。
「リード金貨十枚です、こちらも口座へお送ります」
「いや、そっちは現金で頼む」
「かしこまりました」
素早く黄金色に輝く金貨が十枚きっかり積まれ、クロードはそれをすぐさま用意していた革財布に入れる。
「アリシャはやはり仕事が早いな、助かるよ」
「それが私の仕事ですので」
「そうだな、彼女の冒険者登録もやってくれると助かる」
ここでクロードにアリシャと呼ばれた受付嬢の目がフェイの方へ向く。
「冒険者登録ですか?」
「ん、お願い」
「かしこまりました」
アリシャは素早く羊皮紙を取り出し、羽根ペンを手に持つ。
「お名前は?」
「フェイ・バルディア・ルー」
「種族は?」
「白狼族」
「特技は?」
「剣を振るうこと」
アリシャは羊皮紙を持って、カウンターの下から木製のトレイに載せて真っ白いドックタグを取り出す。
ドックタグが一瞬光るとフェイの名前が浮かび上がる。
「これで貴方はリベルタ支部に所属する白等級冒険者です、リベルタを離れて活動する際は当ギルドにお越しください、異動手続きを行います」
「ん、これで私は冒険者?」
「はい、そちらの
「ん、分かった。等級はずっと白のまま?」
「いいえ、等級は
「白から次の等級である
「ん、等級を上げればいい?」
「はい、基本的にはそうです、等級が上がれば危険度は増しますがより報酬の高い依頼を受けられます」
「クロードの等級は?」
「彼の等級は
「ん、私も
クロードが見せてくれたドックタグは銀色に光っていたのを思い出す。
「貴女のご活躍を祈っています、説明を続けます」
「ん」
「依頼の途中放棄は重大なペナルティとなります、依頼を達成できないと判断した場合はギルドに達成不可報告をしてください、ただし達成報酬の半額を違約金としてギルドに支払わなければなりません、ご自分の身の丈にあった依頼を受けるようにお願いします」
「また冒険者間の諍いは当事者での解決をお願いします、ただし場合によってはギルドが強制介入することもありますのでご留意ください」
その後も冒険者として活動する上での注意事項をいくつか教えられてから、やっとフェイはアリシャからドッグタグを受け取った。
「ん、見て、私も冒険者になった」
「おめでとう、よく似合ってるぞ」
「アリシャも対応してくれてありがとう」
「それが私の仕事です」
アリシャの凍てつくような笑顔はフェイの無表情と違い、威圧感を覚えてしまうがクロードには慣れたものだ。
「フェイ、今日はここらで切り上げて帰るぞ」
「帰る?」
「今依頼を受けても帰る頃には日が沈み門が閉じる、出直した方がいい」
「違う、どこへ?」
「フェイには銀貨一枚で泊まれる安宿を紹介してやるよ」
「ん、クロードと一緒がいい」
「はぁ?、どうして?」
「ただの我儘、駄目?」
フェイほどの美人、いや、狼の獣人だから美狼とでも言えば良いのか、ともあれ可愛らしくねだられるとなかなかに断りづらい。
「クロード、私を泊めたら銀貨一枚が浮く、これはとても大きい」
「無一文が知ったふうなことを言うな」
「んん、聞こえない」
「都合のいい耳だな」
二つの獣耳を抑えて聞こえない振りをするフェイに、クロードはこめかみを親指で揉みほぐす。
一応フェイの言うことに筋は通っている、問題はフェイを世話する手間が増えることだが、クロードにとってはデメリットではない。
なんだかんだフェイと一緒にいるのは楽しい、出会った一日も経っていない人間に対してそう感じるのは変かもしれないが、案外相性が良いかもしれない。
「分かった、泊めてやるよ。その代わり家主の指示には従うこと、分かったな?」
「ん、クロードには絶対服従」
「そこまで言ってねぇよ!」
冒険者になったフェイを成り行きで泊めることが決まった。
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