第27話 変化と始まり


 体育祭から数日が経ち。

 

「ねぇ良介。今日の放課後空いてない? 実は二人で行きたいところがあるんだけど」


「良介くん! 実は美味しいケーキ屋さんを見つけてね! 割引券もらったから一緒にどうかなって思うんだけど……」


「えっと……とりあえず離れてもらえる?」


 俺の両腕にそれぞれ抱き着き、密着してくる一ノ瀬と花野井。

 俺が言うと、さらに腕をぎゅっと締め付けてきた。


「良介がすごく喜ぶプランを用意したわ。もちろん二人きりで……」


「ちょっと一ノ瀬さん? 今日の放課後は“私が”良介くんと二人きりで過ごすんだけど?」


「は? そんなの知らないわよ乳牛。あなたは委員長の仕事で忙しいでしょ?」


「別に放課後は仕事ないし! あと、私のこと乳牛って言わないで!!!」


「そうね、これから言わないでおくわ。ごめんなさいね“乳牛”」


「っ!!! 一ノ瀬さん⁉」


「あははは……」


 本当にやめてほしい。

 俺を挟んで争うのも、目立つ朝の廊下で俺に密着するのも。

 

「おいあれ」

「九条だ」

「あれが噂の……」

「マジで一ノ瀬と花野井侍らせてんじゃん」


 別に侍らせてないから。

 でもただの男子生徒が美少女四天王二人に抱き着かれながら登校するというのは、注目を集めても仕方がないと思う。

 

 以前ならただの陰キャが……と反感を買っていただろう。

 しかし、体育祭後の今は少し反応が違った。


「あいつだろ? リレーで全員抜きした奴」

「須藤にも勝ってたよな?」

「マジで何者?」

「ってかそもそもあの二人に好かれてる時点でただ者じゃないだろ」

「あの感じで……普通に怖いわ」


 やはりあの組対抗リレーはかなり反響があった。

 おかげで今の俺の地位はただのクソ陰キャからよくわからないクソ陰キャにグレードアップしている。

 それがアップなのかはさておき。


「で、どうなの? 今日の放課後、どっちと過ごすのよ」


「私だよね? 絶対私の方が楽しませるよ!!!」


「ごめん、今日は店の手伝いがあるんだ」


 基本、平日は手伝わなければいけない。

 従業員もほとんどいないし。

 ま、こずえが採用しようとしてないのが悪いんだけど。


「店の手伝いって、スナックよね?」


「あぁ、こず……母さんの店なんだけど」


「スナック⁉ すごい! 私行ったことない!」


「ちなみに私は行ったことあるわ」


 一ノ瀬が自慢気に言う。


「えぇ⁉ そ、そうなの⁉」


「行ったというか、一ノ瀬が俺の家までついてきて……中には入れなかったけど」


「入ってないじゃん!!!」


 花野井の鋭い指摘に、一ノ瀬が拗ねたように頬を膨らませる。


「……外観は見たし。あなたよりは一歩リードだわ」


「た、確かに!」


 どんな小競り合いしてるんだよ。

 そうこうしているうちに、教室までたどり着いた。


「花野井さんおはよ~」


「みんなおはよ~!!!」


 花野井が俺から離れ、クラスメイトの輪の中に溶け込んでいく。

 体育祭の時は疑惑をかけられたものの、あの時真実が明らかになったおかげで花野井に悪影響は残らなかった。


 おかげで今まで通り、誰からも信頼される人気者として過ごしている。


「そういえば、あの人たちは来てないわね」


 一ノ瀬が目を向けるのは、“三つ”の空席。


「先生から聞いた話だと、停学になったらしい」


「停学? あんなことしておいてそれで済んだの?」


「坂東先輩が大事にしたくないって言ったらしいな。幸い足の怪我もすぐに治ったみたいだし」


「世の中には優しい人もいるものね。私だったら徹底的に潰すけど」


「あはは……」


 やっぱり一ノ瀬は敵に回したくない。

 

 ちなみに、千葉は一か月。

 佐藤と橋本は二週間の停学になったらしい。

 ただ停学以上にあの件は学校中に知れ渡っており、停学が明けても千葉たちに平穏は訪れないだろう。


 実際、体育祭が終わって数日が経った今でも千葉たちの悪口を耳にする。

 千葉たちの評価は全校生徒に共通してどん底に落ちたと言っていいだろう。


 ただ、千葉たちはそれだけのことをした。

 だって無実の花野井がそうなる可能性があったのだ。

 だから可哀そうとか、やりすぎだなんて思わない。

 これが要するに、当然の報いってやつだ。


 一ノ瀬と別れ、各々席に座る。

 すると教室後方の扉付近が騒がしくなった。


「あ、須藤くん!」

「おはよう!」

「今日もかっこいいな!」


 クラスメイトがわらわらと集まってくる。

 その中心で、須藤は今日も爽やかな笑みを浮かべた。


「あははっ、おはよう。みんな」


 リレーで俺に負けた須藤だが、それだけで須藤の地位が揺らぐことはなかった。

 やはり積み上げてきたものが違うらしい。

 そして、あの裏の顔がバレる様子もなかった。

 あれだけ取り乱してたというのに……さすがというべきか。


「おはよう、雫」


「…………」


 一ノ瀬に挨拶するも、当然無視。

 しかし、須藤は気にも留めない様子で自席に向かっていく。

 その途中。俺の席を通りかかるとき、



「九条もおはよう。いい朝だな」



 さらりと言って、自席に座った。

 そしてすぐに生徒たちが集まってくる。

 

 ……やはり須藤は恐ろしい。

 ただまぁ、別に気にはしないけど。





     ♦ ♦ ♦





 ※須藤北斗視点



 一時間目が終わり。


「ごめん宮子、弥生。ちょっとトイレ行ってくるよ」


「おっけー」


「行ってらっしゃい~」


 二人に見送られ、教室から離れたトイレに向かう。

 人一人として来ないだろう、旧校舎の個室トイレ。

 俺は一人そこに入り、扉をぱたんと閉めた。


「…………ふぅ」


 クソガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 ふざけんなふざけんなァッ!!!!


 九条の奴、今日も雫と彩花を侍らせやがって……!!!

 クソッ! クソクソクソッ!!!!

 

「収まんねぇ……!」


 イライラが収まらない。

 俺にこんな屈辱を合わせたあいつが、のうのうとしているのが許せない!

 俺からあれだけのものを奪っておいて……!!


「ぶっ潰してやる……ぶっ潰してやる……ッ!!!!」


 九条良介……俺に盾突いたこと、絶対後悔させてやるからなァッ……!!!!!


 クソヤロォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!





     ♦ ♦ ♦





「……九条、良介」


「ん? どした?」


「ううん。なんでもないよ~」


 





―――あとがき―――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

次回より、新章突入です!

また一段ギアが上がり、より面白くなってきますのでお楽しみに……!


そして次回は、まさかの……!!!

乞うご期待ください!


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感想もドシドシお待ちしております!

よろしくお願いいたします(o^―^o)ニコ



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