第2話 真実
「ルーカス、リニ、俺のワガママに付き合わせてしまってすまない」
アレクシスは、泣きそうなのを堪えながら頭を地面に擦り付けた。
「やめろ、アレクシス。1番辛いのはお前だろう?」
どうして3人ともが辛そうな顔をしているのか、私には理解出来なかった。
私が邪魔だから追放したんじゃなかったの?それとも、私の知らない何かが3人にあったんだろうか。
「そうよ、それにこれは私達も望んた事。半年前のあの日に、とっくに覚悟してきたわよ」
半年前…?一体何の事?
私のその疑問に答えるように、聖剣の映す景色は、追放のあの日から映り変わる。
―――
場所はどこかの酒場のようだった。私の知らない場所だけど…雰囲気から言って多分帝国北西領の辺りかな。私の知らない間に3人で集まっていたのだろうか。
「こんな時間に呼び出してしまってすまない」
アレクシスが真面目くさった顔で謝罪する。
「気にするな。それにお前のおごりなんだろ?」
ルーカスがそれにおどけたように返すと、リニは呆れたように続けた。
「ルーカスはタダ酒飲めて嬉しいでしょうけど…まぁいいわ。わざわざアタシとルーカスだけ呼ぶなんて、まさかユナにそろそろ告白しようって話かしら?」
それに対してアレクシスは赤面しながら慌てる。
「ちっ違う違う!そういうんじゃくてさ…どちらかと言えばその反対と言うか」
しかしその表情は、すぐに固く暗い最初のものへと戻る。
「何?はっきり言いなさいよ。」
「……ユナを、追放しようと思う」
「……」
「……アレクシス、お前正気か?」
ルーカスが睨みつけるかのようにアレクシスを見つめる。
それに対し、アレクシスは全く引かないで目を見つめ返した。
「ユナの支援魔法は俺達の切り札だ。」
「…そうよ、私だって支援魔法は使えるけど、ほんの少しの強化倍率の差が生死を分けるなんてのは良くあることなのを、アンタなら分かってるはずでしょ?」
リニもルーカスも私の支援魔法の有用性をちゃんと理解しているようだった。
「あぁ。勿論分かってるさ。ユナの魔法のおかげで俺達は何度も助けられてきた。俺達4人の内誰か1人でも欠けていれば、この冒険はもっと早く終わっていたはずだ。」
「なら――」
「僕達じゃ魔王には勝てない」
その言葉にリニとルーカスは黙り込む。
「………それは一体どういう意味だ?」
「文字通りの意味さ。僕ら4人が力を合わせたって魔王には敵わない」
「アンタ、本気で言ってるの?戦う前からそんなこと言うなんてアンタらしくない」
「…すまない、でもこれは事実なんだ。僕らの力では、奇跡が起ころうと万に一つも勝ち目は無い」
アレクシスのそのいつになく真剣な表情に、リニも黙り込んでしまう。
「ルーカス、勇者が…僕が死ぬと聖剣はどうなるか知っているかい?」
「…次代の勇者に引き継がれる」
「そうさ。そして、僕の力も次の勇者へ引き継がれるんだ。だから次の勇者なら、確実に魔王を倒せるはずなんだ」
まさか、アレクシス達は死のうとしていた?
