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午後六時。おれと波多野はテレビを観ながら缶ビールをあけた。線路沿いのマンションだからか、電車が通るたび、テレビの画面に色とりどりの線が入る。
「モザイクみたいっすね」
波多野の気楽な指摘に、ついつい笑顔になってしまう。
ただ、波多野が軽口を叩く理由はわかる。テレビ画面では、高円寺の公園でレポーターが喋っていたからだ。
画面の中のレポーターは、頭がへこんだ男について喋っていた。線路沿いのマンションの一室では、おれがひとりで喋っていた。穴だらけの話を憶測で埋めながら、喋り続けた。神田川の向こう側にいる男について、波多野に喋って聞かせた。
おれの想像はおそらく当たっている。
平林先輩にも、憶測に基づいた想像を共有する。電話の向こう、平林先輩はご機嫌だ。きっとそれは不機嫌の裏返し。対応をミスれば、おれもまずい立場になるだろう。ビールで麻痺してきたとはいえ、顎はまだやや痛む。
六時十分過ぎ。電子音が鳴る。否応なしに注意を惹きつける音。YMO「ナイス・エイジ」のイントロに似た旋律がおれのPHSから鳴っていた。液晶には「チバトモ」の名前が表示されている。
電話に出る。波多野は席を外して台所へ向かう。
「チバトモ、どうした?」
「よかった。繋がった! さっきナオから電話があったんだよ」声が息切れしてる。
「ほぉ?」
「七時半に関東村で会えないかって」
「あ? どこよ」
水が入ったグラスが目の前に置かれる。波多野は気が利いている。
「西武多摩川線の多磨墓地前駅から近いところにある廃墟だって」
「向こうはひとりか?」
「うん。逃げ回ってるって。漫画喫茶とかカラオケで寝泊まりしてるって言ってた」
もえさんの言ってたことは、間違っていなかったということか……。
「そっか。じゃあ、おれが迎えに行く。料金の上乗せとかはしねーから、安心しろ」
電話を切る。波多野を見る。奴も行く気になってる。ちゃんとわかってるじゃん。
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