第10話 ご飯を食べるだけ

 平日ということもあって、周囲に人はいない。

 エドとヨライネは、広場にあった石のベンチに腰掛け、昼食をとる。

 エドはカバンから両手サイズの箱を取り出した。ヨライネが初めてみる構造の箱だった。どうやら、薄い木材を曲げて作られているらしい。

 その箱にヨライネは結構興味が湧いたが、エドがその蓋をとると、中身にはもっと興味が湧いた。


「なにこれ」

「『おにぎり』だそうです」


 箱の中には、大きな白米の塊が計4つ入っていた。


「おにぎり?」

「妹が最近、異国の文化にハマってましてね。今日ハイキングに行くことを話したら、『ぴったりなのがある』って言ってこれを作り始めたんです。おおかた、父さんの土産話で知ったんでしょうね」

「ふうん。すごいんだね妹さん」


 エドは家族への褒め言葉を気にも止めず、箱の中に入っているおにぎりを取り出そうとする。しかし、エドもそれをどう食べたらいいか知らないようで、次の一手に困っていた。盲目の彼は、不慣れな事にはとことん不慣れだ。


「まあまあ任せなさい」


 ヨライネがそう言って箱をひったくる。

 エドは口で「キュン」と言った。こういうところだ。ヨライネがエドを気遣わない理由は。

 ヨライネは無視して、箱の中に入っていた薄紙で『おにぎり』なるものを挟む。手に取ったそれを、ヨライネは、まじまじと見つめた。


「で、なんでこれが『ぴったり』なの?」

「さあ、わかんないです。道具があまり要らないからですかね」

「なるほどねえ」


 ヨライネは持っていたおにぎりをエドに差し出し、「はい」と言った。エドは手を出す代わりに口を開けてきたので、ヨライネは眉をひそめて、エドの口に丸ごと一個押し込んだ。むぐむぐ言いながら咀嚼するエド。

 彼には目も暮れず、ヨライネは自分の分を手に取った。 

 正直、ただの米の塊がそこまで美味しいとは思えなかったが、食わず嫌いはヨライネの研究者精神に反する。

 あまり深く考えず、とりあえず一口食べてみた。


「うま」


 どうやらただの白米の塊ではなかったようで、中に細かい白身魚の具が入っていた。


「確かに結構美味しいですね」 半分になったおにぎりを手に持って、エドが言う。

「ほらね、やっぱり食べてみないとわからないこともあるんだよ」

「何言ってるんですか?」

「……」

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