世代交代

なぬーく

第1話 寝坊

「うっす……」


 出勤していつものようにこっそりとデスクにつくと、ポカンと音とともに頭に軽い衝撃が走った。


聞太ぶんたくん、また寝坊?」


 声のほうを見ると、紙筒を持った上条さんが立っていた。


「十分や二十分の遅刻ならまだしも、もうお昼過ぎよ? 少しはちゃんとしなさい」


 すんません、と言って俺――渡部聞太わたべぶんたはペロッと舌を出した。

朝早い仕事は苦手だった。俺は学生時代に夜勤のアルバイトを掛け持ちしており、今でもその生活リズムから抜け出せないでいた。


 就職活動もこれといってやりたいこともなく、なんとか拾ってもらったのがここの葬儀会社だった。


「まったく。午前休にできる回数だって限られてるんだからね」


 上条さんは頭に手を当ててため息をついた。


「今日はお通夜とか入ってないんすか? なんとか夜勤としてカウントしてもらえないっすかね」


「そういうと思って、急遽入ったお通夜、あなたを副担当にしておいたから。今夜よろしくね」


「よっしゃ!」


「人の不幸を待ち望むような言い方をしない!」


 そうして俺は先輩からお客様に関する書類を渡された。

 聞太は心の中でにやりと笑った。

 実は、俺がこの書類を手に入れたいがために、寝坊癖をわざとそのままにしていることは誰も知らない。

 人の生死に関する情報は結構金になるのだ。この間も芸能人の死をいち早く仲介業者に知らせたことで、俺の口座にお金が振り込まれた。

 先日会社に訪れていた家族を何組か想像しながら俺は質問した。


「事前に相談のあった方ですか?」


「いいえ、新規の方よ。花とか棺の準備はできているから、聞太くんは御家族が到着してからのサポートをお願いね」


「わかりました。……あれ、今回のお客様、名前以外の記載がないんすけど」


「ああそれ、御家族の希望なの。あまり個人情報を公にしたくないみたい」


組野くみの家』


 これは大物においがプンプンするぜ。

 俺はさっそく仲介屋に一報を入れることにした。

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