第11話 整理の時間1

前書き

9/4 第2話に発症時期の話を追加しました。ヨライネが「いつからですか」みたいな感じで質問してます。

海外の新学期って9月かららしいですよ。知ってましたか?

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「ところで、どうしてここに木があるって思ったんです?」


 二口目をかじった後、エドはご飯を飲み込んでから言った。


「んー、どうしてって言えるほどの根拠じゃないんだけどさ」


 ヨライネはおにぎりの具を見つめながら続ける。


「ジゼさんが言ったんだよ。エネスのお兄さんはもう魔術をやめてるって」

「やめてる、ですか」 ヨライネが強調した部分をエドは繰り返した。 「つまり、自身は魔術から離れておきながら、エネスさんの支援には労力をかけている、ということですか」

「そう」


 言って、見つめていたおにぎりを一口かじる。彼女はご飯を口に含んだまま続けた。


「熱が冷めたのか、嫌いになったのか、時間がないのか、原因はわからない。でもいずれにせよ、自分は魔術をやめているのにあれだけの熱量を妹の支援に注ぎ込んでるのは、ちょっと不自然じゃない?」

「なるほど、確かに不自然かもしれませんね。ちょっとですけど」


 そういう人なんだと言われれば、別に納得できなくもないレベルの違和感だ。


「まあうん、言いたいことはわかるけどさ、あくまで可能性の話ね」


 ヨライネは残ったおにぎりを一気に口に放り込んだ。発音をまともに聞き取れない状態で続ける。


「おにかくほれを聞いて、エネフちゃんのお兄さんはあの木の正体を知っていりゅんじゃないかなって、思ったわきぇよ」

「え、は?」


 唖然とするあまり、おにぎりをこぼしそうになるエド。


「ああごめん」 口の中のご飯を少し飲み込んで、 「エネスちゃんのお兄さんが、」

「いや聞こえてましたよ。お兄さんが知ってるっていうのはどういうことなのか、聞いたんです」


 エドが若干呆れて聞き返すので、ヨライネは「そういうことね」と言って補足する。


「罪滅ぼしみたいな気持ちで、本を送ってたのかなってこと。エネスちゃんが退学になった原因はあの木にあるんだろうし、もしお兄さんと木に関わりがあるんだったら、お兄さんに罪悪感があっても不思議では——」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「ん?」

「退学ってなんの話ですか?」


 エドはそんなの思ってもみなかった。今もエネスは魔術学校に通っているものだとばかり思っていた。


「え……? 話してなかったっけ。エネスちゃんが退学になった可能性」

「なんで話したと思ってるんですか?」


 ヨライネは次のおにぎりを持っていない方の手で、自身の額を抑えた。


「ごめん記憶力溶けてるみたい」

「まったく、冗談は顔だけにしてください」

「えっと、つまりね」


 ヨライネは自身の思考を細かく説明した。要約すると次のようになる。

 最初彼女は、エネスが魔術学校に通っていない可能性に気がついた。別に魔術師は魔術学校に通わねばならないわけではないのだが、エネスの場合は、通わなければおかしい。なにせ彼女は特任魔術師とかいう最難関の資格を目指しているのだから。

 ヨライネがそれを確信したのは、エネスに魔力についての質問をされた時だ。彼女の習熟度にもなって、今更『魔力とは何か』の段階でつまづいているのは、やはり独学でないとおかしい。

 そして、メルースト家ならば学費を払えないなんてことはあるまいし、家の名誉のことを考えても、難関魔術師学校に通わせる方が良い。エネスなら問題なく入れるだろう。

 故に、ヨライネの知る限りの情報では、魔術学校に行かない理由がない。ということはつまり、今エネスが学校に通っていない理由は、何かの間違いで入学試験に全て落ちたか、何かの間違いですぐに退学したかの二択になる。そして、エネスいわく木が現れ始めたのは九月下旬あたり。つまり、新学期が始まってから1ヶ月弱は経過している。何かの間違いというのがあの木のことだとするならば、入学後に魔術の異常が発覚して、評価が下がって退学。とすると辻褄が合うことになる。


「というわけだ」

「いやあ……」


 エドは微妙な反応だった。苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 当然ながらおにぎりは苦くない。

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