一千夏、恭太郎ん宅に行く

恭太郎視点:


一千夏と俺は同じマンションの隣どうしに住んでる、幼馴染だ。


一千夏がこの部屋に来るのは三ヶ月ぶりくらいだろうか。その前はやっぱり数ヶ月くらい前だったかな。その前、中学生の頃は毎日来ていた。“ように”、じゃなくてマジで毎日。


いわゆる高校デビュー組の一千夏は、どうやってもまとまらず、大きな一本三つ編みにしたクセッ毛から、ストレートパーマという技術でさらっさらのロン毛に変身した。


コンタクトにし、眉も整え、化粧も覚えた一千夏は、昔、母さん推奨ビデオの一本で一千夏と一緒に見た、尾道が舞台の初恋ジュブナイル物のヒロインに似た、清純系美少女に変身した。意思のはっきりしてかつ目尻が下がった瞳に細いあご、小さな顔に、尼削ぎストレート。


で、本人。やる気もぶち上がっていた。


「高校じゃ、この路線で行く。で、人気者になって彼氏もつくる。アオハルだよ、アオハル!」



人気者の方は、元が人懐っこくてサッパリした性格だったので、清純ぶりっ子しても難なくクリアして友だちを沢山作っていた。ようするにそっちは変身しなくても行けたんじゃないかと思った。


そして彼氏のほうは━━━


高校最初のGW前に俺ん宅に来た一千夏は玄関で、


「私、彼氏が出来たからね。知ってると思うけど。そんで、彼氏がいるのに恭太郎の部屋に入り浸るのはやっぱり拙いと思うから、明日から来ない。けど幼馴染だし、これからもヨロシク」


とか勝手なこと言って、俺の部屋にはプッツリこなくなった。



最初の相手は、一学年上のスカシたやつだった。





◆◇◆




俺が氷とかグラスとかを持って部屋に戻ると、一千夏の代わりにタオルケットを被った人型の物体が、俺のベットの上にいた。

この奇行は見慣れているので放置。


買ってきたダッツンルートビヤという飲料を開けて飲んでみる。

変なデザインの缶。…あー、歯磨きの味ってこれかあ…。


飲みながら一千夏を見る。

あ、最近買ってお気に入りのyogeboも取り込まれているじゃねーか。


この部屋で一番古い物、眠い水色格子柄のタオルケットでできた人型を見るのは久しぶりだな。

小さな頃は一千夏と一緒に俺ももぐり込んでいたから、母さんが撮ったチュキのプリントが、自分が見たという捏造記憶とすり替わっている。


中学になって、一千夏は俺の部屋に来ると頻繁にタオルケットや羽毛布団にもぐり込むようになった。

さすがに俺は入らない。しばらくすると出てくるので、このまま放置だ。



何やってるのか聞いた事がある。


「え。古巣の、確認?」


だそうだ。



こういう奇行も、近しい人間がしれっと繰り返すとああ、またか。になってしまう。

俺が気にしなきゃ、平和だし。

ただ俺が寝る時に果物チックな甘ったるい匂いが着香しているのはちょっと困る。ファブれば消えるけどね。



◆◇◆



満足がいったのか、調子出てきたとかつぶやきながら一千夏が顔を出す。


「ご苦労さん、まあ、色々あるわな」


「うっさい」


一千夏がうちにやって来たって事は、振られたか振ったか、とにかく男と別れたという事だ。


「うう、悲しいよお。付き合い始めはあんなにラブラブだったのに、どうして〈なんか思ってたのと違う〉みたく言われるの~?ずっと“私”じゃん、おかしいじゃん」


最初の男に振られた時に一千夏が大泣きで俺にそう訴えたが、猫かぶりが途中で解けたんだろうな。こいつは結構パキパキな性格なんだよ。お嬢でもなんでもないの。


二人目の時は、一千夏が途中で勝手に髪をショートボブにしたのが亀裂の原因らしい。

髪型は大事かもだが、別れる理由にはならんだろう。


「だって、ロングってめんどいんだよ。施術もショートだと安いし、普段が圧倒的に楽なの!」


「俺に言うなよ。まあ、その髪の長さのこだわりは確かにキモいな」


「でしょう、そう思うよねえ。だいだい、こっちのほうが全然かわいいし」


────────────────────


一千夏のたとえが古いですねー。

最近の漫画で言うと、


『トゥモローちゃんの水兵服』のヒロインを前髪ぱっつんにしてくださいませ(笑)

もっとも現在は、前下がりショートボブです。



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