第32話

理由は、虐められてクラスから孤立していた男子生徒を庇った事。


それだけの理由で、虐めの対象が、虐められていた男性生徒から加奈に移ってしまった。


虐めの対象だった男性生徒は、自分が虐めの対象から外れて、再び虐めの対象に為るのが怖ったのだろう。


今まで虐められて居たのにも関わらず。


今度は虐める側に回って、自分を庇ってくれてた加奈を虐めの対象にしてしまった。


男子生徒にも罪悪感はあったのだろう。


直接的には、加奈に干渉をしなかったが。


加奈に関わらないと言う形で、加奈の事を無視し続けた。


彩は、ここまで話すと。


少しの間を置いて、3人の顔を見る。


ダン、ガーランド、水無月の表情は。


何となくだが、彩の話の先を理解している様な表情だった。


「私ね……。 彼女の事を、庇えなかったの……。」


そう言ってあやは拳をギュっと握り締める。


「加奈を庇って、今度は自分が虐めの対象に為るんじゃないかって怖くて、加奈の事を庇えなかったの……。」


顔をシワクチャにして、涙を流しながら彩が言う。


「私……。最低だ……。」


ダン、ガーランド、水無月の3人は、黙って彩を見ている。


慰める訳でもなく、優しい言葉をかける訳でもなく、責める訳でもない。


ただ、黙って彩を見ていた。


「幼馴染だったのに……。


親友だった筈なのに……。


私……。わたし……。


加奈に、何もしてあげなかった!」


堰を切ったかの様に、彩が声を上げて泣きじゃくる。


「加奈さんは、どうしてるの?」


水無月が、彩に聞くと。


「ヒック……。転校していった……。2学期の期末テスト前に……。」


3人は内心、虐めを知った親が転校する事で、虐めの対象から加奈を護ろうとしたのかと思った。


「スン…。ヒッック……。 親の仕事の都合だって言ってた。 ヒック……。」


どうやら、違ったようだ。


「最後に……。最初に虐められていた男性生徒の子が……。


加奈に何かを言ってた……。


多分、加奈の転校の事を知って謝って居たんだと思う……。


加奈は笑って、その子に何かを言ってた。」


ようやく、感情の昂ぶりが落ち着き出してきたのか。


あやが泣くのを止めていた。


目の周りは真っ赤に腫れ上がり、せっかくの美人が台無しの顔に為っていたが。


「彩……。」


水無月が、何かを言うとした時。


ダンが、水無月の前に手を出して首を振り言葉を止める。


そして、手にしたコーヒーを、一口飲むとあやに語りかけた。


「彩は後悔してるんだな?」


「ズズ……。」


ダンの言葉に、彩が鼻水をすすりながらも頷いてみせる。


「まぁ、俺も。 偉そうに言える立場じゃないけどな。


一応、この中じゃ、1番の年長者だ。


だから、年長者の意見として言わせて貰うが。」


そう言って、少しだけ表情を厳しくして彩を見るダン。


「彩は【どうしたい】んだ?」


ダンの言葉の意味が分からずに、彩の動きが一瞬止まる。

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