一千夏、“めくるめく”の初心者になる

「おいしーな、おうちモーニング」


 写真撮ったよ、もちろん。

【彼の作った朝ごはん】うふふ。


 大降りマグカップにアメリカン、ちっちゃいトースト、茹でたウインナーにコールスロー。あと、これプリン?ババロア?



「それブラマンジェ。思い出して作ってみた」


「なつい。恭太郎ママがよく作ってくれたよね」


 ちんちんぶらぶらブラマンジェ~♪と二人で歌って叱られた。

 でも、歌込みでブラマンジェなのよー。



「おいおい、歌うな歌うな。そーゆーのは、小学生まで」


「ちぇ、なんだよぉ、ノリ、悪いなあ」


「いいから、食え。だいたい、もう11時だぞ。とっくにモーニング過ぎてるわ」


「で、今日どうしよう…って、恭太郎の美容院予約しなきゃ!」


「へ、俺、髪切るの?なんか今いきなりだよな?」


「月曜がさ、伊藤恭太郎くんの『鈴木一千夏ちゃんの彼ぴっぴ』お披露目祭りなわけじゃん。当然、イケメてないと遺憾、イカンでしょうが」


「いやいや。俺は今まで通りがいいんだが」


「お、抵抗弱いね。もっと嫌がるかと思ってたけど、じゃあ、いいよね」


「しゃあない。一千夏に恥はかかせられん。…ところで一千夏」


「うん、何?」


「学校では絶対、いたさないからな」


「ぷ。あたりまえじゃん。家が隣だしベランダはつーつーだし、同じ家も同然。じゃあ落ち着いて家でいたすでしょ。学校でなんてシャワーもないのによくやれるよ。貧民野蛮人だよ。あーやだやだ。あ」


「なんだ?」


「なるべく恭太郎の家がいいな。うち、隣がいるじゃん、恭太郎んち、角部屋じゃん。…ね?」


「うん。それしかないな。でもお前んちに聞こえちゃうなら、夕方しかないな。うちのオカンは遅いからいいけど」


「速攻帰宅だね。で二時間?シャワーは時間外でいいもんね」


「週何回するつもりだよ」


「え、一日おき?土日はダメだから三日しかないじゃん。でも、例の恭太郎式なら動かないから静かにいたせるかもしんないね」


「式じゃねえ。ポリネシアンセックスだよ。でも、プレヒートに時間かかるぞ…いや…あれなら…」


「ごちそうさま。なんか思いついたみたいだし。じゃ、さっそく試そっか!」


「…じゃ、今日はおうちデートってことだな」


「あ、その前にガーネットに予約予約!」


電話をしてると、恭太郎が盆にポットとカップ持って戻ってきた。


「一千夏。これ飲んで。紅茶にブランデー入れたやつ」   



熱々の紅茶にブランデー入り。すぐに血行が良くなってくる。

顔も耳も、おっぱいもたぶん真っ赤だ。


「予約、今日の夕方4時に取れたから、いってきてね」


「ああ。わかった。ありがとう」


恭太郎がそう言いながらわたしの手を引く。



「じゃ、一千夏。遊ぼっか」





 ◇◆◇





「散歩がてら買い物行こうぜ」

「うん」


 ジャージでお買い物。マイバック持って、恋人繋ぎで。

 楽しい。

 楽しくて楽しくて。にやけ顔が収まらない。


「はあ…。恭太郎、ごめん、回数やらなくてもいい。濃ければ週一でもいい」


「あれ。急にどうしたんだよ。俺はちゃんと付き合うから大丈夫だぞ」




改めて恭太郎とわたしの相性の良さを知った。知らされた。


「“めくるめく”って言葉をグルグル先生に尋ねたらさ、⒈〈目がくらむ〉⒉〈めまいがする〉⒊〈あまりに素敵で理性をうしなう〉だって」


「そうか。俺の一千夏は三つとも、だよ」


「やだ。ふへへ、そお?」


「あの、一千夏さんや、⒉に絡めたイヤミも入ってるんだけど」


「でも、それ込みで“めくるめいて”くれてんでしょう?」


「だな。一千夏があんまり素敵で俺、今すごく幸せだ」


 ありがとう。返事の変わりに、ニッコリと笑う。心から笑う。


「わたし、三番目の“めくるめく“を覚えたての、初心者なんだよ。…すごく嬉しいよ、初心者なのが」



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