「そして次の勇者に聖剣を引き継がせる為には、魔王に傷を与え時間を稼ぐ必要がある。」
「まさか…」
「そうさ。リニ、ルーカス。僕と一緒に死んでくれ。世界を救うには僕だけの命じゃ足りない。君達の命もいるんだ」
「…つまり追放ってのはユナを生かすためって訳?」
「…あぁ。そうさ。これは僕のわがままだ。彼女がいなくても次の勇者が聖剣を引き継ぐだけの時間は稼げる」
「フッいいぜ、俺の命はお前にやるよ。だが高くつくぜ?」
「あぁ。勿論…」
「じゃあ早速…おーい!おっちゃん!この店で1番高い酒くれよ!」
「おっおい!」
「そうね。アタシ達の命を買おうってんなら安いもんでしょ?おじさん!アタシには1番高い料理頂戴!」
「……はは、ありがとう。2人とも」
泣き笑いを浮かべるアレクシスを最後に、場面が移り変わる。
―――
次々に移り変わる景色には、表では私に辛く当たりながらも、裏では私を心配し、私を傷付ける事を深く後悔する3人の姿だった。
「アレクシス、辛いならもうやめたら?正直に話して、パーティを抜けてもらう事だって…」
リニがそう提案するも、アレクシスはそれをひと蹴りする。
「いや、それじゃダメなんだ。ユナはきっと僕たちを引き留めようとするし…そんなことを言って僕達が死んでしまえば、彼女はきっと一生後悔を背負っていく事になる。あと半年しかないけど、彼女が悲しまないように僕らは徹底的に嫌われる必要があるんだ。」
「はぁ、アレクシス。お前は本当にユナが好きなんだな」
ルーカスが茶化すように話すと、アレクシスは顔を真っ赤にする。
「そっそれは関係ないだろ…!」
―――
「君達にも辛い思いをさせてすまない。これは全部僕のワガママだと言うのに。」
「今更何言ってんのよ。1番辛いのはアンタでしょ?好きな人に嫌われようだなんて…ほんとバカよ…アンタ…」
―――
「良かったのか?リニ。お前もアレクシスの事、好きだったんだろ?」
「いーのよ、別に。あれだけユナ一直線なの見てたら諦めもつくってもんよ」
「そうか、じゃあその涙はなんだ?」
「っうるさいわね!」
―――
「ルーカス」
「ん?アレクシスか。なんだ?」
「…家族に手紙は出さなくて良いのか?」
「いいんだよ。あいつらには残せるだけのもんは残してきたつもりだ。世界を救う英雄になるってのに、かっこ悪い手紙書けるかよ。今手紙なんか書こうもんなら、泣き言だらけになっちまいそうだからな!ガハハ!」
―――
そして時間は進み、私が追放された後へ場面が変わる。
「最後に謝罪させてくれ。君達を僕の最後に巻き込んでしまったことを…すま――」
「バーーカ!」
「はぁ…」
ルーカスはため息をつき、リニはぷんぷんと怒りを露わにしていた。
「おい、アレクシス。こういう時、謝罪ではなく言うべき事があるんじゃないのか?」
「…!確かにそうだった…すまない。ありがとう。」
「アンタほんとバカね!結局またあやまってるじゃない」
「フッまぁこれも俺達らしくていいか…」
次の日に備えるために、3人は順番に眠りに着いた。
交代に見張り番をする3人が、焚き火を見つめながら考えるのは同じ相手、4人目の仲間であるユナの事であった。
戦士アレクシスは、妹のような、娘のような仲間の事を想う。
「…ユナ、元気でいろよ。まぁ、あれだけお転婆なあいつの事だ。言われなくたって達者でやるか…」
魔術師リニは、恋敵でありながら、親友のように思う相手の事を考える。
「ユナ、いっぱい傷付けてごめんね…許してくれなくても良いから、ユナはきっと長生きしてね」
勇者アレクシスは、最愛の人への言葉を紡ぐ。
「ユナ、愛しているよ。君の生きる世界の為なら。僕はなんだって出来る気がするんだ…」
夜が明け、灰色の空が姿を現した。
パラパラと雨が降り注ぐ曇天の空は、まるで泣いているかのようだった。
―――
聖剣が光を失い、徐々に過去の景色が消えていく。
聖剣が倒した相手の力を振るう事が出来るのは、あくまで一時的なもの。
時を操る魔王の力は、既に聖剣の中から消えようとしていた。
「……ほんとに、ばかだよ、3人とも」
ポロポロと私の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「生きてて欲しいから、苦しんで欲しくないから嫌われるなんて、不器用すぎない…?」
「私きっと幸せになるよ…」
ユナの姿を見届けた3人の亡骸は、まるで砂のように崩れて消えた。
優しい追放 わんこそば @wanko2092
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