第7話国王の初恋1
一目見て欲しいと思った。
花嫁一行の中にいる彼女を。
容貌は至って平凡だったが、青い髪は海を連想させた。
ファブラ王国は内陸国がある。
海がないわけではないが、南方に行かなければ見えない。
殆ど国民には馴染みがない代物だ。
海を見たことのない者も多い。
それ故か、海は遠い憧れだ。
そんな海を思わせる青い髪を、彼女は持っていた。
次に目を引いたのは「虹色の瞳」だった。
雨上がりの空に掛かるあの美しい虹を思い起こさせた。
珍しい。
虹色の瞳はカルーニャ王族でしか持ち得ないと聞く。
古い大陸の文献にもそう書かれていた。
遥か昔の御伽噺。
天上の神が地上の乙女を見初め、妻にした。
二人の間に生まれた娘は地上の王に嫁いだ。
神は祝福として「虹色の瞳」を地上の王と娘の間に生まれた子供達に与えた。
虹色の瞳を持つ娘は、天上の神に愛された証。
神の血を引く子供達は王国を建国した。
今はもう御伽噺になるほど古い話しだ。
かつて存在した国はない。
滅びた。
その滅びた国の末裔がカルーニャ王族だと――
『カルーニャ王国が水害に悩む理由は天からの啓示です』
宗教家は挙ってそう称している。
火の無い所に煙は立たず、だろうか。
カルーニャ王国は内陸も内陸。
ファブラ王国と違って海がない。
海がなくても、運河が張り巡らされた中央国家。
水不足に困ることはない。
だが、ひとたび嵐や水害に遭えば、甚大な被害を及ぼすことになる。
カルーニャ王国はファブラ王国より内陸にある。また地形も山が多い。
海から吹く潮風が山の間で湿気を帯び、それが大雨を降らせる。
雨は川となり海へと流れ行く。
降った雨の量が多ければ海では雨水となり、増えた海水量は山のどこかに出口を求めて滝として溢れ落ちる。
普段は雨が降る度に沁み出て国土を潤してくれる嬉しい自然の恵みだが、嵐が来くたびに大災害となっていた。
彼の国は、治水技術が遅れている。明確な治水の方針さえままならない状況だ。
そんなカルーニャ王国だが、近年では天気の移り変わりが激しい。
ファブラ王国との同盟を求めたのは、治水技術と安定的に得られなくなった食料を得たいがためだ。
こちらとしてもカルーニャ王国の安定は願ってもない。
地理的問題もある。
カルーニャ王国の王女との縁組はそう悪いものではなかった。
嫁いでくるのが幼い王女というのも考えようによったらちょうど良い。
後宮の主は王妃だ。
だが幼い王女が真の主となるには時間がある。
その間に側妃を数名娶り、後宮を掌握すればいい。
幸いにも、側妃候補はいる。
王妃が嫁いでくる前に、候補となりそうな娘の内、優秀と思われる数人を懐柔した。
そうしておいて後宮を整えた。
血筋が良くて家柄の良い娘であれば、自ずと権力基盤を確立させるはずだ。後宮の影の支配者として君臨するだろうし、他国の王妃を上手くあしらえる。
効率よく後宮を運営してくれるだろう。
そう、思っていたのだが。
何事も思い通りにはならないものだ。
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