第5話 通夜
お通夜が始まった。
僧侶が中央に座り、大きく鐘をつく。会場全体にお経を読む声が響き渡る。みな神妙にそれを聞いているが、俺には何を言ってるのかさっぱりだった。
斎場は用意した席の半分ほどが埋まっていた。前方に親族が並び、後方には参列者が並んでいる。俺は上条さんと一緒に後方の入り口で待機していた。
お経を聞き流しながら、俺は先ほど確認した録音内容を思い返していた。
俺が用意した盗聴器は録音機能付きだった。
受信端末でリアルタイムに盗聴を行うことはもちろん、送信端末にメモリーカードを挿しておけば録音しておくこともできる。
万が一の場合に備え、組野一家が到着する前に親族控室の隅に目立たないように設置していたのだ。
イヤホンを受信端末に挿し、周波数を調節する。
『……一徹、正直今回は……』
『……んですよ? だからそれに従って…………だけです』
『だが、………………ないだろう。トップを目指すなら、………………』
受信端末からは功一と一徹の声が聞こえてきた。しかし、電波が悪かったのか受信した内容では何の話をしているのかまでは確認できない。
『そんなのは分かってます。だけど、今まで…………、……をここまで弱らせてしまった』
『…………。上手くいけば、…………に持ち込むことができた』
ときどき他の親族の声も聞こえてきたが、肝心な部分のほとんどにノイズ音が混じっている。
苛立ちが抑えられず、俺は近くの壁を拳で叩いた。
いつもはこんなことはないのに。無線式だからか電波状態に左右されるようだ。
仕方ない、本体を取りに行こう。
録音内容を確認するには送信端末を回収してメモリーカードを回収しなければならない。つまり、親族控室に入る必要があるのだ。
ゴーンと鐘が鳴り我に返った。
僧侶が持っていたりん棒をばちに持ち替え、木魚を叩き始める。隣にいた上条さんは前方に座っている組野功一のそばへ行き、お焼香をするよう声をかけている。
俺はそれを見計らって斎場から抜け出した。
受付のあるエントランスはとても静かだった。斎場からお経の声が漏れ聞こえるものの、誰もいないこともあって妙に静まり返っている。
自分の鼓動が妙に大きな音を立てていた。
俺は親族控室の前に立った。
誰もいないと分かっていたが、改めて周囲を確認する。
『親族控室には入っちゃだめよ』
頭の中で上条さんの声がこだまする。俺はその声を振り払って、扉に手をかけた。
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