一千夏、告られる

恭太郎視点:






 一千夏は口直しにと、チェリーコーラを開けて飲んだ。




「で、今回はなんだったの?」




 別れた理由を一応、聞く。




「いいたくない」




「じゃあ、聞かない」




 しばらく黙んまりが続いたが、ぼそりと言う。




「…二股かけられてた」




 …二股だあ?


 〈俺のかわいこちゃん〉になんつうことすんだ、禿げろ!バーカ。お前は退場だ。氏ね!






 ああ、ここらが潮時かもな。






「…ほれ、食えよ」




 一千夏にチーズ入りのグリッシーニを一本渡す。




「そうか、今までで一番の、クズだったな」




 一千夏はグリッシーニを噛み千切ってもぐもぐしながら怒っていた。




「どクズだよ。思い出しても腹立つ!くっそおー」




 どクズ野郎、ナイスパス!




「なんか言った?」




「あ、いや。ま、そういう事もある、って事だな」




「なんか偉そう。上から目線だ。童貞のクセに」




「ド、ド、童貞ジャ、ネーシ」




 棒読みでお約束を返した。




「いや、あんた誰とも付き合ったことないでしょ。あれか。…ホモ疑惑発生?」




「バッカ、俺はばりばり異性愛者だし」




「あんた、その顔面維持して学校くりゃ、すぐ彼女できるってば」




「ほっとけ。俺にも好きな女くらい、いるわ」




 そう俺が答えると、一千夏はなんだか急に目をキラキラさせて身を起こした。




「それって、うちの学校の子?」




「…」




「沈黙はイエスでしょ。じゃあ、同じ学年かな?」




「…そう」




「え─── っ!」




 振りは成功。ミニトートからスマホを取り出した一千夏だった。






「じゃあ、私が当てるからね…うーん、じゃあ、満ちる!」




「ブー、はずれ」




「違うか。じゃあ、亜里紗?」




「ブー」




「もしかして、京佳?」




「ブー」




「…もしかして、大穴で春野?」




「ブー。聞くけど、それ何基準?」




「胸の大きさ」




 一千夏は普通に“ある”ほうだと思う。ま、どうでもいいけど。


「俺はおっぱいは好きだが、大小にはこだわりがないぞ」




「そうなんだ。まあ、特殊な趣味でないと春野はないよねえ。顔は結構可愛いんだけど」




 春野、村上さんはかなりわがままボディの持ち主だけど、けっこうすばしっこい系デブだし、性格もほがらかだし面倒見もいい。皆に好かれている女子だ。




「言いたい放題だな。なんかお前、村上さんを馬鹿にしてるけどな、こないだ背が高いイケメンとうちの店に来て、いちゃついてたぞ」




「えーっ、うっそ」




「蓼食う虫も好き好き、だ。あ、ちなみにスレンダーイケメンと可愛い顔したわがままボディさんのカップルは、別にそんなに珍しくない」




「それ、聞きたくなかったー!やっぱり“遺伝子が適合を騒ぐ的“な?」




「いや、知らん。でも、ちっちゃくて可愛い子と、でかめのぽっちゃり男子って組み合わせもあるしな」




  「って、それはまあおいといて…、続き行くよ。んー、友里?」




「ブー。ってお前女子全員把握してんの?」




「LIMEは自分のクラスだけだよ。ほかのクラスはメンバー表をスクショしたやつを見てる」




 その後も飽きずに女の子の名前を出す一千夏。どうやら可愛い順らしい事は恭太郎もなんとなくわかったが、まあ、ことごとく外れだった。




 残った女子数人を投げやりに名前を出す一千夏。




「ブー」




「いないじゃん。どういうこと?」




「いるだろ。まだ残ってるやつ」




「え?…全部、出したけどな」




 リストを見直し始める一千夏にもう一本、違うグリッシーニを渡した。




 一口食べて、変な顔をする一千夏。




「さっきのと違うじゃん。…これも、歯磨きみたいな味がするし」




「はは。キャラウエイだよ…。一千夏、ヒントな」




「うん」




 俺はグリッシーニを指示棒代わりに立てた。




「1.〈可愛い〉」




「それは考えて選んだつもりだけどなー」




「2.〈今付きあっている男はいない〉」




「へ?…どこ情報?」




「3.大まけヒントな。〈名前の最初に〈一〉が付く〉」




「え?誰か、いたっけ」




 考える一千夏。わからないようで一生懸命考えている。




 仕込みは上々。




「時間切れー。じゃ、正解発表」




 俺はグリッシーニでちょんちょんと一千夏を指す。




「…え、ええっ?…わ、わたし?」




「ピンポーン。あ、本人には内緒で頼む」




 俺の顔をまじまじ見て、突然、頬から耳から真っ赤にした一千夏。




 ぼす。枕が飛んできた。




「…か、可愛い?」




「めちゃめちゃ可愛いな」




「好き?」




「ああ、それはもう。大好きすぎて困る」




 えー、とか、いまさらぁ?とかぶつぶつ言っていたと思ったら、




「一旦解散!明日になったらまた来る!」




 叫ぶと、あわてて家に帰ってしまった。






 ─── おいおい、Yogebo置いてけよ…。


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