第2話

「で……俺が、教えるってことでいいですよね」

 俺がきいた。

「塾の先生に選ばれたんだもの。教えない先生なんていませんよ」相良カケルが笑った。そりゃそうだ。

「でもなんで俺が……応募もしてないのに」

「佐藤さん、あの新人賞の後援よく読みましたか」

 げっ。

 読んでなかった。

「そのなかに、スグラスクールってありませんでしたか」

 なるほど。それがスグラ・ラーン・グループ【仮名】で、そのツテで俺が選ばれた、といいたいのだね、ワトソン君。

「スグラ・ラーン……かっこいいなぁ。寺子屋スグラとも考えたんですけど、そっちの方が良さそうだなぁ」翔がうなずく。

 というわけで、俺は明日から、小林秋音として四ツ谷に行くことになった。


    *


 翌日は午前八時に起きた。パソコンに手を伸ばしかけて、やめた。昨日いつもの三倍は書き散らかした。今日は塾に向かうことにした。

「何を教えるんですか」ビルに入って、対照的な涼しい空気が俺の全身が包むなり、俺はきいた。

「ええ、基本的になんでもアリですよ。R15なことを教えなければ」

「OK」俺はスパイのように渋い声で告げた。

「OK」アルバイトのような声が囁き返した。俺に電話で対応したのはこの男だろうか。


    *


「この人が今日からお世話になる秋音先生です!」翔が俺を紹介した。

「えーっ」といったっきりなにもいわない生徒。

「背が高ーい」「イケメーン」とほめてくれる女子。

「お兄ちゃんが小説で秋さんのこと話してました! ぼくも読みました。面白かったです!」と懸命に叫び続ける生徒。

 そのほか、「スゲー」などといろいろな声が飛び交う。スゲーって、それ肯定してんの、否定してんの?

 俺はとくに最後から二つ目の意見「面白かったですっ!」が嬉しかった。この生徒はやりがいがありそうだ。

 かくして俺の第一回講座がはじまった。

「おとなの原稿用紙は何×何の何マスかな」

 おとなの、というのは、こども原稿用紙というのをみたことがあった。20×10や20×20が一般的な長さなのだが、15×15なるものが売っていたのだ。

 俺は渋い顔をした。こんなんが売ってんのか! と。

 真っ先に手を挙げたのは、先ほど懸命に叫んでいた児童だ。

「5×60!」

「えっ」言葉にならない。15×15なら「惜しいなぁ」といってやれたのに。

「あたしわかる」冷静な声で、すねて不貞腐れている子供の隣の、紫髪のポニーテールがファンタジー小説のメイドのような背の高い女がいった。

「おっ、なにかな?」

「20×20」

「正解!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る