第35話

 * * * 数日後 * * *


午前10時過ぎ。


あやは、JR和歌山駅の中央出口に居る。


駅の前に立つあやの方に、男性と女性が向かって来る。


男性の方は見た目20代前半くらいで、女性の方は15~6歳と言ったところだろう。


2人はあやの前で立ち止まる。



「初めまして。


加奈かなの叔父で【小鳥遊たかなし 生来イクル】と申します。


姪が、お世話に為っております。」


男性は、あやに向かって、お辞儀をする。


「あっ! いえっ! じゃなくて!


初めまして、【片桐かたぎり 彩子あやこ】と言います。


加奈かなちゃんとは、仲良くさせていただいています。」


かなり慌てながらも、あや加奈かなの叔父に挨拶をする。


「それじゃあ、加奈かな


俺は仕事が有るから。


終わるのは、18時くらいだから。


19時には、此処で待ち合わせで良いか?」


「うん。 叔父さん、ありがとね。」


「晩飯は、どうする?」


男性の言葉に、加奈が彩の方に視線を向ける。


男性は、加奈の言いたい事が解ったのか。


スーツの内ポケットから財布を出すと、加奈に2万円を渡す。


「友達と一緒に済ませろ。 じゃな。」


そう言って、軽く右手を振り、タクシー乗り場の奥に止めてあった車に乗って行ってしまった。


彩子あやこ。 久しぶり。」


叔父の乗った車が、見えなくなるのを確認して。


加奈かなが彩子に、笑顔で言葉をかけた。


「加奈ちゃん……。」


先程までは、加奈の叔父の挨拶にテンパっていて。加奈に再開した、現実味がなかったせいで何とも無かったのだが。


「加奈ちゃん! 加奈ちゃん!」


彩子は、大声を出しながら、加奈に抱きついて泣き出してしまった。


「えっとぉ……。」


泣きながら自分に抱き着く彩子を、どうしたら良いものか解らずに、取り敢えず加奈が彩子の頭に手を置いて優しくなでる。


20秒ほど時間が過ぎる。


「ヒグ…ヒグ…。」


「えっとぉ~、彩子さん。 そろそろ、良いかな?


周囲の視線が痛いんですけどぉ。」


そろそろ、加奈のMP精神が削られて、限界値を超えてマイナスに入ってきたのか。


加奈が、彩子を引き剥がしに入る。


が、彩子は加奈から離れようとしない。


「彩子さん。 いい加減に離してください。 さすがに、ハズいっ!」


「ヤダ……。」


「離せ!」


「やだ!」


「は~な~せ~!」


「やだっ!」


などと言う漫才モドキが数秒続いた。



 * * * 場所は変わって * * *



あの後、2分ほど。


漫才モドキの行為を繰り返して、ようやく彩子も落ち着きを取り戻し。


今は駅前の近所に在る、カラオケボックス。


なんで、ファミレスや喫茶店にしなかったと言えば。


また、彩子が暴走して泣き出すと困ると判断したからだ。


それに、ここなら多少の大声を上げてもカラオケボックスなので、曲を流せば他の人の迷惑にならないからだ。


「さっきはゴメン……。」


彩子が、加奈に向かって謝る。


「反省してるならOK。」


テーブルに置かれた、コーラを飲みながら加奈が言う。


沈黙が続く。


加奈にキチンと謝りたいのに、加奈を目の前にすると何も言えなくなる彩子。


その時、急に演奏が流れ出す。


どうやら、加奈が選曲を入れたようだ。


「幸せは 歩いて……」


それは、レトロソングと言われる曲で。


昭和と呼ばれた時代の曲だった。


「彩子も歌いなよ。」


加奈が歌い終わって、彩子に選曲を入れるデバイスを向けながら言う。


「なんで、レトロソングなのよ。」


加奈の顔を見ながら彩子が尋ねる。


「ん~、さっき叔父さんが、車の中で歌ってたから?


なんか、聞いてて、良い歌だなぁ~って思ったから?」


「何で疑問形なのよ……。」


そして、またもや沈黙が訪れる。

 

「彩子。 私は気にしていないからね。」


沈黙を破って、先に声を出したのは加奈の方だった。


彩子が黙ったまま、加奈を見つめる。


「彩子が、給食で出された私のプリンを食べちゃった事?」


「そっちじゃなぁ~~いっ!」


顔を真っ赤にし、肩をプルプル震わせながら彩子が叫ぶように声を出す。


「もう! なんで加奈は、いつもそうなのよっ!


怒ってくれた方が、どれだけ気が楽になるかっ!


責めてくれた方が、どれだけ気が楽になるのかっ!」


涙目になりながら、彩子が加奈を睨むように見詰める。

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