第6話 ポケット

 義母は作業着の下にエプロンをつけていました。


 暑がりなので、すぐ作業着の上を脱いで、エプロン姿になります。

 義母のエプロンのポケットには、いろんなものが入っていました。


 片方には携帯。もう片方には、作業中に、お腹が減るのでしょう。煎餅やキャラメルの類。たまに、コンビニで賞味期限切れのおにぎりとかも入っているときもありました。



 時々、モゾモゾ動いているので、

「何入れてるの?」

 と聞くと、

「え? 猫だよ」

 まだ生まれて2〜3ヶ月くらいの子猫を、可愛いからとポケットに入れていたりする。

「いや、そのサイズが可愛いからって持って帰るのやめてね(汗)」


 勿論、持って帰るようなことはありませんでしたが。


 義母は、牛舎猫も可愛がるので、猫がめちゃめちゃなついておりました。



 ある日のこと。

 

 義母と外で立ち話をしていると、一匹の猫が、義母に向かって、ニャオンとねだるように鳴きます。

「こんなとこで、ニャオン言われても何もないよ」

 と、手をひらひらする義母と私。

 すると、義母が気付いたように、

「あ。あるわ」

 と一言いったと思ったら、やおら、ポケットの中から動かなくなった「雀」を出して、猫にやりました。猫、大喜びで、咥えて去って行きました。


「ま、待って? ポケットから雀出した人初めて見たんだけど(汗)」

 手品師か?! いや、あれは鳩。しかも生きてるやつな。


「いやね、今朝家の前の道路から、門のとこ入ってくるときにさあ、ちょっとスピードが出てたのか、雀が二つ、パンパンって当たったから、外出てみたらさあ、まだ生きてたから、キュッと……」

「キュッとしない!」

 ってか、雀2羽もねる速度で曲がって入ってくるのやめて(泣)。


「放っといたらカラスにやられるのも勿体ないじゃない? だから、一つは、その辺にいた猫にやったんだけど、他にいなかったからさあ。あとでいいか、と思ってポケット入れといたのさ」


 雀の死骸をポケットに入れておくという神経が私にはわかりかねます、お義母様。

 そこ、普段、ご飯とかおやつとか入れてるとこですよね(汗)。まあ、時々子猫も入ってるけど。

 そこに、とれたての新鮮な雀。

 

 もう、目眩がしそうです。



 義母のエプロンのポケットからは、何でも出てきます。

 ど○でもドアとかも出てきたかもしれませんね(笑)。 

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