第9話 盛る

 悪気があってつくようなものはありませんでしたが、義母はしょっちゅう可愛い嘘をついていました。


「お義母さん、今どこにいるの?」

「今? ハワイだよ?」

 くらいの(笑)。


 代わりに買い物に行ってもらった時なども、

「ごめんねえ、幾らした?」

「100万円」

「……」


 まあ、お金のことは、この冗談のせいで、義母の入院後、義妹にあらぬ疑いをかけられ、一揉めあったので、冗談もほどほどにしないとな、という教訓にはなりましたが。

 ま、それは置いといて。



 ここに引っ越してきた頃は3月の終わりで、雪解けが進んで、タンポポが沢山沢山花を咲かせていました。

 私は、義母に尋ねます。

「こんな沢山タンポポ咲くんだねえ。綺麗〜」

「そうかい。植えたんだよ」

「そうなんだ〜」


 後で夫に言うと笑われました。

「植えるわけないでしょ。増えて困ってるのに。何、だまされてるの(笑)」


「土筆、多いねえ」

「植えてるの」

「もう騙されません」

「あはははは」



 そして、義母の場合、自分がちょっとだけ盛った作り話を、自分で信じ込んでしまう、という悪癖(?)があるのです。


 結婚前に、義母は夫に連れられて、

「お嬢さんを僕にください!」

 しに来ました(笑)。

 実際は言ってないし、父から、

「おー、こんなんでよかったら、やるやる。持っていんでくれ。」

 と言われ、とっとと実家から放り出されたバツイチ39歳の可愛い娘でしたが。


 そんなことはどうでもよくて(笑)。


 義母はその時、一緒にスーパーに買い物に行きました。やはり、北海道とは売っているものが違うので、義母、興味津々でした。

「いやあ、鯵ってこんな安いのかい!」

「あらあ、鮭もある。上手に薄く切ったねえ」(悪口・笑)

「うわあ、北海道のジャガイモだって、ほら〜、ちっちゃくて青いねえ」(悪口・笑)

 などと、ワイワイ言いながら楽しんでおりました。



 そして、結婚した数年後、

「あの時にさあ、『北海道のジャガイモですよ』って売ってたおじさんに、『そんなわけないでしょ。私ら北海道から来てるんだからわかるんだからね』って言ったら顔色が変わってさ〜。だって、あんな青い芋、作ってるわけないじゃない。」 

 と言い出す義母様。

 いや、義母様、ジャガイモ、明るい所で保存すると、青くなりますよ?(^_^;) ついでに言えば、スーパーで、ジャガイモ売り場にだけいる専門業者はいませんし。


 そう、ジャガイモは、明るいところで保存すると、緑色の部分が増えて、硬く、煮ても柔らかくならなくなるんですよね。なので、ジャガイモ農家では、紙の袋に入れるか、段ボール箱に入れて(芋が呼吸できるように)、暗くて風通しの良い所に保存します。(前に小烏さんに冷蔵庫に入れて下さいって言いましたが、冷蔵庫には入れなくて良いそうです。風通しのよい、涼しい所で、とのことでした)


 

 で、これが数年後には、

「あの時さあ、『これ北海道産じゃないでしょ? 私北海道から来てるからわかるんだよ』って言ったらさ、裏につれていかれて、『いや、言わないでくださいよ』って、『これ、少ないですけど』ってお金握らされたんだよ」

 に、なっておりました。

 義母様、それは絶対にありません(笑)。

 何故なら、あなたは終始私たちと一緒にいたし、バックヤードに連れ込まれたのも見てないし、そもそも、そのジャガイモ、北海道産で間違いないから(笑)。


 北海道で食べる「みかん」が美味しくないのと一緒で、北海道から香川まで送られる中で、そして販売時に光をたくさん当てられるせいもあって、どうしても品質は下がるわけですよ。ジャガイモ買う時は、是非、段ボール保存してあるものか、思いっ切り土付きのを購入すると良いですよ。


 

 さて、義母様の問題。

 義母は、こうやって、自分が前に「盛った」ことを事実と思い込む悪癖がありまして(汗)、それを言う度に盛られていくものだから、結果的に、「絶対嘘やろ」という話になってしまうのですよね。

 多分、これを、どこでも誰にでも聞かせているに違いない。

 義母の周りの人は、「嫁の郷里では産地を偽ったジャガイモが売られている」と思っているかもしれません(汗)。



 他にも、

「もうね、病院で真っ黒いのがいたからね、びっくりして看護師さんに『熊だよ! 熊がいる!』って言ったらさ、『どこにいるの?』って言われてよく見たら、背の高いデブな女の人が黒い服をきてただけだったの」

 とか言ってましたけど、最初は、

「体格の良い女の人が黒い服きてて、熊みたいだった」

 という話でしたから(笑)。


 盛るなよ。

 自分で盛ったの忘れて更に盛るな。


 同じ話を聞く度に、「同じじゃなくなってる」ことに、頭を抱える嫁なのでした。

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