第20話 九条VS須藤②
須藤が先にバトンを受け取る。
「「「「「きゃーーーーーーっ!!!!!」」」」」
その瞬間、今日一番の歓声が響いた。
それもいわゆる黄色い歓声。
「頼んだ!!!」
しばらくして、前のランナーからバトンを受け取る。
すぐに前を向き、勢いよく地面を蹴る。
10メートルほど前に混戦状態の四組。
しかし、独走状態にある須藤はすでに最初のコーナーを曲がり切っており、その差はおよそ30メートル。
「――いける」
腕も使ってさらに加速し、風を切る。
その差を徐々に縮めていく。
「っ⁉ なんだこいつ!」
「嘘だろ⁉ さっきまであんなに差があったのに!」
「早すぎんだろ!!!」
「化け物か⁉」
猛追する俺を見て驚くアンカーたち。
そして俺は四組を抜き去った。
「「「「「「「ッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
校庭の熱気がより高まる。
そのまま加速しつつ、須藤の後を追う。
「っ⁉」
コーナーを曲がり切って、思わず驚いた。
なぜなら須藤との距離が“あまりにも”縮まっていたから。
……そういうことか。
俺はかまわず、スピードを上げる。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
バトンを受け取り、走り出す。
リードは十分すぎるほどある。
このままいけば俺の勝ちは間違いない。
……でも、そんなの面白くねぇだろwww
俺はこいつを正面から叩き潰したい。
でもこのままだとリードのおかげで勝ったと思われてしまう。
それにそうあいつに思われることも気に食わねぇ。
いや別に圧倒的大差をつけて勝ってもいいんだけど、それだと見る側も面白くないだろ。
だから俺は“あえて”速度を落とした。
俺は須藤北斗。演出もできるんだよなぁwww
さっきチラッとゴール付近に雫や彩花、それに宮子と弥生がいるのが見えた。
俺がここでこの陰キャにより圧倒的大差をつけて勝利。
こりゃ惚れ直すどころの騒ぎじゃねぇだろwww
それに、一度期待させた方がボロ勝ちされたときあいつのダメージはデカそうだなwww
ま、あの差だと期待すらできないかもだけどwwww
アハハハハハッ!!!! やっぱり俺天才だわwww
全部が見えすぎてる。見えまくってる!!!
この世は俺の思い通り。
全校生徒の前で俺という存在のデカさを教え込んでやるよwww
目に焼き付けろ、クソ陰キャやろ――
「……え?」
♦ ♦ ♦
須藤の背中を猛スピードで追う。
そして一瞬、須藤が俺の方を見た。
その隙を見逃さず、一瞬で須藤に並び立つ。
すると諦めかけていた赤組の生徒含め、校庭がどよめいた。
注目が集まっているのを感じる。
「なんでお前がァッ⁉」
驚き、そして焦ったように前を向いてスピードを上げる。
みるみるうちに速度は上がり、二つ目のコーナーを曲がるころには少し差が開いてしまった。
……なるほど、確かに速い。
が、しかし。
「これならひったくりの方が速かったな」
俺はさらに加速する。
そしてあっという間に須藤に並んだ。
「っ⁉」
横に並んだ俺を見て、須藤が驚く。
そのままの状態で並走し、三つ目のコーナーへ。
そこで俺は須藤の前に出た。
「「「「「うぉおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」」」
割れんばかりの歓声が聞こえてくる。
そのリードを生かし、須藤よりも先に最後のコーナーに差し掛かる。
須藤は俺の少し後ろ。言われるだけあって、やはり速い。
――だが、ここで勝負は終わりだ。
速度を落とさず、コーナーを曲がる。
須藤は出遅れ、差が開く。
そのままの勢いで引きちぎろうと思った――その瞬間。
「ッ!!!!」
須藤の足が俺の足にかかる。
間違いない。
このタイミングは故意的なものだ。
明確に転ばせようとする意志を感じた。
――しかし。
「九条くんッ!!!!」
花野井の声が聞こえてくる。
視界にちらりと映る、必死な花野井の顔。
大丈夫だ、花野井。
――これも全部、予想通りだ。
「っ⁉⁉⁉」
少しふらつくも、すぐに立て直してコーナーを曲がり切る。
俺は須藤の汚い手も予測していた。
すべてを想定したうえで、絶対に勝てるように計画していた。
だからこんなの――俺には意味ないことだ。
そして最後の直線、俺は自滅してふらつき出遅れた須藤からさらに差をつけていった。
強く地面を蹴る。風を切っていく。
もっとスピードは上がっていく。
「九条くんッ!!!!」
「来てっ!!!!」
一ノ瀬と花野井の顔が、ゴールテープの向こうに見える。
俺はさらに加速し、そして――
「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」」」」」
地面が揺れるほどの歓声が響き渡る。
俺は圧倒的差をつけてゴールテープを一番に切った。
「九条くんっ!!!」
一ノ瀬が一目散に駆け付ける。
そして息を切らす俺に抱き着いてきた。
「やっぱりあなたは最高だわ! 最高にカッコいいわ!」
「ありがとう。でも今疲れてて……」
「信じてたの! 私信じてたわ!」
「わかったから」
今は休ませてくれ……。
「すごいよ九条くん!!!」
花野井も興奮した様子でやってくる。
「私、私……!」
花野井の顔には笑顔が浮かんでいた。
いつも通りの元気さがにじみ出た笑顔。
そんな花野井の姿に安心して、俺は思わず本音をこぼしていた。
「あはは、よかった」
「ッ!!!!!!!!!!」
花野井の顔が真っ赤に染まる。
「九条くん! 痛いところはない⁉ 私が舐めてあげるわ!!!」
「傷口じゃないんだから……」
「右膝ね、わかったわ!」
「言ってないから」
一ノ瀬に頬をすりすりされる。
その間も、ずっと歓声が響き渡っていた。
『勝者、赤組! そして総合優勝は――赤組!!!!』
放送に、さらに熱気が増す。
こうして、勝負は終わった。
俺の……いや、俺たちの勝利だ。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ようやくゴールテープを切る。
目の前にはすでにゴールした九条が雫に抱き着かれ、そこには彩花もいた。
手が震える。
視界がブレる。
嘘、だろ?
俺が負けた?
俺が九条に負けた……?
感じたことのない感情が沸々と沸き起こってくる。
体が、心がコントロールを失っていく。
ありえねぇ、ありえねぇ……ありえねぇッ!
「ッ! クソがァッ!!!!!」
拳を握りしめる。
「ほ、北斗?」
「ハッ! み、宮子。弥生……」
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