第3話

「ああ。鈴音さん」とカケルが言っているところを見ると、この若く背の高い女は鈴音といって俺の先輩教師なのだろう。

「楽しみにしてますよ『新聞鈴音。』」

「ええ……新聞鈴音」鈴音さんはあまり喜ばないように、驚かずに、ゆっくり答えた。

 鈴音が去ったあと、俺は晴れ晴れとした顔のカケルにきいた。

「新聞鈴音ってなんですか」

 ぶつけたい気持ちだった。

「学級新聞」

 カケルは、(おやおどろいた! 新聞知らなかったのか)という顔をしたが、直ぐに納得した。

 しかし、俺は納得できなかった。慌てて後ろを向いたカケルに向かって、聞いた。

「学級新聞ですとっ? ここ塾ですよ」

 カケルは深呼吸した。「やめてもらっても結構ですが」

 嫌なところを突かれた。この夏に、冷房の効いてる塾から追い出される、だと?

 とうてい想像できなかった。


    *


 二回目の講座がはじまった。今回カケルさんからもらった暗号は「六月の2321463937」ヒントとして「重なっている数字は足せ。足して左からよめ」とい割れた。バーのカウンターのように中が見える受付で、俺は焦ったかった。


 俺は暗号を解いてみた。六月の異名は水無月だ。水無月をひらがなで書くと み なづきだ。少し強引だがみ、を3と読む。3がない、3がないのだ。

 こういうふうに読むと「(六月の)2(3)2146(3)9(3)7」

 俺は2214697——414697号室に入った。


「みなさ〜ん!!」

 受付より冷房のきいた部屋に入るなり、おれはそう叫んだ。

 八人の生徒。

「誰か休んだのか」

「あの——」言いにくそうに、13番の『アピール男子』〔と、俺は呼んでいた。〕、阿武あんのが答える。「35番のしえりさんとか、なんとか、あなた——誰でしたっけ、すみません」

「佐藤龍河」と俺は二度目の自己紹介をした。

「はい、……さとう、りゅうが」アピール男子・阿武はノートに、鉛筆の動きによるとひらがなで俺の名前を書きつけた。少し嬉しくなって、俺は続きを促した。

「その佐藤さんの著書を読みたいらしくて、休みを申請して……塾長に認可されました」

 なんと! この塾ではカケルのことを「塾長」というらしい。おかしくなって俺は笑いを堪えるのに必死になった。

「それでは、講義に入ろう」

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