第2話 安置室
日が沈み始めたころ、故人と御家族を乗せた車が斎場に到着した。
斎場の入り口にはすでに名前が掲げられ、『故
黒いスーツを着た恰幅のいい男性が車から次々と降りてくる。まるで政治家が到着したような、テレビでしか見たことがない物々しい様子だった。
かなりの大物のようだ。俺は先輩の後ろから顔をのぞかせて、誰が出てくるのか期待しながら見ていた。
男たちが後部座席の扉を開ける。そこから出てきたのは、細身で長身の男性だった。喪服なのに黒色というだけで彼の足がとても長く見える。顔立ちも整っており、モデルをしていると言われても納得のスタイルだ。
彼はサングラスの下からあたりを窺っていた。ちらりと覗く二重が左右に動く。細目なこともあり、まるで周囲を警戒する狐のようだ。
アイツ、親族か? ボンボンなだけでもムカつくのにルックスもいいとかほんとイラつく野郎だ。
彼は後ろを振り返り、後から降りてくる老人に声をかけている。
「おじいちゃん、腕に捕まってください」
「ああ。
袴姿で降りてきた老人は、一徹と呼ばれた孫の腕につかまりながら杖をついてこちらへやってきた。
この老人が今回の喪主『
二人がそろったところで、俺と先輩は挨拶をする。
「この度は誠にご愁傷さまでございます」
「突然の話でしたのに無理を聞いていただきありがとうございました。本日はどうぞよろしくお願いします」
功一はそういうと俺たちに頭を下げた。一徹もサングラスを胸ポケットにしまうと、功一にならい恭しく頭を下げる。
功一は八十三歳と記載があったので、一徹は二十代後半くらいだろうか。しかし立ち振る舞いに二十代とは思えない貫禄がある。
「ではまず故人を霊安室へお運びしますね。聞太くん、ご案内して。それから本日の段取りについてお話しさせていただきますので、功一様はこちらへお願い致します」
先輩と組野功一を見送り、俺は地下にある霊安室へ向かった。後ろから遺体をのせた台車と孫の一徹がついてくる。
「こちらになります」
扉を開けるとひんやりとした空気が流れてきた。蛍光灯の明かりが、窓のない部屋を薄暗く照らしている。中には業務用の冷蔵庫に似た銀色の引戸が並んでおり、ブーンという電気音のみが静かに響いていた。
外との気温差のせいか、ここに来るといつも鳥肌が立った。
俺は指定された棚を引き出し、足が奥になるように遺体をそこへ寝かせた。
遺体の様子を見て、俺は心の中で舌打ちをする。顔を確認したかったが、頭全体が布で隠されていたのだ。
死因は火災かなんかか? そうでなければずいぶん徹底しているな。
少しでも見えないかと数秒凝視していたが、鼻と顎の突起があるだけで何もわからない。
ふと顔を上げると、一徹と目が合った。彼は俺に向かってにっこりと笑う。先ほど見た鋭い表情とは一転、目尻が下がった柔和な笑顔だった。
この場にふさわしくない表情に、俺は戸惑った。
父親が死んだってのに、泣くどころか笑顔だと?
「……では、功一様のもとへご案内します」
さっきより気温が下がったような気がして、俺は遺体をのせた担架をさっさと奥へ押し込んだ。
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