第43話

「はい?」


足を止めて、俺が来るのを待つ蒼夜。


「その格好で行っても、また死亡するよ。」


「あうっ!」


「予備の武器防具は?」


「無いです・・・・・」


「そっか・・・・」


《まぁ、別に初心者用の武器防具を買ってやっても良いけど。どうするかね、この状況。》


「えっと・・・・・」


「はいはい。手伝うから安心して。」


「良いんですか?」


「武器防具はノーマル?HQハイクオリティー?」


HQハイクオリティーです・・・」


《うん。HQ品なら無くしたら泣くな・・・》



HQとはハイクオリティーの略で、普通のノーマルクオリティーの武器防具よりも性能が高い品物の事だ。


ハッキリ言って、かなり高い。


「パーティー飛ばすから、組んでいかない?それなら最悪、俺が荷物を拾えるから。」


「お願いします。」


再び頭を下げる蒼夜くん。


自分にしか見えない、ウィンドウを開いて。パーティーの申請を蒼夜に送る。


蒼夜は申請が来ると、即座に了承を押した。


「自分が持ってた、荷物は覚えてるよね?」


「ある程度なら覚えています。」


「なら、問題ないな。行こうか。」


そう言って、俺はデスパに向かって駆け出す。



蒼夜も俺の後ろに着いてくる。


死亡して、死体が残った場合。



死体は時間の経過と共に消えて消失ロストする。


ロストすれば、死体の中に残ったアイテムも消えてなくなる。


死体がロストするまでの時間は現実の時間で、およそ30分。


蒼夜が死亡してから、既に15分が経過しているはず。



デスパまで5分は掛かる。


そうなると、残りの時間は10分足らず。


蒼夜そうやくん。俺が先行するから、君は絶対に、俺の前には出ないように。良いね?」


「はい。イクルさんの職業ジョブってなんですか?」


「俺は、吟遊詩人バードだよ。」


「えっ!大丈夫なんですか?」


まぁ、当然の反応だな。吟遊詩人バードの戦い方を知らない人にとっては。




吟遊詩人バードなんて、ただ街中で歌って、音楽を奏でるイメージしかないからな。


「まぁ、見てて。面白ことを見せてあげるから。」


俺は、思わずニヤリと表現されそうな笑みを浮かべた。



デスパに辿りついた俺たち。


入口からダンジョン内部に入ると。


少し離れた所にドレイクが5匹居る。



今は、戦闘している時間がないので、そのまま素通りする。


後ろから、蒼夜くんが来てるのを確認しながら。


だだっ広いだけのダンジョン。



通過した先に、違うドレイクの5匹が俺たちと視線が合う。


ドレイクのターゲットが、俺と蒼夜くんにロックオンされる。


身構える蒼夜くんだが、武器も防具も無い状態で、中級モンスターのドレイクを相手にするのは無理だ。


俺は素早く竪琴を奏でて、スキル平和ピースを発動する。


すると、俺たちにターゲットしていたドレイク5匹が動きを止める。


「急いで!」


「あ・・・・はい!」


俺の言葉に、蒼夜くんが返事を返して、視線を彷徨わせるドレイクの横を通過しようとした時に。


再び、ドレイク達の視線が俺たちに向けられる。


俺は慌てずに、竪琴を奏でて平和ピースを発動。


その間に、ドレイク達の横を通過する。



通過の際に、二度ほど平和ピースを奏でる。


その後も、平和ピースを何度も奏でながら、蒼夜くんの死体が在る場所まで辿りついた。

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