一千夏、恋心芽生える

一千夏視点:


 


頭がパニクって、家に帰ってきてしまった。




 


─── きょ、恭太郎が、わたしの事、わたしの事、好きって言ったあー!




 


恭太郎の事は好きだけど、それは家族愛のようなものだ。






恭太郎はやさしいし、わたしの話はちゃんとなんでも聞いてくれる。すごく器用でいろいろ助けてくれるし、おいしい料理だって作れるし、けっこう慰めてくれるの上手だ。




でも、恋愛という視線で恭太郎を見る事はなかった。






隣の、きょうだいみたいな、とても近しい男の子。






もし恭太郎がセックスしようって、迫ってきたら、できない事はないと思う。たぶんできる。




その後の関係がギクシャクするのは勘弁だけどね。




たぶんすればそれなりに楽しいだろうしもっと仲良くなれると思うけど、幼馴染としての関係は失うような気がしてならない。距離感は大事だ








今、恭太郎と恋人のどちらかを選んで選ばなかった方と関係を切れ、と選択させられたら、たぶん恭太郎を選ぶだろうな。








彼氏ならいなくなっても、たぶん一週間も落ち込めば諦めがつくだろう。




恭太郎がいなくなるなんて、考えただけでゾッとする。








恭太郎は大事な男の子。




かけがえがない、存在








だけども、彼は幼馴染。




大好きだけど、恋人じゃない








むしろ、恭太郎は




わたしの大切な、きょうだい




だと思っている














そんな認識が今日、ついさっき、ひっくり返った。
















今日、駅ビルで恭太郎に声掛けられた時、声は恭太郎なのに、見た目があまりに認識している恭太郎と違いすぎて戸惑った。


 


どう見てもかっこう良かった。となりにいた大学生風の女の子ふたりも、ちらちら恭太郎を見てたしね。








陰キャ丸出しの目隠れロンゲは、上手にバックにしてかき上げてあった。


ワックス使い?ピン?




いつもダサいと思ってた黒のセルフレームがない顔が、新鮮に見えた。眼鏡してる顔しか、見てないからなあ。




にかっと笑った歯並びが完璧だ。うん。




すごく、男っぽい。あご、思ってたよりがっしりしてる。








グレーに太目のブルーストライプの入った、こなれ感があるプルオーバーシャツに麻混っぽいパンツで足元は茶のスリッポン。シンプルだけどお洒落だった。


メッシュバンドの薄い紳士時計がブレスレットよりセクシーだし似合ってた。




大人の男っぽい。良きしかない。






…普段とのギャップがひどいな。ははは。






ここんとこ学校でしか見てないし、別段普通に陰キャしてたから今まで気がつかなかったけど、恭太郎のたたずまいは完全に少年から青年へと変わっていた。






鍛えてるっぽい首と二の腕の筋感も、とてもかっこいい。






クソみたいな彼氏と別れたばかりだからかもしれないけど、グラっと来たのは本当。






恭太郎とお付き合いする。今ならありありだ。ビジュアルでころっと態度変えるなんてと思うけど。




わたしは、そんな基準で男を選んできた面食い女なんだよ。








ところが、そのバリュー絶賛上昇中の恭太郎が、とても回りくどいやり方だけど、わたしの事が好きって、大好きだって告白してきたのだ。




「ああ、それはもう大好きすぎて困る」




…困るなよ。




いきなりの不意打ちだった。頭が真っ白になって胸がドキドキして、顔も耳もたぶん真っ赤になってた。レッドアラートだ。いたたまれなくなってその場を逃げ出した。








今はわたしの家、リビングのソファだ。




横倒しになって腕と股で恭太郎のyogeboをぎゅうぎゅう抱きしめて、無理やりに考える。








ビジュアルはど真ん中。文句なし。




欲張って、恭太郎の人となり、大好きな所を思い浮かべる。人格は大事。


そんなのあたりまえだけど、もう三回失敗したからね。




器用で真面目でやさしくて。


それにいつのまにか大人っぽくなってて。




あれ?あれえ。めっちゃバイアスかかってしまう。


 


うわわ、あいつの事、今まで通り見ることが不可能になっちゃった。




今のココロを一言で言うと、




「恭太郎、しゅきしゅき!」だわ。




恭太郎はわたしのスパダリだったのかあ。ピアノまで弾けるんだぜ、あいつってば。




いやいや。


いやいやいやいや…。




恭太郎だよ、見た目はイケメてるけど、大人っぽくなったけど、恭太郎ってたぶんチェリーだよ。




もし彼女ができたら、あいつはわたしと距離置こうとするだろう。




でも、いままでそんなこと一回もなかったし。




このわたしだって一応できてるんだ、恭太郎がしないわけない。




あれ。それって。それってさ、今わたしと付き合っても全然OKってことじゃん。






恭太郎と付き合う。たぶん相性は抜群にいいはず。




チルいPVみたいな妄想が浮かんだ。




つまんない事で喧嘩したりー、


なんでもないことで笑ったりー、


プレゼントを交換しあったりー、


で、


抱き合ってキス…。




…。やだ、恥っず!妄想だか願望だかが、止まんない!




で。




指輪を差し出されちゃうわたし。え、これ、給料三ヶ月分のやつ?




ギャ───っ!




あかん、これあかんヤツや!




おそろしい。とんでもない扉が開いてしまった。




でも、あながち無理めでもない妄想ではあるかもね。




よし、


とりあえず風呂に入る。歯もきれいに磨いて、かわいいパジャマを着た。






なんだか、わくわくが止まらない。




時計は12時を指した。《明日》になった。




シンデレラ作戦の決行!




わたしはスマホを開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る