第29話

あやの出した、転移門ゲートを出ると、首都フィーアの南門の前だった。


ダンさんは、基本的に人の少ないフィーア南の鍛冶屋に居るのが多い。


カン! カン!カン!。


っと、金槌が打ち付けられる音が聞こえる。


「修理か?」


ダンさんが、私たち3人を見て言う。



「お話があるんです。」


水無月が笑顔でダンに向かって言う。


水無月の言葉に、ダンが首を傾げる。



SWORDソードONーLINEオンラインクロスで。


生来イクルさんと言うプレイヤーを知っていますよね?」


水無月の言葉に、ダンの表情が一瞬だが強ばった。


「宿の、俺の部屋に行こうか。 話が長くなりそうだしな。」


そう言って、ダンは席を立ち。


鍛冶道具をストレージに仕舞うと、宿のある方へと向かって歩き出した。



宿に着くと、ダンはテーブルの上に飲み物とクッキーを置く。


ダンの正面に水無月が座り。


その右側に、ガーランドと彩が座る。


「一応、先に言っておくが。


現実世界リアルでの、アイツ(生来:イクル)の情報は教えんぞ。


ネット・マナーに反するからな。」


「はい。」


水無月が返事を返し、ガーランドと彩も頷き同意する。

 

「で、アイツの何を聞きたい?」


カップに入った、コーヒーを口に含みながらダンが聞く。


生来イクルさんは、ダンさんの血盟に所属していたと聞いてます。


生来イクルさんも、USOをプレイしているんですよね?」


水無月が、目を輝かせながらダンに尋ねる。


「プレイしているよ。 どこのサーバーかは聞かされていないけどね。」


「フィーアには居ないんですか?」


水無月が残念そうに、顔を伏せながら言うと黙り込んでしまった。


沈黙が部屋の中に流れて、何とも言えない気まずい空気が漂う。


ダン、ガーランド、彩の3人が、どうにかして空気の流れを変えようとした時だった。


生来イクルさんには、SWORDソードONーLINEオンラインクロスの頃に、大変お世話になったんです。


初心者だったを私に、色々とSOXソックスの知識を教えてくれて。


使わないと言って、沢山のアイテムや、初心者の私には勿体無いくらいの武器防具をくれたんです。」


「奴らしいな。」


そう言って、ダンがクスクス笑う。


「何か、噂と違って。良い人っぽいな。」


と、ガーランド。


「ホントね。 噂だと、悪評しか聞こえてこないけど。」


彩も、意外だと言わんばかりの表情で水無月みなづきを見る。


「何かと、アイツは誤解されるからな。


根は、お人好しで、優しくて、周囲に気を配れる奴だ。」


ダンが頬を掻きながら言う。


「もし、会えるなら。 会って、お礼を言いたい。


あの時に、生来イクルさんに出会っていなければ。


私はSOXソックスを辞めていかも知れないし。


オンラインゲームの楽しさを知らないまま、オンラインゲームをプレイしないようになっていたかも知れない。」


そう言って、ダンを見る水無月。

 

「アイツは、自分の出来る範囲を知っているだけだ。


自分の、目に付いた人には手を差し伸べるが。


自分の、目の届かない所や、自分に関係のない事には興味を示さない。


ただ、それだけの事さ。


多分、水無月みなづき以外の、初心者プレイヤーも、奴に世話になっていると思うぞ。」


他人の事なのに、嬉しそうな表情で言葉を返すダン。


「噂で聞いただけだと。


我が儘で、自由気まま。


怒りっぽくて、気に入らない奴には、トコトン嫌がらせやPKプレイヤーキラーをする。


ってのが、俺が聞いた噂だ。」


「私も、概ね同じような内容ね。」


ガーランドの発言にあやも頷く。


「我が儘なのと、自由気まま。 ってのは、当たっているな。


アイツは、気分と感性だけで動くからなぁ。」


笑いながらダンが言う。


「他の噂に関しては違うの?」


あやが尋ねると。


「全くの嘘だ。 そもそも、アイツは自分の方から手を出したりしない。


大体にして、その噂は誰から聞いた?」


SOXソックスの公式サイトの雑談板だけど。」


ダンの質問に答えるガーランド。


「多分、書き込んだ奴は、イクルに殺られたプレイヤーだろうな。」


「あぁ~、ホントにヤってたんだ。」


ダンの言葉に、彩が納得気味な言葉を返す。

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