第36話

柳川やながわ 宏司ひろし。」


加奈かなが、1人の男性の名前を声に出す。


彩子あやこは、その名前に肩をピクンと震わせる。


「中学2年の時。


私は彼を庇って、彼の代わりに虐めの対象にされた。


柳川くんは、虐めの対象が私に移って、自分が虐めの対象から外れた事を知って、自分が再び虐めの対象にされるのが嫌で、柳川君も私を虐めるようになった。


私はクラスの人から、数々の嫌がらせを受けた。


柳川君と彩子だけは、直接は私に何もしなかったけど、私のことを無視し続けた。


彩子……。


なんで…なんで……あの時。 手を差し伸べてくれなかったの?」


顔を伏せて、呟くように言葉を漏らす加奈。


「あぁ……うぅ……。」


加奈の言葉に、声にならない声を出す彩子。


漂う静寂。


「なぁ~~んてね。


なんて言う事を、私が言うと思ったのか!


バカ彩子!」


伏せていた、顔を上げた加奈の表情は笑っていた。


一瞬、何がどうなっているのか分からずに、彩子の表情がポカンとなる。


「よく聞きなさいよ!


私は私の意思で、自分の正しいと思ったことをしたんだ!


彩子が、私を無視したのも気にしていなければ。


彩子が助けてくれなかったなんて事は、ミジンコ程にも思っていない!


もし悪いと思ってんなら、今後一切!


虐めに加担するなっ!


分かったか! バカ彩子!」


言ってる言葉は汚いが、加奈の気持ちは彩子に伝わっていた。


「うん……うん……。」


彩子は涙を流しながら、頷くしかできなかった。


 * * * 時は流れて * * *


現在18時40分。


カラオケボックスを出た2人は。


その後、色々と遊びまわり、JR和歌山駅中央口の前にいる。


夕食も2人で食べて、楽しい時間を過ごした。


「彩子。」


「うん?」



「彩子も、USOやってるんだって?」



「うん。」


「私も、USOプレイしてんだよ。」


「ホント!?」


「うん。」


「じゃ、一緒に遊べるね!」


「無理。」


彩子の期待を、スッパリと切る加奈。


「だって、私ツヴァイ鯖だよ。 叔父さんから聞いたけど。 彩子、フィーア鯖なんでしょ。」


「だったら! 作り直すから! 私もツヴァイ鯖に!」


少し興奮気味に、彩子が言うと。


「なに? 彩子のフィーア鯖に居るフレンドって、その程度の人なの?」


若干、怒り気味に加奈が言う。


「私と遊びたいが為に、サッサと、ツヴァイ鯖に移行できる程度のフレンドなんだぁ。」


「っ!」


加奈の、追い打ちの言葉に反論出来ないでいる彩子。


「次に新しいフレンドが出来て、そのフレンドと仲良くなったら。


私とも、縁を切れる程度の友達と言うのが彩子の友達なんだね。」


わざと、意地悪く言う加奈。


「ちがうっ!」


加奈とも、一緒に遊びたい。


でも、確かに加奈の言う通りに。


フィーア鯖でのフレンド達も大切なのも確かだ。


ダンさんに、ガーランド。


ラクスに、水無月。


出逢って、まだ日は浅いけど、USOで遊んだ時間は本物だ。


「はい。 これ。」


そう言って、加奈が彩子に1枚の紙切れを渡す。


そこには、加奈の電話番号と、メールアドレスが書かれていた。

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